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外交官マーノの場合。中

 ちょっと加筆しました。

『マーノちゃんへ。


 ごめんねー?


 君に不快な思いさせちゃうかも・・・


 その場合は君の好きに処理してOKさ!


 ボクが許可しちゃう♥️

 責任もちゃ~んと取ってあげるからねっ!

 姫にも文句は言わせないゼ!

 だから安心したまえっ☆


 PS.君が元気そうで安心したよ。


 そして、面白く育ってて嬉しいなっ♪


 ベティちゃんと仲良しさんなのかにゃー?

 仲良きことは麗しきかな♥️


 ロッドも元気そうだねっ☆


 それじゃ、アデュー☆


 道化より。』


 数日前にこの手紙が回されて来て、王都で騒ぎあった。そのときから、マーノは覚悟していた。


「ありがとうございます。道化様・・・」


※※※※※※※※※※※※※※※


 フェルヴィ商会は六代続く老舗商会で、なかなかの富豪。三十年程前に男爵位を賜った。


 マグノリアは、その五代目当主で男爵位を授与したグレイワーズ・フェルヴィの娘として生まれた。


 マグノリアの母は産後の肥立ちが悪く、マグノリアを生んでから数年後に他界。


 グレイワーズ氏は、一人娘のマグノリアを大層可愛がり・・・計算、法律、外国語、経営学、交渉術などなど、商売のいろはを幼い頃から叩き込んだ。


 爵位と商会を継がせる自分の跡取りとして、女だからと手を抜くことは一切無く。

 男爵の地位と商会の財産を狙う者は多い。そんな連中へ、家や商会を乗っ取られることがないよう、マグノリアが自分で舵取りができるように、と。


 そんなマグノリアは父の期待に応え、めきめきと学習し、才媛と呼ばれる程に成長した。


 特に法律関係に強く、他国の法律も勉強して、その智識は父が舌を巻く程。

 外国へ買い付けに行くときには、父よりもマグノリアの方が取り引き先の契約に詳しくなり、「これでフェルヴィ家も安泰だ」と笑っていた。


 このときのマグノリアは、幸せに暮らしていた。


 とても幸せ、だった(・・・)


※※※※※※※※※※※※※※※


 そして、あの日が来た。


 マグノリアが十四歳のとき。


 父と二人で買い付けに行った帰り道。


 とある山間部で、事故に遭った。


 馬車が脱輪して横転。

 マグノリアと父は馬車から投げ出され、その衝撃に意識を失った。


 マグノリアが目を覚ましたときには、自分を抱えた父のグレイワーズは亡くなっていた。


 父が守ってくれたお陰で、酷い打ち身程度で済んだマグノリアは、痛む身体を押して助けを求めた。


 馬は逃げてしまったのか、いなかったので、持てるだけの荷物と食料を持ち、徒歩で山道を歩いた。


 このときのマグノリアは助けを呼びに行くことに夢中で、育ちの(・・・)良い(・・)お嬢様(・・・)が山道を歩けばどうなるか? というのを、完全に失念していた。


 そして、案の定・・・野盗に襲われた。


「へへっ、大人しくしろ」

「っ!? 嫌っ!? 離しなさっ」


 ふらふらと必死で山道を歩いていたマグノリアは、野盗達の格好の餌食だった。気が付けば数人の男達に囲まれ、組み敷かれていた。


「んむっ!? む~っ!?」


 あちこち痛むふらふらの身体で、組み敷く男達へ抵抗して声を張り上げるが、口を塞がれてしまい、声も封じられてしまった。


 それでも諦めて堪るかと足掻いていると、取り落とした荷物のなにかが手に触れた。マグノリアはそれを掴むと、自分を押さえる男へ突き立てた。


「ぐわっ!? この女っ!?」


 バシっ!? と、男へ顔を殴られて口の中に血の味が広がったそのときだった。


「フハハハハっ!? とう!」


 可愛らしい声が響き、マグノリアを押さえ付けていた男二人がいきなり吹っ飛んだ。


「うがっ!!」

「ぐほっ!?!?」

「な、なんだっ!?」

「ふっ、また、つまらぬモノを蹴ってしまったゼ・・・とか言いつつ、パーンチっ!」


 愉しげな声と共に、またまた男が吹っ飛ぶ。


「ぶへっ!?」


 と、フードの人物はシュタ! と謎のポーズを決めて胸を張った。


「ふっふ~ん! ボクの目が黒いうちは、悪事は絶対許さないっ☆食らえっ、必殺! ・・・必殺、必殺のぉ・・・? む~、必殺技は名前が難しいにゃー? 後で考えよっ☆とりあえず、寝てろやクズ野郎♪」


 呆気にとられて動けないでいる残りの男を、


「うぎゃっ!?」


 その人はバコーン! と殴って気絶させた。


「な~んてねっ☆そもそもボク金眼だしー? 瞳は元から黒くねーんだよ。単に手前ぇらが目障りだっただけさ。ボクが有罪と決めたら有罪なんだよ。後で地獄見せてやるから待ってろ、クズ共が・・・と、さてさて、無事かにゃー? お嬢さん☆」


 小柄なフードの人物が吐き捨て、次いでマグノリアへ視線を落とすと、ニヤリと手を差し伸べた。


「・・・」

「うにゅー? 怖い思いして放心かにゃー? もう大丈夫だよ。怖くない怖くない♪」


 よしよしという風に優しい手付きで頭を撫でられ、マグノリアは我に返って立ち上がる。幸い、服は少しはだけているが、破かれてはいない。


「ハッ! あ、ありがとうございました!」

「ふっふっふっ、さあ、お嬢さん! 存分に、このボクへ感謝するがいいさっ☆」


 その人はニヤニヤと笑ってマグノリアへ言い、


「そして、身ぐるみ剥ぐのを手伝いたまえ☆」


 野盗の身ぐるみを剥ぎにかかった。


「え・・・?」

「ほらほら、君もボクのお手伝いっ♪」

「あ、はい・・・」


 そして、手際よく野盗の身ぐるみを剥ぐと、その人は彼らの服を捲り、瓶と筆を取り出してペタペタとその肌になにかを書き始めた。


「Maledicit★《呪いあれ》 dolor enim~♪《痛みあれ》 tactus cutis curu~♪《皮膚気触(かぶ)れ》」


 何語か判らない歌を口ずさみながら。


「・・・あの、なにを?」

「ふっふっふっ、なにを隠そう、このボクは・・・実は呪いの道化(カース★クラウン)! だったのさっ☆」

呪いの道化(カース・クラウン)? 聞いたことありませんが・・・」

「だろうねー♪まあ、こういうことは結構前からしてるんだけど、呪いの道化(カース★クラウン)! を名乗り出したのはほんの三日前なのさ」

「三日前、ですか・・・」

「思い付いたのが三日前だから、まだまだ知名度が低くてねー? これから有名になってく筈さっ☆」


 その間も、その人はニヤニヤと(わら)いながら、男達の肌へなにかを書いて行く。


「Maledicit★《呪いあれ》 dolor enim~♪《痛みあれ》 tactus cutis curu~♪《皮膚気触(かぶ)れ》」

「その、一体なにを?」

「呪いを掛けているのだよっ★」

「呪い?」

「そう♪この、濃縮した上に色々とブレンドした※取り扱い厳重注意! な、特製★激(うるし)汁でねっ! 肌の強い人でも、十日は気触(かぶ)れ続けるよう研究を重ねた・・・ボクの、お・手・製♥️だよっ☆」

「・・・それは呪いではないのでは?」

「ふっふっふっ! と・こ・ろ・が♥️突然肌が気触れ、激しい痒みと痛みとを伴って赤黒く(ただ)れてなかなか治らない・・・それも、呪や怨という文字の形状にねっ★それが本人達にはサッパリ原因不明な場合、彼らはどういう風に思うんだろうねー?」

「・・・それならば確かに、呪われた。と、そう思うかもしれませんね」

「そうそう♪実は普通の野盗やなんかは、学が無い上に短絡的なお馬鹿さん共が多いからねー。十中八九、信じちゃうんだにゃー? ま、呪いなんて信じてなくても、痛くて痒いのが治らないと大変だしー? そして人間はね、自分が呪われた(・・・・)と自覚(・・・)したとき(・・・・)に呪われる(・・・・・)ものさ。実際に呪われていなくても、呪われるような覚えのある奴なんかは特に、ね? ・・・ふっふっふっ、思い込みってのは恐ろしいゼ★」


 その人はニヤニヤと愉しそうに笑う。


「・・・その、文字が読めないと、あまり意味がないのではありませんか?」


 農村部の識字率はそう高くはない。


「おおっ! ナイスなツッコミだねっ☆でも安心さっ☆親切にも(・・・・)数ヶ国語で書いておいたからねっ★どれかの文字はきっと読める奴がいる筈だよ♪野盗も群れているだろうからね? ふふっ・・・」


 クスクスと黒い笑みに、マグノリアは恐る恐る聞いてみた。


「・・・どういう意味、でしょうか?」

「うん? 野盗や海賊なんかは、なぜか存外迷信深い習性を持っているんだにゃー。そ・こ・へ、呪われた連中が帰って行くと・・・あっという間に村八分♪基本的に彼らは、はぐれ者同士という群れを作って暮らしているのさ。所詮人間は一人では生きて行けないからね。でも、その場所からも、更に追い出されちゃったら、どうなるのかにゃー?」


 可愛らしい声が、なかなかにエグいことを語る。


「罪を償って真っ当に生きる! ってのは、死刑確定じゃなければ・・・が、最低条件なのは勿論。心を入れ替えて人に交じろうにも、当然ながら元犯罪者ってのに、世間は厳しい。一度道を踏み外した人間が真っ当に生きるのは、酷く難しいことなんだにゃー。そうじゃなければあとはもう、世捨て人になるくらいしか選択肢が無いのさ。にゅふふっ、これでOKっ★さてさて、そろそろ場所を移動するよ。付いておいで? お嬢さん」


 いつの間にか筆や瓶が仕舞われており、すっと立ち上がったその人がマグノアへと手を差し出す。


「え?」

「少しは落ち着いたみたいだし、まずは君の怪我を手当てをしようじゃないか。あ、ちなみにボクは、生物学的には一応女だから安心したまえっ☆事情は手当てをしながら聞いてあげるさっ☆」

「あなたは一体・・・」

「ボクは道化って呼ばれてるのさっ☆道化さんでも道化サマでも、道化ちゃんでも好きに呼ぶといいよ♪そして、これは君のかな? 一応血は拭いておいたよ」


 彼女が差し出したのは、マグノリアの父が愛用していた万年筆だった。さっき、野盗へ襲われたときに無我夢中で掴んだのは・・・

 力一杯男へ突き刺したせいで筆先がひしゃげて潰れてしまった父の形見を、


「っ! ありがとう、ございますっ…パパ…」


 マグノリアは溢れる涙のままに受け取った。父がまだ、守ってくれているような気がして・・・


 事故に遭って父が亡くなり、野盗に襲われた日。マグノリアは、道化と出逢った。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 道化が・・・イイ性格してます。

 そして、ボクっ娘?というやつです。

 ちなみにあれは、ラテン語です。

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