変身、ジャスティスマン!-ただし公衆電話ボックスが必要です-
説明しよう!近藤タケシは改造人間である。
悪の組織に誘拐され、改造されたが正義の心を失うことはなかった。
何とか組織を脱出した近藤タケシは『ジャスティスマン』と名乗り正義の為に戦うことを決意した。
戦え!近藤タケシ。 負けるな!ジャスティスマン。
「変身‼」
「いやだ」
近藤が不機嫌そうな声に振り返ると、声の主はこちらに目を合わせようともせずタバコを吸っていた。
顔こそ見えないが背を向けてタバコを吸っているその姿からはいつもとは違う不満そうな空気がありありと出ている。
「――タロウ。今なんて言った?」
「……」
「おいおい、どうしたんだ一体?」
「……」
タロウと呼ばれた男は近藤の言葉を無視してタバコを吸い続けている。
「どうしたんだよぉ『怪人公衆電話男』」
「怪人ネームで呼んでんじゃねえよ‼」
男は大声を上げて、近藤へと振り返った。どうやら彼の怒りのポイントらしい。
振り返ったその顔はよく言えば人のよさそうな、悪く言えばどこにでもいる地味な顔立ちをしていた。
「頼むよタロウー。ここらへん電話ボックスないんだよ。お前が手伝ってくれなきゃ変身できないじゃん」
説明しよう!
実は近藤タケシは公衆電話ボックスの中でしか変身する事ができない。しかし、今の世の中で公衆電話。しかもボックスタイプの公衆電話を探すのは至難のわざなのである!
しかし!組織から共に脱出した『怪人公衆電話男』の協力があればいつでもどこでも変身することができるのだっ!
「なぁ頼むよー。怪人がもうすぐそこまで来てるんだって。このままじゃ町が破壊されちゃうよ?
なにが不満かは知らないけど、頼むからはっきり言ってくれって。もう時間がないんだってー」
「……映画見たよ」
ポツリと呟くタロウの言葉に空気が凍り付いた。冷や汗が近藤の顔をツーと流れて落ちる。
『ジャスティスマン The ムービー』
『孤高の英雄ジャスティスマン』を主人公としたヒーロー映画である。恋愛要素有り戦闘シーン有りのこの映画は、実際のヒーローが主演するということも手伝ってかなりの注目を集めていた。しかし、この映画で近藤が演じるジャスティスマンには変身シーンがない。つまりタロウは本人どころか役としてすら存在していなかったのだ。
「――いや、俺だって提案しようと思ったよ。でもさぁ、変身に電話ボックスがいるってのは俺にとって最大の弱点なわけで。それに気が付かれたらどうなる。お前だって困るだろ?変身中はお前だって自由に動き回れないんだしさ」
「ふっ、心配してくれたわけだ。お礼でも言えばいいのか?分かってるんだよ。お前が俺のことをどう思っているかなんてな!結局お前にとって俺は相棒じゃない。所詮その辺にある普通の電話ボックスと一緒……」
タロウの捨て鉢な声を遮るように近藤は大声を張り上げた。
「そんなわけないっ!お前は俺の相棒に決まってるだろ!
俺だって変身ができなけりゃ、その辺にいる普通の男だ。――お前がいなけりゃダメなんだ。みんなは俺の事をヒーローだっていうけど、俺にとってのヒーローはお前だ。俺を助けてくれるのはお前だけなんだよ。なぁ頼むタロウ。また俺を助けてくれ!」
そう言って勢いよく頭を下げる近藤の姿は頑固になっていたタロウの心を大いに揺らした。
いや、信じるなタロウ。あいつは人たらしの天才だ。どうせ他のヤツにだって同じようなことを言ってるに違いない。
――しかし、頭まで下げたこいつを無視して良いのだろうか……。
頭の中を意見がグルグルと回り続けた結果、結局タロウは折れた。彼だって悪人ではない、怪人なだけなのだ。
「チッ、わかったよタケシ。ただし一つ条件だ。無事にこの戦いが終わったら、一杯おごれよな。映画で多少は金が入ったんだろ」
タロウの言葉にタケシが慌てて頭を上げるとそこに彼の姿はなく、代わりに立派な電話ボックスが一台立っていた。
ケーブルでつながれた緑色のボディと受話器。そしてその本体を守るように取っ手のついた透明なアクリルボックスが全体をカバーしている。これこそが『怪人公衆電話男』の真の姿である。
「ありがとうタロウ。約束は必ず守る。良い店を、予約しておくよ」
そう力強く宣言したタケシは、電話ボックスのトビラをスムーズに開き、受話器を上げてダイヤルボタンを押した。
「――もしもし、居酒屋の鳥よしサンですか?今日2名で予約したいんですけど……」
「普通に使ってんじゃねえよ!」
戦えジャスティスマン。負けるな公衆電話男。正義が勝つその日まで!