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そもそも私は、どうやら人と少し違ったところを持って生まれて来たらしい事を、物心つく頃には既に知っていた。
無機質な灰色のビル群。
狭い空と、排気ガスで汚れた空気。
人も馬もいないのに動く自動車の列に、パソコンという名の光って動く絵のついた箱。
私はそれに囲まれてOLというものをやっていた。
そんな夢。
どうやらそれは、自分の前世なる世界らしい。
そう悟るのに、それほど時間はかからなかった。
ただ私の前世の人間は、現世の事よりも、物語にのめり込む人間だった。
……、格好良く言いすぎたわ。
要するに、オタクだった。
人と喋ったり、仕事に精を出したり、家庭を持ったりするのなんか、二の次、三の次。
そんなものよりも、漫画、ゲーム、小説、アニメ……、いわゆるオタクコンテンツに、かなり傾倒していた。
そんな人生を夢で度々垣間見るのだから、私もそういった娯楽に興味を持たないわけがなく…。
前世の私と今の私。全く違う人間だと思ってはいるけれど、そういった…趣味の点ではほぼ同じものが好きになっていた。
でも、夢は夢。
夢の中で楽しんだり、ちょっとそういう娯楽小説の類が増えるのは致し方ないとしても、それ以外の部分では、私の人生には何の関わりも無い。
そんな楽観視をしていた頃が、私にもあった……。
そんな幻想を打ち砕かれたのが、その十年前の日だった。
その日、私は新しい従者と対面する事になっていた。
高齢で退職する乳母の代わりに、彼女の遠縁で私と年の近い子供を奉公に上がらせるのだ。
そうして出会ったのが、今、愛に泣いてる彼。
名前をアレンと言う。
「よろしくお願い致します。」
出会ったその日、そう言ってぺこりと頭を下げたアレン。そして、もう一度頭を上げた彼と私は、自然と目が合った。
「………?」
なんか、見た事ある…ような??
当時まだ六歳で可愛い盛りだった私は、胸に抱いた既視感をそのまま表情に出してしまい、少しだけ眉を顰めて首を傾げた。
そんな私に、何か無作法をしたのかと、アレンを青ざめさせてしまったのは、今でも反省してる。
けれど当時の私としては、そんな事よりも、胸に浮かんだ既視感の方に気がとられて、それどころではなかった。
だけど、どれほど頭を捻っても、どこで見たのか思い出せず、その日は上の空で過ぎていった。
思い出したのは、その次の日。
朝にアレンが私を起こしに来てくれた時だった。
「おはよう…アレン………」
寝ぼけ眼な私は、目を擦りながら上体を起こした。
私の自室にはそのベッドの上から見える位置に、大きな化粧台がある。普段は目に留めることはないそれを、私は何故かその日にかぎって、見た。
「………!!」
「お、お嬢さま……!?」
その鏡には当然の如く、私とアレンが映っていた。だが、それを見る私の顔は、さながら幽霊でも見つけたような顔をしていた事だろう。
……本当に連日、アレンには悪いことをしたわ。
暫く、アレンがビクビクしていた。
私のおかしな様子を見て、「お嬢様の機嫌を損ねてしまった」と思っていたからだと私が聞いたのは、大分と後になってからだ。
けれど当時としては、それこそ幽霊を見たような心持ちだった。
鏡の中に映る二人の姿。
いくらか二人とも幼いものの、それは見慣れたものだった。
どこでか。
それは、
ゲーム画面の向こう側。