クラウン・ラプソディー♪後日談。
道化からの手紙を開封して二日後。
コンコンと響くノックの音。
「姫様、失礼します」
低い声に姫が答えると、
「入れ」
執務室へやって来たのはロディウス。
「早速ですが、報告させて頂きます」
「ああ」
「では・・・」
と、ロディウスは報告書を手に、王立騎士団を襲った数々の事件を列挙して行く。
1.大量捨て子猫事件。
結果。騎士団内部で、動物好き派と動物嫌い派の間に生じた微妙な軋轢。及び、鬼教官の鬼の霍乱。
2.絵本読み聞かせ。
結果。単身赴任中の子持ち騎士達の帰省。
一部騎士が絵本作家になるなどの世迷言。
3.ペット自慢大会。
結果。騎士達の怪我。
そして、動物嫌いの悪化。
及び、騎士達の逆玉の輿断念。
4.王都心霊スポット巡り。
結果。貴族令息及び、一部騎士へダメージ。
特に頭髪は回復までに時間が・・・
5.領地持ちの貴族夫人方に拠る王立騎士団アイラ見学ツアー。
結果。騎士団内の軋轢悪化。
及び、一部領地持ちの貴族の帰省。
「…………ということがあったようです」
報告を聞いた姫は、深い溜息を吐く。
「・・・全く、相変わらず巫山戯た奴だ。しかし、それは全て、表向きの出来事だろう?」
「はい。ここからが本題となります」
1.大量捨て子猫事件の裏側。
鬼教官が小動物好きだということが発覚し、一部騎士に舐められ、指揮系統の混乱が生じた。
追記、鬼教官へ舐めた態度を取った騎士はその後、心霊スポット巡りにて酷い風邪を貰い、指揮系統の混乱は一時的なものとなった。
2.絵本の読み聞かせの裏側。
単身赴任中の子持ち騎士達の帰省申し込みラッシュ。そして、帰省した騎士の中には、そのまま里心がついてしまい、一部が王立騎士団を辞任。
3.ペット自慢大会の裏側。
危険なペットの一部が、密輸入取り締まり法違反に拠り、そのペットの持ち主の貴族達の一斉検挙。または罰則金の徴収。及び、売買経路の捜査。
一部貴族及び、商家の芋づる式の転落と没落。
4.王都心霊スポット巡りの裏側。
特に無し。
強いて言うなら、傲慢で横暴な貴族令息及び、騎士の炙り出しに成功。
おそらくは主催した令息の趣味。
道化様も、あの二ヶ所が選ばれるとは思っていなかったとのこと。
追記。不思議と、あの屋敷跡で貰った酷い風邪は他人へ移ることがないので、王都で質の悪い風邪が流行ることはないとのこと。
5.領地持ちの貴族夫人方に拠る王立騎士団アイラ見学ツアーの裏側。
領地から単身赴任中の貴族の下へ、その夫人方の突発的襲来。浮気やら、不始末が続々発覚。
そして、色々やらかしていた貴族は夫人へ連れられ、領地へ帰省。一部では世代交代も確認された。
「…………以上です。総括すると、後ろ暗いことのある中央貴族及び、取り引きのあった連中が、てんやわんやの大騒動になったようです」
「そして、その大騒動が終わってみれば、上の首が幾つもすげ替わっている・・・か」
「はい。王都の貴族の顔触れが、大貴族や古参の抜け目無い方々、及び堅実派を除いては、中年層が減り、年齢層が若くなったそうですね。王立騎士団の幹部も、平均年齢が若くなったそうです。風通しがよくなった。と、称する方もいるそうです」
「・・・わかった。ご苦労。それで、道化の行方はどうだ? こちらへ来るか?」
「いえ、グラジオラス辺境伯領へ戻って来る気配はないようです。まだ、各地を転々とするのかと思われます」
「アレは気紛れだからな・・・では、道化の動向は常に報告してくれ。もう下がっていい」
「ハッ」
姫へ一礼し、ロディウスが部屋を出る。
※※※※※※※※※※※※※※※
ロディウスが出て行って後。
「全く・・・」
姫は一人、深く溜息を零す。
無駄に波風を立てるのを好む道化らしい手口。
道化がするのは、ほんの少しの後押しだけ。アレは、自分で手を下すことはしない。
始めは馬鹿馬鹿しい騒ぎから小さな波紋を投じ、徐々に亀裂や綻びが大きくなり、やがて連鎖的に切り崩されて行く。土台が揺らげば、どうしようもない。
綻びが致命的なことでなければ、立て直すことは可能だが・・・そうでなければ勝手に破綻し、自滅へと向かって行く。
気付いたときには既に遅く、なぜそうなってしまったのかを把握できぬまま、加速度的に状況が混沌として行き、手遅れとなっている。
ドミノ崩しのようなもの。
破綻の芽が育たなければ・・・既に身の内で育っていなければ、奴の仕掛けたことは、ただの馬鹿騒ぎで終わること。
しかし、破綻の芽は、様々な要因に拠って育て上げられ、やがて大きく花開く。
もう、止められない。
これより、中央の勢力図が大きく書き変わる。
没落、または転落しそうな貴族達は、その穴埋めや補填をしようと躍起になって奔走することだろう。
商人達は、貴族へ取り入ろうと動く。
取り入ろうとする商人達と、取り込もうとする貴族達の化かし合い。
空いた上のポストを狙って、野心ある中堅貴族達が這い上がって来る。
そして、派閥争いが始まる。
地方も無関係ではいられない。
貴族間の、手っ取り早い同盟の方法は、家同士の結び付きを作ること。つまり、婚姻だ。
堕ちた中央の貴族が、財力のある地方の家へと集り、動き出す。
没落した貴族との婚約破棄と、新しい婚約へ向けて、申し込みのラッシュ・・・考えるだけで、面倒くさい。
道化の、「他国へ戦争は仕掛けてないよー? だ・か・ら、ボクを怒らないで♥️ ま、政争をするように仕向けはしたけどねっ☆ さあっ! このお祭騒ぎを一緒に愉しもうゼ☆」と笑う様が目に浮かび、姫は非常に腹立たしい気分になった。
「あんの空けはまた、面倒なことばかりしてくれよって・・・!」
道化の、なによりの性質の悪さは、事態の収拾を全く図ろうとしないことだ。
面白おかしく騒ぎを眺め、もっとやれっ! と煽り、自滅して行く様を見るのが大好きという、非常に傍迷惑で、かなりイイ性格をしている。
「中央が安定するのに、何年掛かるのやら・・・全く」
読んでくださり、ありがとうございました。
実は裏でごちゃごちゃになってました。