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農学博士フィオナの場合。上

 またまた上下の分割です。

 そして、レビューを頂きましたっ!!!

 ありがとうございますっ!!!

 ローレンス・ハウゼンは、プラウナ王国中央軍閥のエリート御曹司だった。

 彼自身は長男ではなかったが、このまま騎士団へ勤めていれば、将来は中央軍閥の幹部の道が約束されていた。

 または、長男よりもローレンスの方が剣の腕が良いので、家を継ぐよりも出世できるかもしれないと噂されていた。


 その彼へ、家長であり王立騎士団第四師団の団長を勤める父より、とある命令が下された。


 ローレンスはその命令を遂行する為、気乗りはしないが、グラジオラス辺境伯領へと赴いた。


 王都から数日掛けて馬車で移動し、国境にあるグラジオラス辺境伯領へと到着した。


 そして彼は、とある命令を遂行する為に動いた。


「すまないが、グラジオラス姓を持つ令嬢のいる場所を知らないだろうか?」


 と、グラジオラス領内の領民に案内されてやって来たのは、とある畑の真ん中だった。


「おい、こんな畑の真ん中へ本当にグラジオラスの令嬢がいるのか?」


 ローレンスは、自分を畑へと案内したグラジオラス領民を不審に思いつつ聞く。


「お嬢様なら、畑のどこかにいらっしゃいます」


 そう言ってグラジオラス領民は、農作業を開始した。どうやら農民だったらしい。


 ローレンスは王都育ちの為、畑に来たことなどなかった。土の上は歩き難く、ブーツは泥で汚れるし、その土からは変な臭いが漂っていて臭い。


 しかし、歩き難くて臭い土の上をどんなに我慢して歩いても、グラジオラスの令嬢の姿は発見できない。畑にいるのは、令嬢どころか農作業をしている農民ばかり。ローレンスの機嫌は、どんどん悪くなって行った。


 ローレンスはとうとう我慢できず、


「グラジオラス令嬢! この場へいるのならば、今すぐ出て来てもらいたい!」


 畑の真ん中で大声を上げた。すると、


「中央軍の騎士が何用でしょうか?」


 農婦だと思っていた女が麦わら帽子とほっかむりを取り、ローレンスへと応えた。


「視察の話は伺っておりませんが?」


 ダークブラウンの髪を後ろで(くく)り、エメラルドの瞳をした二十歳程のキリッとした美女の、(いぶか)しげな表情。


 ローレンスは彼女の方へ踏み出し、


「グラジオラス令嬢へ婚約を申し込む!」


 言った。すると、


「っ!?」


 グラジオラス令嬢の顔色が変わった。そして、


「者共っ、出合えっ!? 曲者を引っ捕らえよっ!」


 血相を変えた令嬢?の鋭い声が上がり、いかつい農民達がローレンスを取り囲んだ。


「なっ、どういうことだっ!? わたしはプラウナ王国騎士団のローレンス」

五月蝿(うるさ)い貴様っ! そこを動くなっ!?」


 低く冷たい声が怒鳴る。


 ローレンスはエリートコースに乗った優秀な騎士で、騎士団内でも若者の中では有望株だった。様々な意味で有名なアイラ・グラジオラスには敵わずとも、若手の中では実力のある方だ。

 だというのに、ローレンスは呆気なくゴツい農民達に取り押さえられてしまった。


 そしてローレンスは、縄を打たれた屈辱的な姿で罪人のようにして、グラジオラス城砦へと連行されて行った。


※※※※※※※※※※※※※※※


 グラジオラス城砦の一室。


 ポリポリとなにかの咀嚼音が鳴り響く中。


「さて、ローレンス・ハウゼンとやら。貴様は、自分の仕出かしたことを判っているのか?」


 剣を取り上げられたローレンスを見下ろすのは、高圧的な女。先程の農婦のような格好のままの、ローレンスを捕らえろと命じたグラジオラスの令嬢。


 ポリポリ。


「お前達こそ、わたしをこんな罪人のように扱って、ただで済むと思っているのかっ!? わたしは王立騎士団第四師団団長の息子だぞっ!?」


 ローレンスは叫んだ。しかし、


「フンっ、それがどうした? 貴様は勘違いをしているようだな? 罪人のような扱い、ではない。貴様は、罪人なのだ。それも、死罪に匹敵する程の大罪人だ。自分の立場を理解しろ。低能が」


 高圧的な女は冷ややかに吐き捨てる。


 がさごそ、ポリポリ。


「なっ、わたしが一体なにをしたというっ!? わたしは、罪になるようなことをした覚えなど一切ないぞっ!? それを、死罪になる程の罪だとっ!? あまつさえ侮辱までしてっ、このわたしを陥れる気かっ!? おのれ、卑劣なグラジオラスめっ!?」


 ローレンスは憤慨し、グラジオラス達と断固として闘うと心へ決めた。


 ローレンスがわざわざこんな辺境まで来たのは、昔のパトリック・グラジオラスや最近のアイラ・グラジオラスの婚約破棄の件で、中央軍閥がグラジオラス辺境伯領への機嫌取りとして、誰でもいいからグラジオラス辺境領の貴族令嬢を嫁に取れと父へ命じられたからだ。

 それがそもそもの間違いだったと、ローレンスは強く確信した。


 ポリポリ。


「そんなことも判らないのか? 貴様は、この私の農場(・・・・)を土足で踏み荒らした。拠って、死罪に匹敵する」

「・・・は?」


 ローレンスは、女に言われたことが欠片も理解できなかった。


巫山戯(ふざけ)るなっ!!! 農場を荒らしたことが死罪だとっ!? そのようなことがあって堪るかっ!?」


 そして女へ怒鳴り返す。が、


「誰が巫山戯るかっ!!! 貴様こそ少しは考えて物を言うがいいっ!!! ここはグラジオラス辺境伯領っ!!! その、私の農場(・・・・)を土足で踏み荒らしておきながら勝手が許されると思うなっ!!!」


 ビリビリと空気が震える程の怒号を返された。それは、騎士団の鬼のような上官を思い起こさせる怒号だった。


 がさごそ、ポリポリ。


「な、なにをっ!? こ、この農民風情の真似事をする無礼者の女がっ!?」


 怒号へ怯んだことを悟られたくなく、ローレンスは女へ虚勢を返した。


「ほう・・・無礼者、だと? この私に? 王立騎士団第四師団団長の息子如きが? ハウゼンの家は確か、子爵。拠って貴様は、子爵令息(・・・・)であろう? 私は、フィオナ・グラジオラス侯爵(・・)となるが? ハウゼン家の家格より、そして、跡目を継いでいない貴様自身よりも、私の方が数段は身分が上の筈だがな?」

「・・・」


 ローレンスは絶句した。


 しかし、グラジオラスの高圧的な女とローレンスとのやり取りの間もずっと止まなかった咀嚼音が、ポリポリと鳴り響き続けている。


 ポリポリ、がさごそ、ポリポリ。


「・・・・・・そこの女っ、いい加減にしろっ!? このやり取りの間もずっと物を食べているとはどういう了見だっ!? 不敬にも程があるぞっ!?」


 先程から気になってしょうがない音。ローレンスは、その存在を主張する音へ我慢できず、ずっとポリポリと豆を食べ続けている女を怒鳴り付けた。


「?」


 ぼんやりとした表情で大きな袋から豆を食べ続けていたのは、短い茶髪で男装姿の華奢な女。その女がきょとんと動きを止め、ポリポリと咀嚼を急ぎ、ごっくんと飲み込むと、


「・・・なんだ? これは全部あたしンだから、お前なんかには一粒たりともやらんぞ」


 豆の袋を大事そうに抱えて言った。


「違うわっ!? 誰が豆など欲しがるかっ!?」

「?」


 豆(食べ)女は不思議そうに首を傾げ、


「なあ、フィオナ」


 高圧的な女へ呼び掛けた。


「はい、なんでしょうか? ベアトリスさん」

「結局、なんなの? コイツ」

私の(・・)麦の苗を踏み荒らした大罪人です」

「はあっ!?」


 と、ローレンスが大声を上げた瞬間、


有罪(ギルティ)


 低い声と共にドスっ!? と鳩尾へ物凄い衝撃が突き抜け、その意識は闇へと包まれた。


※※※※※※※※※※※※※※※


「やー、フィオナちゃんお久ー」


 城の回廊を歩くフィオナへ声を掛けたのは、このグラジオラス城砦預りとなっているヴァルク。


「城の兄上。ご無沙汰しております」


 フィオナは、このへらへらしたような態度に見える年上の親類が少し好きだ。

 フィオナの研究所や温室の設計、建設を手掛け、改築や増築の相談にも嫌な顔一つせず、フィオナや他の研究員の要望を丁寧に叶えてくれる。

 彼のお陰で研究所はとても快適になり、研究員達は皆、彼へ感謝している。非常に尊敬できる建築マニアだ。その敬意を籠めて、フィオナはヴァルクのことを城(好き)の兄上と呼んでいる。


「うん。それでー、どうしたのー? フィオナちゃんがグラジオラス城砦(ここ)にいるのは珍しいねー」


 フィオナは基本的に、農場か研究所のどちらかへ入り浸りだ。他の場所へ行くことは少ない。


「ええ。それが、私の農場(・・・・)が荒らされまして。その罪人を引っ捕らえて来たところです」

「うわー、フィオナちゃんの農場(・・・・・・・・・・)を荒らすとか、命知らずな(やから)もいたもんだねー」

「はい。中央軍閥のボンボンを自称している輩なのですが、ことがことだけに、姫様へ要相談案件です」

「へぇ・・・俺もその馬鹿見たいなー?」


 へらへらと笑うヴァルク。


「お好きにどうぞ」


 ヴァルクは建築(しごと)関係以外では外出ができない為、娯楽に飢えているのだろうと、フィオナはヴァルクの大罪人への面会を了承した。


「ベアトリスさんがお目付け役です」

「わーお…ベティさんかー…」

「ええ。罪人は一応、騎士とのことなので」


 驚くヴァルクを後にして、フィオナはグラジオラス城代の姫へと面会を申し込んだ。


※※※※※※※※※※※※※※※


 そしてヴァルクは、ポリポリと豆を咀嚼する音が響く独房付きの部屋の前へとやって来た。


「こんにちはー、ベティさん」


 ドアの前に陣取るベアトリスへと挨拶する。


 ポリポリ、ごっくん。


「・・・よお、ヴァルク。なんの用だ?」

「えっとー、犯罪者君に面会ー?」

「そうか。好きにしろ」

「あと、ベティさんにお土産ー」


 ひょいと投げられた林檎を受け取り、


「サンキュ。喉が渇いてたとこだ。じゃあ、なんかあったら遠慮無く呼べ」


 ガジガジと林檎をあっという間に芯だけにしたベアトリスは、また豆を食べることに専念する。ポリポリと。


「はーい」


 ヴァルクはベアトリスへ返事をし、部屋へ入る。


「ハロー、中央の騎士君」


 ひらりと独房の中へ片手を振ると、精悍な顔をした若者がムスッとした表情でヴァルクを睨んだ。


「なんの用だ」


 不機嫌さ丸だしの低い声に、


「えっとー、君の罪状教えたげようと思ってー」


 ヴァルクはへらりと答えた。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 ローレンスの犯した大罪とは?

 そして、ずっと豆を食べて続けてる彼女は誰なのかっ!?は、次回です。

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