弓矢の的は・・・
割り込みました。
「・・・なぁ、あれ、あのままでいいのか?」
どことなく不満そうな問い掛けの声に、
「うん? なーんのことかにゃー?」
道化はニヤニヤと笑う。
「弓矢で狙てたってやつ。あれ、相当ビビってたんじゃないか? あの子」
「そんなこともあったねっ☆」
「いいのか? あの子、自分の命が狙われてたって思ってそうだけど」
「ふふんっ、別に全然、全く構わないさっ☆っていうか、ボクは確かにちみっ子に甘い・・・それはそれは、賢者の作るお菓子並みに甘い! けど、甘いばっかりじゃ馬鹿共に舐められちゃうじゃないですか! と、小言を食らっちゃったからねっ☆というワケで、ボクだって偶には、すっご~く厳しいところを見せ付けてやらねばならないのだよっ☆」
「そうかよ。まぁ、噂のお菓子はいつか食ってみたいけど・・・って、それはそれとして、弓矢で狙ってたのは、落ちないようにする為だって教えたげればいいのに」
アイザックを弓矢で狙わせていたのは、アイザックが落ちたときに、直ぐに助ける為だ。
アイザックの真下や、狙えれば服を射抜いて引っ掛けて城壁に縫い留める為。そうすれば、万が一落ちてしまったとしても、矢で城壁に引っ掛けられたアイザックを、道化が直ぐに回収に向かえば大丈夫……という予定だった。
最悪、それでアイザックの手足が射抜かれて怪我をしたとしても、命は助かるだろうから、落ちて死んでしまうよりはかなりマシだろう。手当ての用意も、医者の手配もちゃんとしてあったし。
まぁ・・・まかり間違えば、アイザックをそのまま射殺してしまっていたかもしれないし、そもそも石造りの城壁をクライム中の、落ちる(かもしれない)子供を怪我させないよう衣服を狙って城壁に矢で縫い留めろだなんて、大分…いや、かなり頭のおかしいイカれた指示だと言えるのだが・・・
さすが武門のグラジオラスと言ったところで、そういう繊細且つ大胆な射撃ができると豪語する人がいた。それも、複数人。
そんな弓矢のプロフェッショナルな彼らは、朝っぱらから夕方まで、アイザックがえっちらおっちら城壁を登るのを、数時間毎に交代しながら待機していたそうだ。アイザックへと矢を向けながら。もしもそれができると言ったのが一人だったなら、非常に困難な指示となっていたことだろう。
「それに、上まで登らせてやったのも・・・」
実は、アイザックが低い位置にいる間に、ぶん殴ってでもあの子供を城壁から引っ剥がして、しこたま説教すべきだと言っていた城の者達を押し留め、アイザックにグラジオラス城砦のクライム制覇させたのは道化だ。
そして、その後城の住人達からあれこれと苦言を呈されていた。まぁ、「面白そうだから手出し無用♪なにかあるまで見てることっ☆」と、ニヤニヤ笑いながら命令したのだから、道化のお目付け役の者達が怒るのも仕方ないとは思うが・・・
それなのにアイザックは、道化に命を狙われていたと思って、道化を怖がっている。
「いいんだよ。ああいう、怖いモノ知らずのアホの子はね、少しくらい怖い思いを知るべきなんだよ。そうじゃないと・・・」
「そうじゃないと?」
「命が幾らあっても足りないような、脳足りんで、酷く無謀な大馬鹿野郎になっちゃったりするからねぇ・・・」
珍しく、どこか物悲しい響きを含んだ可愛らしい声が言った。
「だから、ボクは・・・アイザックに厳しく、そしてビシバシ鍛えようと思うのだよっ☆」
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