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女騎士アイラの場合。

「アイラ・グラジオラスっ! 貴様との婚約を破棄させてもらうっ!?」


 プラウナ王家主催のパーティーで、軍服を(まと)うアイラ・グラジオラスを名指しして婚約破棄したのは、この国の第三王子であるガレイアだった。

 それも、その腕の中へ一人の少女を抱いて。豊かな胸を、はしたなくも深く露出した彼女が彼と恋人同士なのは、少女の媚びるような動作と、恥ずかしげも無くガレイア王子へと絡み付かせた腕で周囲へとアピールされている。


「はあ、ではよしなに。しかし、ガレイア様。我がグラジオラス辺境伯分領地が、不毛の地(・・・・)とされていることは、ご存知でしょうか?」


 名指しされたアイラは、一応の確認をした。


「フンっ、そんなことは知っている。辺境の田舎者だから貴様達は、王子であるこのわたしとの婚姻を望んで婚約を()き付けたのだろう。全く(もっ)て浅ましいことだ! 貴様のような女らしさの欠片も無い奴は、他に嫁の貰い手があるとも思えぬがな」


 殊更(ことさら)馬鹿にしたように軍服姿のアイラを見やり、その腕の中の少女が自身へと押し付けている女性らしい肢体へと相好を崩すガレイア。


「ならば、問題ありません」


 ガレイア王子が、なにも理解(わか)っていないことを確認したアイラは、あっさりと婚約破棄を了承した。


 確かに、ガレイア王子が言うようにアイラは、一般的な基準で測ると女らしくはない。

 女性にしては長身で、元からキリッとした少年系の顔立ちをしている。

 更には、剣を習う為に自分で髪を短くし、その心身を鍛え上げ、軍服を身に纏うことを選んだ。

 そして彼女は、国内でも屈指の実力を有した騎士へとなった。その力量は、王立の騎士団内でも十指に入ると噂されている程。

 当然アイラは、ガレイア王子などより断然強い。


 けれど、アイラが美しくないワケではない。

 灰色の髪にターコイズブルーの瞳をした美少年系の精悍な顔立ちで、まさに男装の麗人と呼ぶに相応しい美貌を有している。

 そんなアイラは、その性質と実直さから、騎士の中の騎士として国内のご婦人方に非常に人気を博している。アイラ本人は、自身の美貌や名声には無頓着だが。


「ちなみに、ガレイア様はご存知ないようなのでお教えしておきますが、我がグラジオラス家は代々武門の家系です。そして、女でも実力が伴えばグラジオラス公爵本家や、王家より直々に爵位と領地が頂けます」

「それがどうした?」

「わたしは、グラジオラス分家、次期子爵となることが決まっております」

「それがどうしたというんだっ?」

「つまり、ガレイア様。あなたは王族から、子爵のわたしへ降嫁(こうか)させられることが決定(・・)していた(・・・・)ということです」

「は? なにでたらめなことを」

「それも、王族から降嫁される家の家格は、通常であれば伯爵以上(・・・・)の地位が必要とされますが、子爵予定(・・・・)のわたしに降嫁予定というのは、ハッキリ言ってあなたへの罰則という意味合いが強い」

「わ、わたしを侮辱する気かっ!?」

「侮辱ではなく、事実です。あなたは第三王子ではありますが、母君のご実家の国で過ごされ、祖父母の下で大層甘やかされて育ったようですね。祖父であった公爵閣下が亡くなり、我が国へ帰国。だというのに、喪に服すどころか、不特定多数のご婦人方との火遊びと、そのご婦人方へ散財とは・・・全く、言葉もありませんね。せめて、最低限の避妊くらいはなさってください。どういう教育を受けて来られたのでしょうか? あなたの火遊び(・・・)の始末(・・・)には、王室中が非常に迷惑を(こうむ)っていたようです」


 無論、ガレイアにたった今破棄宣言をされたこの婚約自体も、跡始末の一環だった(・・・)のだが。


「そして、王子であらせられるというのに我が国の事情も情勢も知らないとは、大変な勉強不足かと。ガレイア様の上や下の殿下(・・)方が優秀で、大変良かったと思います」


 アイラの連ねる言葉に、ガレイア王子の腕へ絡んでいた少女の媚びた色の笑みが、段々と困惑を帯びたものへと変わって行く。


「誰かこの女を黙らせろっ!?」


 ガレイアは叫ぶが、この会場には、騎士団内でも強者の、それも帯剣しているアイラを力尽くで黙らせられる者など、ほぼいない。


 そして、誰も動かない。


「我がグラジオラス家では、爵位を持つことを許された女は、子を生まなくてもよいのです。跡取りは、他のグラジオラスから養子を取ればよいのですからね。そもそもが、血筋自体には重きを置いていないのですから。・・・ああ、いえ、それ(・・)は正確な表現ではありませんでしたね」

「は?」

「けれど、だから(・・・)、我がグラジオラス分領地は不毛の地(・・・・)とされているのですよ。偶にあるのです。鼻摘み者の王候貴族を、我がグラジオラスの子爵以下の家へ迎え入れることが。そのような者の種は、絶やして(・・・・)しまえ(・・・)ということですね。つまりあなたは、『既に王族から切り捨てられていた』ということです。あなたを『殿下』と呼ぶ者は、最初から存在していなかったのに。あなたはスペア扱い(・・・・・)さえも、されていなかったのですよ。それにも気付いていないで王子気取りとは、全く・・・随分とおめでたい頭をしておいでで」

「な、にを…」

「わたしとの婚約は、陛下の最後の温情でしたのに。大人しく我が領地で過ごされるというのでしたら、王族では(あら)ずとも、あなたはまだ貴族の末席にはいられたのですがね? この温情を自ら蹴ったということは、ガレイア様には、王籍(おうせき)及び身分剥奪の上、去勢をして修道院へ入る道しか残されておりません。お気の毒ではありますが、自業自得かと。女人禁制の修道院で(つま)しく清らかに、残りの人生を神に祈りを捧げて過ごされるが(よろ)しいでしょう」

「ま、待て」


 蒼白になったガレイアがアイラを呼び止める。


「では、わたしはこれより、婚約破棄に関しての手続きがありますので失礼させて頂きます。ああ、ガレイア様。ご自分から婚約破棄を切り出して頂き、真に感謝しております。それでは、ごきげんよう」


 しかし、アイラ・グラジオラスは軍服を翻して颯爽とパーティー会場を後にした。


 その身を、剣へ捧げられることを(よろこ)びながら。

 読んでくださり、ありがとうございました。

 王子がポンコツ過ぎですね・・・

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