とあるパーティー会場の控え室にて。
思い付いたので割り込みました。
会話多めです。
誤字直しました。ありがとうございました。
ガレイア王子が婚約破棄を宣言し、軍服の麗人…アイラが了承して会場を後にして――――
ざわざわと騒がしいパーティー会場…の控え室。
「……あんのクズがっ、なんてことしてくれやがりますのっ……ああもうっ、あの顔だけ馬鹿野郎! どうやって葬り去って殺りましょうか」
これから入場予定だった少女の、殺意の籠った声が低くぼそりと呟く。と、
「こらこら、レディがそんな言葉使っちゃダメだよ? あと、殺気出ちゃってるし、顔も怖いよ。パーティーはまだ終わってないんだからね? ちゃんと猫を被り直しなさい」
物騒な殺気を放ち始めた少女を窘めたのは、少女と同じく、これから入場予定だった青年。
「! だって、お兄様」
「だってじゃありません。まぁ、君がガッカリする気持ちもわからなくはないし、…わたしも後であのクズをどうにかするけど…アイラにとっては、嬉しいことのようだよ? 喜んであげたら?」
にこりと、穏やかな笑顔で青年は言う。
「・・・そう言うお兄様も、若干殺気が洩れていましてよ? …笑顔なのが余計にコワいですし…」
「うん? なにか言ったかな?」
更に笑顔を深める青年。
「いえ、なんでもありませんわ。けどっ……」
「けど?」
「これでもう、アイラ様をアイラお義姉様とお呼びすることが叶わないと思うとっ、大層口惜しいですわっ……義妹という特権を得て、アイラ様に呼び捨てで名前を呼んでもらい、可愛がって頂くという計画が全てパーになってしまいましたっ!」
少女は悔しげに声を荒らげる。
「君は本当にアイラが好きだね」
「当然ですわ! 清く、正しく、美しく、そして並み居る殿方よりもお強い! 凛とした佇まいで、騎士の鑑と称される誉高い麗しい男装の麗人のアイラ様を嫌いになれる女性が存在しましてっ!? その為に、あのクズをアイラ様に貰って頂くよう、お父様へ頼みに頼み込んで計画した降嫁だったというのにっ・・・」
「まぁ、女性は好きだよね。アイラみたいな人。でも、そんな風に慕っているアイラに、クズなアレを宛がうのはどうなのかな? 普通無いでしょ、結婚相手としては。あんな最低男」
青年は苦笑しつつ、アイラを慕う少女を不思議そうに見下ろした。
「だって、お強くてグラジオラスの騎士であらせられるアイラ様が、あの無能な顔だけクズ野郎にどうにかされるなんてこと、天地がひっくり返ってもありえませんもの! むしろ、アイラ様に調教されて、少しはマシになれば宜しかったのに」
「君もなかなか言うね?」
「・・・そんなことは兎も角、なぜアレがこんな風にやらかすまで止められなかったのでしょうか? お兄様」
「そうだねぇ・・・とりあえず、あのクズを諌めることができなかった役立たず共は全員左遷決定なんだけどね。アレが、向こうから帰って来る道中の・・・宿泊した街のおおよそで、不特定多数の女性達と火遊びしていたらしい。そして、それら全てが、事後報告になっていた。オマケに、仲良くなった脳足りん共を王都に呼んで侍らせるだなんて馬鹿過ぎる非常識、誰が考える? 頭が痛いよ、全く」
深く溜息を吐く青年。
「成る程・・・クズですわね。こうなる前に…さっさと切り落としてしまえば宜しかったのに…」
「こーら、レディがそんなこと言わない」
青年は少女の不穏な呟きを窘める。
「それはそれとして、今回のことでグラジオラスがなにかを言ってくることはあるでしょうか?」
「さあねぇ? グラジオラスは本当に、色々と特殊だからね。王家と縁を結びたがりもしないどころか、出世にも無頓着。偶に王家や他の家でやらかした馬鹿な奴を引き取ることがあっても、『血縁』ができたことがないらしいよ? 『不毛の地』と称されるに相応しく、ね。だからこそ余計に、王家の信頼も厚いんだけど」
「それはまた・・・ある意味凄いお話ですわね」
「まぁ、グラジオラス辺境伯領はかなり優秀な人材が結構出るのに、その悉くが趣味人というか・・・奇人変人ばかりという魔窟だからねぇ? 欲や野心が全く無いというのも、逆に手綱が握り難いものだよ。その代わりと言ってはなんだけど、趣味を支援してあげれば国益を出してくれる場所だからね。今回のことはむしろ、父上の方が戦々恐々としているんじゃないかな? それに・・・」
「それに、なんですの? お兄様」
「グラジオラスはあまり血筋に拘らない代わり、身内の結束が固いから、突っつくと厄介なんだよ」
「厄介、とは? お兄様」
「・・・さて、そろそろ収拾を図らないとね。行くよ」
青年は問いには答えずにこりと少女を促すと、騒がしいパーティー会場へと向かった。
騒ぎの原因である馬鹿の始末をつける為に。
読んでくださり、ありがとうございました。
アイラの言っていた、上や下の優秀な殿下方の会話でした。