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メスの中のメス



鏡には白い少女の裸体が写っている。

幼く見える私だが、脱いでみると結構ちゃんと女の子の体をしている。

細いけど肋骨が浮いているようなことはない。

ちゃんとお肉がついた体。

丸いお尻。くびれもしっかりあるし、胸も小さいけどある。

つるつるした陶器みたいな肌には産毛すら生えていない。

生えてるのは尻尾の部分だけだ。


これが私の体だ。

正直なところ、とても魅力的だと思う。

もし″俺″がゲームのキャラで理想の女の子を作ったらこうなるだろう。

自分が自分の理想の女の子なのである。

前世の記憶を思い出した直後は自分の中に制御できないもう一人の心があるようで手を焼いたが、それもほとんどなくなった。

″俺″の記憶とそこから来る感情はどうやら大体収まるところに収まったようだ。

多重人格などという大層なものではない。

過去の自分と今の自分、男っぽい部分と女っぽい部分、それだけの事である。

私は鏡に向かって笑顔になってみた。



「むふ」

「トモシビ様、どうなさいました?」

「なんでもない」



クロエの差し出す下着を着けていく。

ちょっと高級なやつだ。

……可愛い。似合ってる。

私の気分が少し高揚した。

私は一応、健康な女子であるので性的興奮を覚えることもある。

が、それは前世の頃と比べるととても薄くて曖昧なものだ。

もし″俺″そのままならこの体に興奮するかもしれないが……私はどうだろうか?

もしかしたら、頑張って妄想すれば興奮するかもしれない。

でも今の私の興味はそういう事にはない。

私はこの理想の体を飾り立てるのが好きなのだ。

可愛い服を着て、可愛い髪型をして、そしてその可愛い私を皆に見てもらいたいのである。



「ではお嬢様、お召し物を」

「あれ? 今日は制服じゃないんですか?」

「今日は、吸血姫モードでいくから」



私はなるべく高飛車な感じで髪をさらりと払った。

今日は部活で遠出するのだ。







マンティコアの馬車が草原を走る。

私の飼っている4頭のマンティコアはこの仕事をやらせてから飛躍的に持久力が付いてきた。

魔導院の飼育場でこっそりトレーニングでもしてたのだろうか。

今では普通の馬を超える持久力とチーター以上のスピードを兼ね備えた不思議ライオンになってしまった。

元々、静かな魔物なので振動にも気を使ってくれているらしく馬車は快適そのものだ。



「オユがリーダーなのかな。ペースを決めてるのはこの子みたい」



と、御者席に座るアスカが言った。



「よく見分けがつきますね。トモシビ様に言われても私には全然です」

「顔が違うんだよ。オユは透明感のある顔してる」



この顔の違いは誰に見せてもピンとこなかったのだが……さすがにアスカは変な生物を多数飼ってるだけのことはある。


今、私達は王都から北に向けて街道を疾走している。

目的地はノースドリアという村だ。

なんでも、近くの山の山頂付近に空飛ぶ魚の魔物が巣を作っているらしい。

それを狩るのが今回の部活で私達に下された依頼である。

今回は全体行動ではなく班ごとに別々の依頼を振られているので、メンバーは女子グループとアスカだけだ。



「あんたさ、今日……」

「なに?」

「う」



私が彼女に視線を投げるとアスカは身を引いた。



「なんでそんなにキョドってるんですか?」

「だって、流し目してくるんだよ……」



アスカはなるべく私を見ないようにして答えた。

今日の私は一味違うのだ。

皆が普通の制服を来ているにも関わらず、私一人だけ豪華バージョンの正装を着ているのである。

アルグレオ使者とのパーティーで着用したやつだ。

頭には赤黒のコサージュ、靴はヒールのブーツ、そして胸元には臨時騎士団員のバッジが光る。

およそ魔物退治に行く服装ではない。



「わかるわー綺麗すぎて怖いよね」

「あーしらも最初はそんな感じだったかんね」

「アスカ」



私はアスカに手を伸ばした。顔をひきつらせる彼女のアゴをクイっと持ち上げる。



「ひっ……」

「今日の私は、聖なる真祖のヴァンパイア姫騎士」

「ま、混ざりすぎだし」



彼女の顔が目に見えてわかるほど赤くなっている。

楽しい。

アスラームに操を立てているアスカですらこうだ。

私は私の容姿でもって他人を魅了するのが大好きだ。男女関係なくファンが増えたら幸せだし、こんな風に照れさせたり誘惑したりするのが楽しくて仕方ない。

変態に狙われようと、拉致監禁されかけようとやめられないのだ。



「……ところでアスカさんはこの依頼の事、聞いてるのかしら?」

「あ、ええと魚の浮遊器官採取って……」

「分かっていると思うけど他言無用ですわよ」

「他人に漏らそうものならそれなりの覚悟をして頂きますよ」



メイの本気か冗談か分からない脅しを受けて、アスカは顔に若干の恐怖の色を浮かべた。

この依頼は実は魔導院から私に名指しで送られたものだ。

それを部活でたまたま私達が担当したという形にカモフラージュしているのだ。

スパイ対策なのだろう。

と、いうのは、その空飛ぶ魚の浮遊器官は飛行船(仮)に組み込むつもりらしいのだ。

飛行船を浮かせるには私のスカイドライブ一つでは足りないので補助的な器官がいる。

それを今集めているのだ。

秘密裏に進められているプロジェクトであるため、末端に依頼するわけにもいかず私達に振られたというわけだ。



「それでなんでこいつがこんな格好してるの?」

「任務を円滑に進めるため、ですわね」



正確に言うなら、それは理由の半分である。

ちなみにもう半分はコスプレみたいで楽しいからだ。







やがて馬車はわりと大きな農村に到着した。

ここがノースドリアか。



「うわあ! 化け物だ!」

「子供を逃がせ!!」



駆け込んでくるマンティコアを見て村民が逃げた。



「ちょ、ちょっと! 騒ぎになってるんだけど!」

「そうなるだろうね……」

「首輪つけてるのに」

「首なんか見る余裕ないんじゃね?」

「まあ、これはこれで狙い通りですわね」



マンティコアは4頭とも首輪にネームプレートを付けてるのだ。名前を呼ぶと返事して、スリスリ甘えてくるので最近私もただの猫のような気がしてきた。


村民が農具を構えて威嚇する中、馬車から颯爽と降りる。

最初にアスカ、そして次々に女の子が降りてくるのを見て村人達の構える農具が徐々に下がっていく。

最後に私が銀髪をなびかせながら降りると、どよめきが起こった。

私の異様な服装のせいだろう。

謎の姫君の登場に農民達は目を奪われている。

私は彼らを余裕を持って見渡すと、玲瓏たる声で問うた。



「村長は?」

「私……です。ひょっとして依頼を受けて来られた……?」

「案内を」

「は、はいっ」



なんだこの人は、そんな声が聞こえてきそうな中を悠々と進む。


うまくいった。

なぜこんなことをしているのか?

舐められないようにだ。

こういう時、女子だけだと結構舐められるのである。

舐められるだけならまだしも、普段のキャイキャイした感じで行くとガッカリされて心配されて、お説教までされたりしかねない。

空飛ぶ魔物なんて冒険者でも手に負えないような強敵が多いのだ。

女子中学生みたいな私達が来て誰が安心するだろうか。

そんなわけで最初に衝撃を与えて、なんだか凄そうに見せようと思ったのである。







「汚いところですが」

「かまわない」



村長の家はまあまあ汚かった。

粗末な椅子に私たちが座ると彼は話を始めた。


なんでも少し前からこの辺りに空飛ぶエイのような魔物が現れるようになったらしい。

その手の魔物はたまに出る。

そのうち何処かへ行くだろうと考えていたのだが、先日魔物が編隊で飛んでいるのを目撃したと言う。



「つまり近くで繁殖しているとではないかということですね?」

「ええ、大事になる前に退治できればと……そう思って騎士団に連絡を取ったのです」



そうしたら私達が来た、と。

ファーストコンタクトで威嚇して正解だった。



「やつらはいつも近くの森の上空を飛び回っております。巣を探し出して卵ごと根絶やしにして頂きたい」

「あ、エイは卵産まないやつかも。調べた方がいいよ」

「そうなのですか、詳しいのですな」

「彼女は専門家。私のお抱え研究者」

「はあ……ところで貴女様は一体……」

「私は……」



……姫騎士ヴァンパイアの……なんだっけ?

私はエステレアに目配せした。



「この方こそ魔神殺しの英雄、トモシビ・セレストエイム様です」

「セレストエイムの……ああ、噂は聞いております」

「セレストエイム様のこと知ってんの?」

「闇を払い、この世に光を齎す救世主だとか。なるほど、輝くような美姫にあらせられる」



……なんの話だろう?

そこかしこで神だの魔王だの言われて何が何だか分からなくなってきた。

噂が一人歩きしてるのだろうか?

まあこの村長も納得しているようだし、悪い噂じゃないならべつに良い気がする。


とにかく、そんなに難しい依頼ではない。私達は話を切り上げて森へ向かうことにした。







古代から蘇った巨大生物みたいなライオンがのしのしと歩く。

リーダー格のオユである。

顔は見えないが心なしか足取りも軽く得意げに歩いている気がする。

たぶん私を背に乗せているからだろう。



「本当にあんたに懐いてるんだね、このマンティコア達。なんでだろ?」

「トモシビ様の雄度に惹かれたらしいわ」

「雄度……? メスじゃん」



女の子らしく優雅に横座りをする私を訝しげに見るアスカ。

アスカもマンティコアのミルクに乗せてもらっている。ただし、バイクみたいに跨る乗り方だ。

私はそんな可愛くない乗り方はしない。

ちゃんと足を揃えてお淑やかに座るのだ。



「メスの中のメスじゃん」

「お嬢様の中のお嬢様とお呼びしなさい」

「……トモシビの膨大な魔力のおかげでしょう。ワタシも魔物なので分かります」

「スライムも最初から懐いてたよね」



当時は分からなかったが、マンティコアが懐いたのはたぶん魔王と似た体質だからだろう。魔力の多さより質の問題だと思う。

緊張感なくグダグダ喋りながら歩いているとマンティコアの耳がピクピク動いた。

この反応は……フェリスが敵を見つけた時に似てる。



「トモシビちゃん、上」

「ひっ……」



アスカが短く悲鳴をあげた。

黒い凧みたいな影が木々の合間を横切った。

彼女以外の皆が武器を抜いた。

一気に戦闘モードに変わる。

私もだ。

すぐに戦うための思考になる。

私の中の男っぽい部分が久々の普通の魔物との戦いに高揚している。



今回で100話になりました!全て見てくれる方のおかげです!


あと地味にブックマークも500達成です。某所で紹介して頂いた方にはもはやどう感謝していいのか分かりません。本当にありがとうございます!


最近書くの遅くてあれなのですが、良ければこれからもよろしくお願いします。


※次回更新は3月26日木曜日になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] おぉ、ついに3桁話数ですか。これからもトモシビ様のこと応援しています!!
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