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前世の私は、割りと雑食だった。
地雷がない、って言えば分かるかしら?
それでも好みはあって、中でもカップリングへの愛…カプ萌えを拗らせていた前世の私は、公式カプも非公式カプも関係なく妄想しては、にへにへとしてる人間だった。
………悲しいかな。その辺りの性癖は、今の私にもしっかり受け継がれていた。
そんな中でも、前世の私がハマっていたものの中に、とあるゲームがある。
主人公が攻略対象を恋愛的に落としていく。
よくある恋愛シュミレーションゲームだ。
そのゲームの名は、『野の花と宝石の王子たち』。
貴族の庶子であった事が発覚した主人公は、突如貴族の子供達が集められた学園に入学することとなった。
貴族ばかりの学園で過ごす三年間。
そこで繰り広げられる、恋と愛の物語―――
という、あるある設定なゲームだ。
「野の花」は野花のように可憐な主人公。「王子たち」は、もちろん攻略対象の事だ。
前世の私も随分とやり込んだゲームだが、その中でこんなシーンがある。
学園の校舎裏で男女がもめている様な声を主人公が聞く。主人公は喧嘩ならば止めるべきか、と物陰から様子を覗き見る。
そこにいたのは、攻略対象その1とその主人のご令嬢だった。
攻略対象の頬が赤くなって、うっすらと肌が切れている。令嬢はその手に、閉じた扇を握っていた。
その扇で攻略対象を打ち付けたのだと主人公は悟った。
何故なら、以前から攻略対象が令嬢から折檻を受けていると、主人公は聞き及んでいたからだ。
そんな場面を見て、黙っていられる主人公ではない。
堪らず、主人公は止めに入るのだった―――
そんなシーンだ。
その後、攻略対象の名前を呼んだ主人公に対して、令嬢はうざそうに言葉を返す。
攻略対象でない令嬢だが、このゲームではしっかりと立ち絵がある。ゆえに、この場面では、会話ウィンドウの向こうに、攻略対象と令嬢が立っているのだ。
そう。
とある貴族の従者をしている攻略対象と、そのとある貴族の令嬢が、立って、いるのだ。
この攻略対象は仕事上、この令嬢とセットで出ることが多い。
………私が鏡の中に何を見たか、お分かりいただけただろうか。
その、とある貴族の従者をしている攻略対象その1の名は、アレン。
とある貴族の令嬢は、エリザベスと言う。
もう一度言おう。
私の名前は、エリザベス・ノーブル。
前日に会ったばかりの従者の名前は、アレン。
幽霊でも見た方が、マシだったかもしれない。