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クラウン・ラプソディー♪下

 阿鼻叫喚のペット自慢大会の警護に当たった騎士達が、心身共にダメージを負った翌日の夕暮れ。


「・・・そういうワケで、護衛を頼むよ」

「……了解、しました」


 護衛要請を受けた騎士達は、不承不承頷いた。


 なんでも、プラウナ王立学園の貴族令息達の間でふと、心霊現象は存在するのか? という話題が上がったそうだ。そして否定派と肯定派での激論が繰り広げられ、否定派が肯定派を大層馬鹿にした。ならば、実際に確かめてみようじゃないか! と王都の心霊スポット巡りをすることになり、万が一のときの為、騎士団へと護衛を要請したとの説明。


「グラノワール公爵令息も大変乗り気だったのだが、生憎彼は家の事情で今回は不参加となった。他にも、事情があって参加できなかった彼らの分まで、我々が楽しもうではないか」


 高位貴族とお近付きになり、あわよくばその家に雇われたい! と、思っていた平民出身の騎士や低位貴族の次男三男からなる騎士達十名は、「は?」という気持ちでいっぱいだった。


 参加する貴族令息より、騎士の方が多い。


 しかし、今更断ることなどできはしない。


 テンションだだ下がりのげんなりした気持ちで、馬鹿馬鹿しいイベントへ付き合うこととなった。


 そして、馬車で移動中。


 主催の貴族令息が語り出す。


「では、今から巡る場所にまつわる話をしよう」


 それは、とある横暴な貴族の屋敷跡のこと。


 その傾きかけの貴族一家はとても横暴で、使用人に対する当たりが相当キツかったそうだ。

 使用人がなにかミスをする度、酷く折檻したという。そんな家で使用人達は続く筈はなく・・・

 使用人は減って行って、家のあらゆることが滞る。滞るとミスが増える。ミスをすると酷く折檻される。そしてまた、使用人が辞めて行く。

 そんな悪循環が続いたある日、一人の使用人が些細なミスをした。

 すると、その家族は、寄って(たか)ってその使用人を折檻した。真冬に冷たい井戸水を頭から浴びせ掛け、ずぶ濡れにされた服を着替えることも許さず、一日中庭の手入れをさせたんだ。

 案の定、その使用人は病気になった。けれどその一家は、病気になった使用人を扱き使い続けた。

 やがて病気が重くなった使用人は動けなくなり、死んでしまったそうだ。


 けれど、使用人が死んだ後も、一家はとても酷い扱いをした。葬式代をケチって、その使用人を屋敷の敷地内へと埋めたそうだ。

 その後、一家は次々と病気になり、やがて全員が死んでしまったという。


「・・・それから、その屋敷跡には、すぶ濡れのメイドがずっと働き続けているそうだ。今でも・・・」


 しんとする車内。


「そして、この話には続きがある。もし、その屋敷跡でずぶ濡れのメイドを見てしまうと・・・」


 と、言ったところで丁度馬車が(くだん)の屋敷跡へと到着した。


「おっと、到着したようだね。では、否定派諸君。確かめて来るといいよ?」


 主催の令息は、にっこりと笑顔で否定派を促した。夕日が沈む中、荒れ果てた屋敷を指差して。


「なっ、お前は行かないのかよっ!?」


 否定派令息が主催の少年へ突っ掛かる。


「ああ、僕は肯定派だからね。有り体に言えば、怖い。だから、確かめて来てくれないか?」


 主催少年は堂々とした態度で言い切り、


「ほら、君らはそんなことなど無い。そんな話を信じるなど馬鹿げていると、笑っていたじゃないか。そして、自分で確かめるとあんなに豪語していただろう? ここまでお膳立てしたんだ。まさか、今になって怖気(おじけ)付いたとでも言うつもりかい?」


 否定派令息達へと発破を掛ける。


「時間も時間だからね。敷地を覗くだけで構わないよ? まさか、それもできないというのかい?」


 そこまで言われた否定派達は、行かざるを得なくなった。騎士達も、護衛として・・・


 それから数分後。


「ギャーっ!? ずぶ濡れの女がーっ!?」


 と、悲鳴が響き渡った。


 どうやら視てしまったらしき令息に抱き付かれた騎士は、非常に迷惑した。更には、その令息を介抱までさせられ、家まで届けさせられた。


「そうか・・・見た、のか。気の毒に」


 主催の少年は静かにそう言って、


「では、次へ行こう」


 颯爽と馬車へ乗り込んだ。


「次の場所へまつわる話だが・・・」


 そしてまた、語り出す。


 それは、とある貴族に陥れられた貴族の話。


 彼は、領民へ慕われた良い領主だった。

 しかしある日、対立する貴族へとても重大な秘密を握られ、挙げ句の果てにその秘密を奪われてしまった。

 その重大な秘密のせいで、彼は対立する貴族の言いなりになってしまった。

 要求が段々とエスカレートして、彼の家は傾いて行った。王都にあった屋敷を手放し、領地経営も破綻。領地は荒れ果て、とうとう彼は命を絶った。


 それからだそうだ。彼が、対立していた貴族の屋敷へ出るようになったのは・・・


「そして、もし彼に出遭ってしまったら・・・」


 と、言ったところで馬車が到着した。先程の屋敷よりも荒れ果てた屋敷へと。


「おや、着いてしまったね。では、言って来るといいよ? さあ、遠慮は無用さ」


 主催の少年が優しく言い、否定派令息達は、ギクリと一斉に固まった。


「信じていないのだろう? 君達は、先程の屋敷では見えなかったようだからね。ほら、存分に確かめて来るといいよ。ああ、騎士諸君は、帽子を被って行くことをお勧めしておくよ」


 笑顔で促され、またしても否定派令息達は渋々…嫌々ながら屋敷へ向かい・・・


 数分後。


「ギャーっ!? オッサンがーっ!?」


 夜空へ悲鳴が響いた。


「ふむ・・・遭遇してしまったか」


 憐れむような主催少年の様子に、肯定派を護衛する為に残った騎士が、おそるおそる聞いてみた。


「その、この屋敷の幽霊に遭遇するとどうなってしまうのでしょうか?」

「それはそれは恐ろしいことになる」


 主催の少年は沈痛な面持ちで口を開いた。


「お、恐ろしいこと、ですか・・・」

「ああ・・・もしも彼に出遭うと、髪の毛を(むし)られて円形脱毛症になってしまうそうだ」

「は?」

「彼は、少々寂しい頭髪をしていたそうでね。カツラを被っていたそうだが、不幸にもそれが対立貴族へ知られてしまい、大事な宝物(カツラ)を奪われ、悲惨な末路を迎えた。それ以来、彼はこの屋敷に男がいるのを見ると、髪の毛を毟ると言われている。そして、彼の怨念の成せる(わざ)か・・・夜な夜な枕元へ現れ、プチプチと一本ずつ髪を引き抜き、やがて円形脱毛症にするという恐ろしい話がある。要は、禿()げる。彼は特に、ふさふさのロン毛男性へ嫉妬心を燃やすようでね。この屋敷に近寄るふさふさ男性はいないんだ。だから、屋敷の解体も(まま)ならず、放置されているらしい」

「・・・帽子、というのは?」

「ああ、彼は頭髪の寂しい人は襲わないらしいんだ。暗くなっても帽子を被ったままでいると、仲間だと思うそうでね? 頑張れと励ましてくれるそうだよ。元々の彼は人格者だったというから、その名残だろう。さて、心霊現象の有無は、彼らが自らの頭髪で証明してくれることだろう。ふふっ…実にいい実験ができたよ…」


 楽しげな主催少年の鬼畜さに、その場に残った騎士達は戦慄した。


「まあ、今日はこれでお開きかになるかな?」


 それから騎士達は、パニックを起こした貴族令息を宥め、それぞれの家まで送り届けた。


 こうして、貴族令息達の護衛が終了した。


 なんだか色々と恐ろしい事案を残して・・・


※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・その、心霊スポット巡りに参加した貴族子息が、登校拒否をしているそうです」

「ま、まだまだあの、王都を戦慄させた恐ろしい呪いは、健ざっ…ぷはっ! ハハハハっ!? アハハハハっ!? ハハハハハハハハハハハハっ・・・は、ふぅ・・・数十年前の恐怖が再び甦ってしまったようだね・・・カツラをお供えしてあげると、彼は帰って行くんだけどにゃー? 今の子達は知らないようだねっ☆適当に教えてあげるといいさっ☆」

「ちなみに、ずぶ濡れのメイドを見たら、どうなるのでしょうか?」

「うん? ああ、酷い風邪をひくのさ」

「・・・恐ろしい、ですか?」

「そりゃあ恐ろしいよ? だって、今よりも医療技術が発展してない百年程前には、高熱を出すような酷い風邪は命に関わる大病だよ? 彼女は、傲慢で横暴な貴族が大嫌いらしくてね。そういう(やから)には洩れなく、酷い風邪をプレゼントしてくれるんだ。昔は風邪を拗らせると、高熱や肺炎にまでなってバッタバッタ人が死んで行ったものさ。今でも、医者のいない田舎ではまだそんな感じだけどね」

「・・・」


※※※※※※※※※※※※※※※


 貴族令息の護衛要請を受け、頭皮や健康など、心身へダメージを受けた受けた騎士が病欠になる中。


 騎士団を、悪夢が襲った。


「ちょっと、そこの騎士。アイラ・グラジオラス様はどこへいらっしゃるのかしら?」


 それは、見慣れぬ十数名の婦人達の、代表と思われる妙齢の婦人の一言から始まった。


「はい? アイラ、ですか?」


 彼女達へ対応した騎士達のうちの、この一言で彼女達へ火が点いてしまった。


「ちょっと、どういうことですのっ!? アイラ様を呼び捨てにするだなんてっ!?」

「え? は?」

「そうよそうよっ!? アイラ様を呼び捨てにできるくらい、あなたは偉いのかしらっ!?」

「下っ端の騎士如きが、麗しいアイラ様を呼び捨てにするんじゃないわよっ!?」

「ああもうっ、あなたなんかじゃお話になりませんことよっ! 責任者を出してちょうだいっ!?」

「いえ、その、落ち着いてくださ」

「ウルサいわねっ!? ご託はいいのよっ!? わたくし達はアイラ様を見に来たのですわっ!?」

「アイラ様ーっ!?」


 領地を持つ貴族の夫人方が、麗しの女騎士アイラ・グラジオラス見学ツアーと称して、騎士団屯所へ押し掛けたのだった。


 上品に着飾った、田舎者のおばさま方の集り。


 しかし、ギャイギャイ騒ぐこの田舎者のおばさま方は、領地持ちの貴族夫人達で、平民騎士や王都の下位貴族の次男三男達には対応ができない。


 間違った対応をすると、色々マズいことになる。と、騎士達は、すぐに騎士団幹部へ応援要請を出した。おばさま達が騎士団屯所へ入り込もうとするのを必死で留めながら。


 しかし、騎士団幹部が出て来ても、ギャイギャイとおばさま方はごねた。

 それはそれは大変喧しく、騎士団幹部のおじさま達より、おばさま達の方が強かった。


 おじさま騎士達は、アイラを出せというおばさま達へ押され、敗北した。そして・・・


「マダム方。大変申し訳ありませんが、現在王立騎士団は、アイラを見る為だけに見学することを、禁止しているのですよ」


 対おばさま用最終兵器、容姿の整った高位貴族出身の騎士が、爽やかな笑顔を浮かべて言った。


「こう言ってはなんですが・・・以前に、マナーの悪いご婦人方がいましてね。それで、アイラがそのご婦人方のマナーの悪さへ胸を痛めて落ち込んでしまったのです。それ以来、アイラ・グラジオラスを見る為だけの見学は禁止となってしまいました。申し訳ありません」


 すると、先程までアイラを出せと攻撃的にギャイギャイ吠えていたおばさま達が頬を染め、まるで借りて来た猫のように大人しくなった。


「まあ…残念ですわ」

「ええ。節度の無いご婦人方へ胸を痛めるアイラを守る為です。ご理解ください」

「そ、それでしたら仕方ありませんわね」

「え、ええ」

「代わりと言ってはなんですが、アイラのよく行くカフェをご案内致しましょうか?」

「はい、是非・・・」


 おばさま方のイケメン騎士への変わり身の早さへ、幹部のおじさま騎士や平凡な顔の騎士達は、非常に理不尽なやるせなさを感じたとか・・・


 イケメン騎士とそうでない騎士達との深い溝が、更に深まったようだ。


※※※※※※※※※※※※※※※


「貴族のご婦人(おばさま)方を止める為に奮闘し、身も心もボロボロになった騎士の中にはイケメン滅びろと、呪う者がいたとか・・・」

「どこの誰でも、どの階級でも、おばちゃんになった女性は強いねっ☆怖いねっ☆」


※※※※※※※※※※※※※※※


「・・・それで、今回のこの騎士団への仕掛けはなにが目的だったのですか?」

「うん? 最初に喧嘩を吹っ掛けて来たのは王立騎士団の方じゃないか? ボクはただ、軽~く遊んであげただけだよ? それだけさっ☆」

「・・・それで、どうされるおつもりですか?」

「そうだねぇ・・・とりあえず、十分笑わせてもらったから、今回は(・・・)これで満足しておくさ♪あんまりやり過ぎると、姫や賢者に怒られちゃうからねっ☆というワケで、バイバイっ☆」


 旅人は、ニヤニヤ笑って梟の店から出て行った。


「♪~」


 鼻唄を歌いながら、


「次はなにをしようかにゃー?」


 また旅へと戻る。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 調子に乗って怪談が長くなりました。

 怪談は創作ですが、カツラ領主の話は少し史実を元に作りました。

 昔、どこぞの王様が他国の外交官にヅラだとバレて、それを秘密にしてほしければ…と、様々な要求を吹っ掛けられて、国を傾けちゃったそうです。笑い話っぽいですが、本当のことらしいですよ?

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