凄腕特殊工作部隊? 『砦落とし』
「・・・って、メルクの。それアレな? 都市伝説的なやつ。別に、俺が好き好んでどこぞの砦やなんかを落として回ってるワケじゃねーからな」
「都市伝説、ですか」
『砦落とし』それは――――世界各地の軍事施設に現れ、突如としてその施設を機能不全へと陥れる謎の特殊工作部隊のことを言う。その規模、人数、国籍、所属国諸々が正体不明とされ、各国の軍事関係者達を戦慄させているという。
噂では、どこの国にも所属しない凄腕傭兵部隊が依頼料次第で、世界各地の砦を任意で落として回っているのではないか? と、言われている。
もしくは、『誰か』の依頼などではなく、どこの国にも所属しない凄腕傭兵部隊が、愉快犯的に世界各地の軍事施設を機能不全へと陥れているのではないか? と。
はたまた、『軍』という存在に憎悪を抱いている集団が、世界各地の軍事施設を狙っているのだ、と。
『砦落とし』に狙われた軍事施設は、逃れることができない。なぜなら、落とされて機能不全に陥ってから初めて、『砦落とし』が現れたのだと知ることになるのだから――――
そして、『砦落とし』に落とされた後の軍事施設は、不思議なことに、士気が著しく落ちるという。
その原因について、関係者達は固く口を噤んで誰一人として語ろうとしない。
以上のことから、『砦落とし』が如何に世界の軍事関係者達から恐れられているかが判るだろう。
「まぁ、知ってますよ。別に、グラジオラス辺境伯領自体が、どこぞの軍事施設を狙ってるワケでもなし。というか、あなたが『砦落とし』と称されるようになった経緯を知れば、笑い話でしかないでしょう」
『砦落とし』、その真相は――――
最初にヒースが勤めた軍事施設でのこと。
ヒースが辞めようとしたのを、軍関係者達が無理矢理引き止めようとした。しかし、ヒースはどんな場所でも生き残れるよう、逃げ出せるように道化に鍛え上げられた最強の料理人だった。
それを知らない軍人達は、ヒース(※遊びの師匠は道化)を追い回し・・・たかがヒース一人にいいように遊ばれた結果、その軍事施設が機能不全に陥ってしまった。
その、機能不全へ陥った原因を、「辞めたいという料理人一人を追い掛け回して、気付いたら砦が・・・」なんてことを上層部や他の軍事施設へ正直に報告できるワケがなく、どこぞの正体不明の工作員に砦へ破壊工作が仕掛けられたと吹聴した。
そしてヒースが、別の軍事施設へ勤め、またもや無理矢理引き留めに合い、遊びながら逃げ出した結果、その軍事施設も機能不全へ陥った。そこの軍関係者もまた、原因を正直に報告できず――――
ヒースがそんなことを世界各地で幾度も繰り返しているうちに、『砦落とし』なる凄腕特殊工作部隊という都市伝説が一人歩きして行った。
それが、『砦落とし』の真相だったりする。
実際は、ヒースがほぼ個人的(メルク商会や梟達は頼まれれば、食材や逃走ルートの確保はするが)に軍人達と遊んでいるだけなのだが・・・
なにも、ヒースとて好き好んで、軍事施設を機能不全へ追い込んでいるワケではなく、追い掛け回されたヒースが、逃げ隠れしながら遊んでいる(追い掛けて来る連中の心を折ったりなども含む)うち、結果的に軍事施設の機能が回らなくなってしまうだけのこと。
あとは、大勢で寄って集ってたった一人の料理人を捕らえることもできず、いいように遊ばれ、自信喪失。士気低下。更には、軍人各々の出身地の郷土料理が食べられなくなった結果のホームシックで、砦の兵士達が減ったりするなどもしているのだが・・・それらはあくまで、ヒースが故意に引き起こしたことではない。
辞めたいというヒースを引き留めることなく、追い掛け回すことなく、すんなりと辞めさせてくれた軍事施設に、『砦落とし』が出ることは無い。
しかし、ヒースが一度も行ったことの無い軍事施設に、『砦落とし』が出たという話も沢山ある。
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「そしてヒースさんは、どこかへ行きました」
報告書を受け取った女性は、苦笑する。
「成る程。ヒースは元気にしているようですね。それはいいことなのですが・・・歳も歳なので、あまり無茶をしなければいいのですけど。それにしても、『エリック』、『ヘザー』、『ハイデ』、ですか」
「? ヒースさんがよく使う偽名ですよね? それがどうかしましたか?」
「いいえ。なんでもありませんよ。ありがとうございました、ディル。では、また」
「はい。失礼致します」
ディルが退出した部屋で、女性は呟く。
「ヒース。エリック…エリカ。ヘザー。ハイデ」
『エリック』は『エリカ』の男名で・・・『エリカ』は、ヒースの母親の名前。
『ヘザー』は祖父の名前。
『ハイデ』は父の名前。
ヒースが彼らの名前を使って放浪を続けるのは、まだ生きているかもしれない父に会いたいと思っているから、なのかもしれない。
どんなに可能性が低くても・・・
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「ヒースは、凄いですね」
「そうだねぇ・・・」
「わたしはてっきり、敵討ちをしたいと言い出すのかと思っていました。けれど・・・」
「ヒースが言ったのは、もう会えない人達へ料理を食べさせたい、だったねぇ。・・・復讐を望めば、手伝ってあげないこともなかったのに。全く眼中に無さそうだったね」
「ええ。本当に彼は、勁い子です」
「まぁ、ボクらがどう思おうと、ヒース本人がこれからを面白おかしく生きてける方がいいことさっ☆そうだろう? オリーちゃん」
「ええ。そうですね。道化様」
読んでくださり、ありがとうございました。
まぁ、ヒースは道化の弟子なので。(笑)
ちなみにですが、43話に割り込みで入れた、『弓矢の的は・・・』で、道化と会話しているのはヒースです。あっちでは名前出していませんが。