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白百合のように  作者: こば
1/1

~罪人~




「えー、うん!あー、これから罪人に罰を与えたいと思う」




町の中心地


砕けたコンクリートが風に舞う


野次馬が何百人も集まって一点を凝視していた


毎日のように行われている政治家のストレス解消行為


幼い俺もその光景を視野の中心に捕らえていた




「………じゃあ罪人に処罰を」




遠くから見ていた俺の鼓膜にも、確かに強い振動を与えられた


火薬が爆発する音、空気を切り裂く音


幼い俺には、まだ理解できないことだった




「お  母  さ  ん  ?」




再び俺の鼓膜に振動があった


ひどく小さい音だった




「お  父  さ  ん  ?」




「きゃあーーーーーーーーーーーあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」




三度目の振動はひどく耳に響くものだった


ああ、今のは妹の百合の声だ


兄弟という密接な関係が一瞬に脳裏に閃かせた




「………処罰、終了」




不適な笑みを浮かべたままの男は、煙を吐き出す鉄の塊を片付けた


その背後には口から赤い液体を垂れ流す男と女が磔にされていた


目をよく凝らして見てみた


そして幼い俺はようやく理解したんだ




「お  母  さ  ん  ?…………  お  父  さ  ん  ?」




“処罰するための犠牲”になったのは母と父だった


幼い俺は状況を整理しようと全力で小さい脳を回転させた


さっきの妹の叫び声


血を垂れ流しながら磔になって死んでいる母と父




「うっ………うぇぇぇ」




吐いた


あのときの俺はそのまま気を失った




憎い


憎すぎる


母と父を殺したのが実の妹だったなんて


思い出すだけで吐き気を覚える




数年前、世界は荒れに荒れてしまった


毎日行われる公開処刑


町は腐敗し血生臭さが立ち込める


瓦礫は瓦礫のままに、死体は死体のままに


軽率な犯罪は処され、重大な犯罪は処されず


この国に法律なんてものはなかった


弱者は強者に従うだけ


それが絶対な法律だった



この国は弱者と強者に一刀両断されていた


弱者は国民の8割を占め、強者の餌にならないよう質素に生活した


強者は神の晩餐のような豪華な暮らしをしていた


弱者は強者に絶対的な服従をしなければならない


それは運命だとも言えた




弱者は次第に諦めにも似た受け入れをした


改正に強いられたと言っても過言ではない


勇姿あった若い男は強者の前に屈した


町で抵抗を見せたうなりも瞬時に鎮圧された


絶対的な力の差という壁が存在した




改正されてから数年経過した


さすがに反乱を起こす愚者はいなくなった


それほどに新しい法律は有効だった


死よりも重い罰を与えろ・植えつけろ


そんな狂言が許され、力を発揮した


そう、世界は狂いに狂っていた




そんな世界に沸々と私情を抱くものがいた



「悪夢だ」




まだ薄暗い部屋の中、まるで世の終わりを嘆くように俺はそう呟いた


見えない時計が時を刻む


鼓動に合わせて乱れていく秒針


俺は感覚を狂わせてた


何度も見てきた悪夢は毎回俺を汗だくにし眠りから覚まさせる


何度見ても慣れることがなく、今日も手の震えが止まらない




俺が見た夢・・・・


それは、俺の両親が公開処刑される実際にあった過去だった


俺が10歳を迎えたばかりの頃


俺の家族は近所の中でも仲良し家族として有名で、俺も実際に家族が大好きだった


両親と俺と妹の百合の4人家族でひっそりと仲睦まじく暮らしていた


しかし、ある日を境に家族は崩壊した


そしてたった一人の家族は憎むべき相手となった


妹の百合が罪人になったんだ




この世界は丁度、俺が生命の息吹を上げた頃に成立したらしい


毒は毒をもって制する


つまり、犯罪は犯罪で制するという政府の勝手で傲慢な考えだった


そのときは既に世界は狂っていた


政府は国民の期待に応えるわけがなく、強者が弱者を従わせるように国民は道具として扱われた




俺の家族はその被害に遭ったんだ


つまり


罪人になった百合を処罰するために、俺の両親が処刑された


死以上の苦痛を覚えさせろ


二度と犯罪を犯させないために


これは強者の快楽の追及のための口実でしかなかった


世界は狂いに狂っている


それでもこうして毎日朝を迎えられているのが不思議でならなかった




「くそ・・・・」




俺はまた呟いた


悪夢を見る度に激しい頭痛が俺を苦しめる


脳の最果てに忘れ去ろうとしていたものが強制的に記憶に植え付けられる


俺が丁度忘れかけた頃に悪夢を見る


それは既に周期的になっていた


俺は慣習にもなった逃避をするために行動を開始した


逃避をしなければ理性を失っている自分が何をするかわかったものではないから


学生服を着て、薄暗いなか学校に行く準備をし終えた


こんなに狂った世界なのに学校が存在することも不思議なことだ


そんなことも考えられるようになったということは俺にも慣れによる余裕ができているのかもしれない


そして俺は自室を出た





「………  兄  さ  ん  !?」




自室の扉を開けると、そこには妹の百合がいた


小さな家の中、さらに身を小さくさせている


部屋が歪んで見えるのはなぜだろう




「お、おはよう    ございます………………」




敬語を使って挨拶をしてくる百合


その目は恐怖に満ちていた




俺は自分の予想通り、理性を失っていた


憎む敵は今、目の前にいる


それだけで俺は獣のように牙を剥き出しにしている


理性に抑えられるはずがなく、俺は百合に手を出した




「くっ…………!!」




俺はおもいっきり殴ってやった


痛みに堪えるように歯を噛み締める百合


その姿も顔も全てが苛立つ


だから俺は、地面に倒れている女に渾身の蹴りを入れた




「あっ…………!!」




また歯を噛み締める百合


垂れ流してもおかしくない涙は既に枯れはてているようだ


俺はまた蹴りを入れた




「かはっ…………!!」




口から液体が飛び出し床を汚した


俺はまた苛立つ


だからまた蹴りを入れた




悪夢を見た日の俺は妹にだけは鬼だった


理性の欠片はなくなり、顔を見ただけで暴力を振るう


何度も


何度もだ


俺はそこまで憎んでいた


憎んでも憎みきれない相手が目の前にいた






「兄……さぁ……んん!!」




俺に一瞬の隙があったのか言葉を挟む百合


いつもの俺なら容赦なく蹴りを入れていた


しかし今日の俺は聞く耳を持っていた




「今日………兄……さぁ……んのぉ……………誕生………日、でした…………よ……ね……?」




途切れ途切れでも俺は聞き取ることができた


今日は俺の誕生日


その通りだったが、百合が知っているのにまた苛立った




「だか……らぁ、兄………さんのぉ…………ため……にぃ…………料理……作った……ん……です…………」




俺のために料理を作った?


俺はキッチンにある長机へ向かった


あまり使わない綺麗なテーブルの上には豪華といえる料理が遇されていた


甘い匂いが鼻腔をくすぐる




「ふざけんじゃねえよ!!!」




俺は全ての料理を床に叩きつけた


カラフルなスープは床に薄く延び、真っ白なケーキは無惨に形を崩した




「ああ…………ぁぁぁ!?」




背後から嗚咽を零す百合


俺は久しぶりにこんな百合の姿を見れたことに歓喜を覚えた


悪くない誕生日だったと唾を吐いた



皿が割れる雷鳴のような音は一瞬でなくなり、家の中は静寂に包まれた


聞こえるのは百合の嗚咽だけで、ひくひくと泣いている姿は何度目でも爽快だった


俺は百合が憎い


決してなくならない憎しみが俺にはあった


だから百合が嫌がることは率先してやる


殴ったり、蹴ったりは当然のように


百合を殴っても悪くない


罪人なのだから




「おい、床が汚ねえんだけど」




とにかく俺は嫌がることをした




「……はい」




粉々になった皿の上に膝をつき、破片を一つ一つ取っていく百合


実に滑稽な姿だと、俺は爽快に笑った




悪夢を見た日の俺は本当に鬼だ


普段の俺はこんなに酷いことはしない


悪夢を見た日から遠ざかる分、俺の身体を駆け巡る鬼の血は薄れていく


そして、次第に憎い百合の存在をなくす


つまり、百合は存在しないと思い込む逃避手段だ


何故、そんなことをするのか?


答えは簡単だ


俺には目標があるからだ


安い憎しみに身をまかして終わりにさせたくない目標が




気付くと俺はまた百合を蹴っていた


鬼の血は俺の血を支配している


百合は皿の破片が顔や手に刺さったまま、俺の暴力に耐えていた


身体中、皿の破片が突き刺さり、なお殴られているのは死に値する痛みだろう


だからこそ、鬼になっている俺は歓喜を覚えた


憎いから


親を殺した罪人だから




「…………かはっ!!」




「はっ!?」




俺の脳裏に雷が走ったような感覚があった


いくつもの残像を残しながら、その映像は映し出されていく


…………親の処刑現場だ


物凄い頭痛がする


胸の辺りから吹き出る赤い液体


断末魔のような叫び声


俺は頭を抱えた




俺はいつもこうだった


悪夢を見た日に百合を見かけてしまうと、暴行を加える


人が人を傷つけるのとは次元が違うような残虐な暴行を一方的に加えてしまう


しかし、それにも終わりがあったんだ


血、だ


百合が口から血を吐き出したんだ


だから俺は動けなくなった


俺にとって血は親の処刑現場を思い出させるトラウマだった


トラウマが発生すると鬼の血は薄れていく


逃げ腰な俺の血が再び支配をする


いつのまにか俺は百合を蹴るのをやめていた


口から血を垂れ流す姿に、俺はただ逃げることしかできなかった


私はまた一人になってしまった


私の鼓動が家中に響いていると思うと遠慮してしまう


家が私の心臓になったような、とにかく私は耳を塞ぎたくなった


兄さんがいなくなった今は、私一人しかいなかった


兄さんは学校へ行くために出ていってしまった


だからこの家は本当に静かになる


それも全て私のせいだ


私が罪人ならなければ


そう思ってしまう自分もいると思うと自己嫌悪に見舞われる


私は全てに中途半端なんだ




「いたい…………」




手のひらや顔の深部まで刺さっている皿の破片を一つ一つ取っていった


身体中が壮絶な痛みが駆け巡っているせいか、あまり痛みは感じなかった


私は簡単に破片を取りのぞくことができた


身体中に傷は残ってしまったが




「つ………」




万力に頭を潰されているような痛みが走った


これも珍しいことではなかった


兄さんにいっぱい殴られたから、脳震盪でも起こしたのだろう


私はそのまま目を閉じた


そうすると幾分、楽になるからだ


私は気絶に似たような眠気が訪れたので、そのまま意識を遠退かした


あっという間に違う世界へやってきた



「ピーマン嫌いだからいらなーい」




小さい私はそう言った


どうやら目を閉じた私は昔の夢を見ているようだ


まだお母さんもお父さんもいた


何しろ兄さんが笑っていた


きっと小さい私も笑っているんだろうな




「駄目よ、百合。ちゃんと食べなさい」




私がお母さんに怒られていた


泣きたくなるくらい微笑ましい幸せな家庭がそこにあった




「いっただきー」




横から伸びる手


私のおかずを横取りしていくのは兄さんだった




「あっ?私のピーマン……」




嫌いなものだけど奪われしまった


しかも既に口の中へと消えてしまっていた




「ちょっと、百合のものを奪っちゃ駄目じゃない」




今度は兄さんが叱られていた




「はーい、ごめんなさーい。ごめんな百合、代わりに俺のものあげるよ」




「いいの?お兄ちゃん」




「いいんだって、俺あまり好きじゃないし、それ」




「あ、ありがとう」




兄さんは本当に優しかった


小さかった私には当時のことがわからなかったが


兄さんは嫌いなピーマンと好きなコロッケを交換してくれたんだ


自分だってピーマンが嫌いなくせに


自分が悪い思いをしても、人の幸せを願うのが兄さんだった


だから兄さんは頭が良い


悪知恵とも言うのかもしれないな



私は夢の中でご飯を食べ終わったと同時に目を覚ました


当たり前だけど、お腹は満足していなかった





「それでさー、リカちゃん人形が急に振るジュース買ってこいって言うんだよ。んで、俺は買ってきたわけだ。当然、リカちゃんにあげるだろ?でも、リカちゃん自分じゃ振れないって言うんだぜ?指が小さいとか開かないとか言うんだぜ?だから、俺は一生懸命振ったわけだよ。そりゃ身を削って愛のチョコを作る的な変態な俺で。んで、親戚な俺は飲めるように蓋まで開けてやったんだよ、顔目がけてな」




学校に続く坂道


白線がどこまでも伸びている


雲が太陽を隠し、世界を灰色にさせた


学校へ行くために家を逃げるように出た俺は友達のつかさと一緒に登校をしていた


そして今、会話?をしている




「…………てか、聞いてるか?愚民?」




愚民とは愚かな民のことだ


……説明になってなかった




「ああ、鼓膜2枚を通り抜けるくらい聞いてる」




「んでさ、突然になって俺気付いちゃったんだよー。天才的な俺気付いちゃったわけだよー。」




司はまた安心したせいか神をも殺すマシンガントークを披露し始めた


俺は最初から聞く耳持たず、だ




「……俺が買ってきたジュース、普通のコーラだったんだぜ」




その時点で天才じゃなく馬鹿だ


いや、もしかしたら天才を超越しているのかもしれない




「俺、あれじゃん?リカちゃんの顔に向けて蓋開けたじゃん。だからリカちゃん服までびっしょり!!リカちゃんもうカンカン!!」




「最近の人形は豪華でさ。服、透けるんだぜ!!純粋ちゃんな俺はそれだけでウッハウハ!!」




「………どうでもいいが」




「あ?あれだろベ〇ータの真似だろ?どうでもいいが臭くてたまらん…………うは~!!」




「…………全部、お前の夢の話だろ?」




「…………」




急に黙り込んでしまうところが可愛い


なわけないが




「夢でリカちゃんと遊ぶとか…………」




可哀想だな、を寸前で言うのを止めた


司も司で可哀想だからだ






「俺の前にいる男は平城司へいじょう つかさだ。俺より少し背が低いくらいで、顔は童顔。髪は長めでちょっと変態的な匂いがする」




「聞こえてるんだけど?」




「ああ、すまない。俺の悪い癖だ。人の説明とか場所の説明は声に出さないと気が狂ってしまう」




本当の話だ


以前、俺は気が狂ったことがある


はあはあはあはあ、って甘い息を吐き続けるんだ




「てか、お前今日顔色悪くね?」




「え?そうか?」




今日は悪夢を見たからだろうか




「絶対悪いってー、例えるならフ〇ーザとか?」




「お前ドラゴ〇ボール好きだなー。あと、別に何もないから心配するな。言うなら低血圧だ」




このことは気取られちゃいけないことだ


俺に妹がいることと家族が死んでいること


友達には一人暮らしと言っている


隠してれば見つからない


俺は親を失ったうえに、友達までもなくしたくない


罪人が身内にいることを知れば、友達の輪は崩れて穴が開く


罪人とはそんなものなんだ




「……なんだよ?」




「やっぱりお前、顔色悪いぞ?」



「…………知るかよ」




どうして早朝に登校をしたのに早歩きしなきゃいけないんだよ


まったりいきたいものだ


俺はいつのまにか早歩きで司から逃げていた



「はあー」




「俺の前で溜め息を吐いている一見か弱そうな女性は里崎有加里さとざき ゆかりだ。背は俺よりも低い。当たり前だ。髪は最近激減しているポニーテール。顔は平気上。目がつり目なのがポイントだ。」




逃げるように先を歩いていた俺は偶然、クラスの女友達と出会っていた


向こうはまだ俺に気付いていないみたいだ


「どうしたんだ?有加里?」




いつのまにか後ろから司がやってきて、俺よりも先に有加里に声を掛けていた


司に負けたと思うとちょっとショック


いや、かなりショックだ




「あ?司と潤じゃない。おはよう」




「「おはよう」」




「うわハモリ……。まあいいわ、今日は早いのね、2人とも」




「変な誤解しないでよー、困っちゃうよね潤くん」




俺の腕に変態的なオーラが触れた


間違いなく司だ




「き、きもい………」




腐女子様の餌にはなりたくない




「最近、一緒に登校してなかったけど何かあった?」




俺と司と有加里は昔、毎日のように登校を共にしていた


しかし最近になって徐々にに減っている気がする


さっきの溜め息も気になっていたから、この場を借りて聞くことにした




「…………い、いま一緒じゃない」

腕を組んで返答する有加里


俺はある目標のために様々に学んでいる


腕を組み、目線を反らし、なお話の頭が濁るのは嘘をついている、またはそれに似ているもの


つまり、有加里は俺たちに隠し事をしていることになる




「そういえばそうだった」




だから俺は聞かないことにした


隠し事は俺にだってあるし、聞かれたくないことだ


俺の魅惑的な話術を使えば簡単に聞き出すことはできるかもしれない


それをしないってことはわかるだろ?




「まあ、なるべく一緒に登校したいもんだねー」




司の言う通りだ




俺には友達が唯一心を穏やかにできる場所だった


だからなのか、俺は家にいた自分ではない気がしてならない


良いことなのか、悪いことなのかわからない


ただ心に熱いドロドロしたものが込み上げてくる


とにかくそれが嫌なんだ





「そうして俺たち2人と1毛は共に学校へ着いた。久しぶりに一緒に登校したからか緊張している自分が…………」




「1毛って誰のことだよ!」




「お前だ……」




俺は迷わず司を差した


反射に近い動きだった俺の人差し指




「そうだったんだぁ、みんな仲良しさんなんだねぇ」




俺と司と有加里の3人は教室に到着した


そして今、クラスメイトと会話を楽しんでいた


まだ早いのにクラスの半分の席は埋まっていた


ああヤバイ、俺の悪い癖が騒ぎ出した




「この語尾が小文字になってしまう女性は泉はるか(いずみ はるか)さんだ。背は俺よりも有加里よりも低い。髪は肩と顎の真ん中くらい。顔は柔らかい世話好きなお姉さんタイプ。目がたれ目なところがお姉さん特有のトゲを感じさせない」




「あわわわわぁー、私ぐぐられてるぅーーー」




目を回すはるかさん




「ごめん。でもしないとはあはあはあはあ……だし」




「本当っ、その癖どうにかしろよ。その長い説明聞いてるだけで欝になるわ」




腕を組んでブーブー言う司




「別にいいじゃない、はあはあ言われるほうが私は嫌ね」




髪を払いながら言う有加里




「こればかりはごめん。もうどうしようもないんだよ」




だから俺は詫びを入れた




教室の中は静かだった


まだ早いからだろう


俺たち4人の騒がしい会話しか聞こえない


本当に平和だなと、まるで戦地から帰ってきた英雄のように言った


もう俺の頭の中では今朝あったことは薄少していた


こうやって俺は今までも逃げていたんだ


憎しみと快感


俺を内側から崩壊させていくような感覚だ




…………ああ、また憎くなってきた




胃液が煮えたぎるような感覚


何度味わっても劣ることのない感覚


俺は鬼の血を静めようと目を閉じた





「おーい、起きてるかー、愚民」




「いいんだよ司くん、私の話がつまらなかっただけだってぇ」




「………んもう、あんたいい加減にしなさい!!」




「いったあー………、なんだよー?ぐすん」




目をこすりあげると様々な顔をした人が俺を見ていた




「あんたねー………はるかがせっかく良い話してくれてたのに寝てたなんて…………」




鬼をも震える顔が俺の目の前にあった




「いや、寝てるつもりは……。ごめん、はるかさん」




俺は素直に頭を下げた




「別にいいんだよぉー」




胸の前で手をブラブラさせるはるかさん


はるかさんみたいな純粋系は心理が仕草や表情に出やすいからわかりやすくて助かる




「んで、良い話ってなんなんだ?有加里」




俺ははるかさんではなく有加里に聞いた


有加里が言おうとするところを腕一本でするなと表現するのは司だった




「司、何のつもりだ?」




俺を強い眼差しで凝視する司


珍しいことだったせいか心理を読み取れない




「潤は…………聞かないほうがいい」




「……!?どうしてだよ」




視線を斜め下に反らす司




「…………あったかい家族の話だ」




「!?……」




俺はいつのまにか席を立っていた


手が震える、足が震える


家族、家族、家族、家族…………………………………………


俺はいつのまにか走り出していた



視界は青に染まった


斜め30度から差し込む太陽の光


まだ朝なのに強い風が吹いている


俺は気付いたら屋上に立っていた




「家族、か…………」




俺はどうも家族に苦手意識を持っているようだ


はるかさんは良く家族の話を聞かしてくれる


そのせいか俺は未だに彼女をさん付けで呼んでいる


俺はいつのまにか心に壁を作っていたんだ


その原因ともいえるはるかさんについて、まだ説明の余地があった


騒ぎだした悪い癖


周りに誰もいないせいか俺は口を開けていた




「泉はるか。たくさんの姉妹の長女にあたる。面倒見が良く、慕われている。家族を第一に考えているせいか家族以外の興味は皆無といえる。家事掃除は主力になっている。性格が陰気なせいか流行に遅れがちな傾向があるが、本人の努力と独自性でカバーしている。クラスメイトからは好感を持たれており、彼女の家族の話を楽しみにしている人も少なからず存在する。簡単な言葉で彼女を表すなら、家族大好き人間………」




嫌いな人や苦手な人を細かく調べてしまうのも俺の癖なのかもしれない


と言っても、彼女自身が言ったことに俺が勝手に肉付けしただけなんだが


純粋な人だ、間違いがあっても紙一重の差異だろう




「さっきからブツブツと煩いな………」




目の前に突如出現した女


悪い癖が騒ぎ出すが、それも一瞬に消えていった


彼女は見たこともない人だったからだ




「……見ない顔だな、名前は?」




「飾霧沙耶だ」




躊躇わず真っ直ぐに答える凛々しい姿に、俺はなぜか好感を持った




「飾霧さん、か…………よろしく、俺は潤だ」




俺はそうして手を差し出した


俺くらいな人になると相手の手を握っただけで半分のことを理解できてしまう


見知らぬ人と知り合った場合、俺はよく握手を求めるんだ




「そ、それは………!?」




左腕に広がる黒い龍のような刺青


もはや肌は肌でなくなっていた




「……わかるならわかっているな」




「私に触れてはいけない……」




俺はだらしなく伸ばしていた手を垂らした




「えー、新しいクラスメイトの飾霧沙耶くんだー」




誰もが目を点にして騒ぎだしていた


屋上で出会った飾霧さんはどうやら俺たちのクラスの転入生だったようだ


腰まである長い髪、整った顔立ちは深さを感じさせる、真っ先に視界に入る左腕


初めて見れば誰もが異常を感じてしまう




「飾霧沙耶です、よろしくお願いします……」




斜め60度に頭を下げた飾霧さん


クラスは一瞬にして静まりかえった




「えー先生から一つ忠告をしたいと思う」




「飾霧くんに触れられたり、触ったりした人を見掛けたら職員室まで連行しにきなさい………以上だ」




教室がまた騒がしくなった


ただ一人、俺だけは机の木目を数えていた




…………どうして罪人がこの学校に?




それが俺が初めて彼女と出会ったときの率直な感想だった


飾霧沙耶は罪人だ


それに罪人の中でもかなりの罰を背負っている


証拠はあの左腕だ


罪人は自分が罪人であることを証明するために左腕に刺青を入れられる


罪の大きさによって刺青も変わってくるのだが


飾霧沙耶の刺青は俺が思うに最大級だ


いったい何の罪を犯したというんだ?


あれを目指しているからか、俺は彼女に興味を持った


今日はちょうどいい、先生に聞いてみることにしよう




「ねーねー飾霧さん、その左腕でうしたのー?」




机の木目を100まで数えたら、教室は喧騒の渦中だった




「別に……」




たくさんの質問をまるでハエの羽音のように無視する飾霧沙耶




「別にって………」




クラスの女子は一歩引いて、様子を伺った




「沙耶ちゃーん♪」




いきなり馴れ馴れしく呼ぶのは司だった




「……なに?」




一瞬で凍らせるような鋭い目付きで司を睨み付ける飾霧沙耶




「どっから来たの?僕はね、北の寒い山から来たんだー。だからなのかな、とっても寒いのが苦手なんだよ」




「……その質問には答えられない」




司を完全に無視し、質問にはちゃんと答える飾霧沙耶


模範回答が誰かに用意されているみたいだ




俺はこの状況から読み取れる情報を隈無く探り寄せた


まず、わかったことは俺が予想しているよりも罪人を認知できる一般人が少ないことだ


俺のような認知できる人は罪人だとわかっただけで会話なんておろか、目線を合わせるだけで不快感を抱いてしまう


しかし、俺のクラスメイトは誰一人そんな様子を見せなかった


つまり、罪人の左腕……罪の刻を知らないということだ


その他にわかったことは、飾霧沙耶は色々と規制されて学校に来ていることだ


質問には答えられないと即答するあたり、模範回答があらかじめ用意されていた


つまり、罪人を監視する裁人官がいることになる




「なんか色々と面倒なことに巻き込まれてきた清水潤であった」




悪い癖がまた発揮された



ずっと黙り込んでいる飾霧沙耶はあっという間に人気が落ちていった


人気が落ちる中、不満と文句が急激に上昇しているのにも彼女は興味がなさそうだ


今はずっと窓の外を眺めている




「だから俺は何気なく話掛けた……………やあ、飾霧さん」




悪い癖と日常会話のコラボレーション


実は罪人である彼女には一般人以上の興味を持っていた




「……ああ、潤」




いきなり呼び捨てにされた




「なんかスカッとした性格だな」




いや、サバッとした性格か?




「……で、何?」




「俺は周りの人よりは罪について詳しいつもりだ。飾霧さんの罪について確認を取りたいと思っている」




少しだけ声色を変える


まあ彼女にはあまり通用しないとみた




「……人の接触の禁、絶対服従の禁、あと…………」




「身内が殺された」




やっぱりかなり重い罰だ


あまり考えたくないが俺の妹は飾霧沙耶よりは軽い


飾霧沙耶からはその他にもいくつかあると聞いた




「……ありがとう」




さて


放課後は長くなりそうだ




「失礼します」




学校を終えた俺は古風な扉の前に立っていた


茶色いニスに塗られた扉は俺みたいな貧乏にはそれだけで高級に見える


綺麗に施された窓から差し込む光によって扉は輝いているように見える


なぜ扉のことばかりだって?


知るか、ボケ




「……入れ」




扉の向こうから重低音が聞こえてきた


別に音楽を聞いているわけではない


向こうにいる主が重低音ある声の持ち主なんだ


とても恐ろしいな




「なんだ、君か」




「ご無沙汰しております」




俺は直角に頭を下げた


ここに訪れたのはおやそ1ヶ月前くらいか




「どうした?何かあったか?」




「はい。私の学校に大罪を持った女性が転校してきまして、先生に話を伺おうと参りました」




一般生徒には放課後という時間が与えられていることだろう


俺は学校の先生ではない先生のところへ訪問しにきていた




「………そうか、接触したようだな?」




「はい。おそらく一番言葉を交わしました」




気のない会話だったが、たしかに一番長く話をしていた




「ふふ、そうか………」




不適に笑みを浮かべる先生




「お前には関係ないから気にするな」




腕を絡める先生


表情、仕草から心理をまったく読み取れない




「わかりました」




俺はそうして踵を返そうとドアノブに手を掛けた


ドアノブは鈍く金色に輝いていた





「待ちなさい」




「はい、なんでしょうか?」




ドアノブから手を離し、姿勢を正した




「これを持っていけ」




「これは………?」




少し頑丈な紙に名前や電話番号が書かれていた




「ああ、私の名刺だ。きっと役に立つ」




「…………わかりました」




なぜ名刺なんだ?


理由を聞く発言権もない俺は黙っていた




「お前は優秀な犬だ」




「お前みたいな逸材は少ない」




「ふふ、悪魔に魂を売ったようなものだ………」




「………………」




俺は無言で直立していた




「俺がこの手でお前の両親を処刑したのに、お前は俺の犬になるなんて…………」




「…………それは」




「ん?なんだ言ってみろ?」




「妹の罪ですから……」




世界は狂っている


同じくらい俺も狂っていた




「はっはっはっはー!!いいぞいいぞー」




本心から笑いあげる先生


名刺には鮫島とかかれていた




「清水、お前の力を借りたい…………」




「はい、なんでしょうか?」




力を借りたいと言われたのは初めてのことだ


心から喜びを感じ、踊りたい気分だった




「とにかく罪人を増やせ…………それだけだ」




罪人を増やす?




「…………わかり、ました」




俺は再び鈍く光る金色のドアノブに手を掛け、今度こそ手前に引くんだった


俺はこの扉を登竜門と称する


そう、俺が鮫島先生のような裁人官になるために





「んでさー、今日はね、例のリカちゃん人形のリカちゃんがね、急に漢字を教えてほしいって言ったんだよー。でもやっぱり手使えないじゃん?だから俺が代わりに漢字を書いたわけ。ここからがリカちゃんのすごいところで、リカちゃんは最初から俺に漢字勉強をさせるつもりだったらしーんだよ。な?すごいだろ?」




「んで、何の漢字を書いたんだ?」




「なんだっけなー………たしか、私を愛玩してくださいリカ様、だったような」




「それは奴隷申告手続きじゃねえか」




今日も賑やかな一日の始まりを迎えようとしていた


真っ直ぐ延びているはずの白線が歪んで見えるのは、日光に熱せられたコンクリートの陽炎だった


昨日より少しだけ暑く感じるせいか、俺は腕まくりをして司と登校していた




「どうやら夏は間近なようですよー」




ヤバイ、最近、癖が悪化している気がする




「いったい今はどのくらい暑いのでしょうかねー」




ヤバイ、会話が成り立っている




「ん…?32度だ」




そうやって手に持っている測定器を俺に見せてきた


32度とか朝でこの暑さとかまぢ死ぬぞ




「暑さでイカレてきたぜ……はあはあ」




「はあはあ……」




まさかこの日が普通の司の最後になるなんて思ってもいなかった


時はすでに遅し


司が持っていたのは圧力計だった


あのときから司は狂っていたんだ



悪夢から2日目


鬼のような冷たい血は未だに俺の身体の主導権を握っていた


今日の朝早くに目が覚めてしまったのもそのせいだ


寝汗がすごかったから間違いない




まだ辺りは暗かったが直ぐに原因に気付いた俺はカーテンを全開にした


一瞬で視界が明るくなり、ハウスダストがキラキラと舞っていた


汚い


そしてまた俺は自室を出て、百合の部屋へ向かったんだ


もちろん一方的な暴力を振るうためだけに




今日もたくさん殴ってしまった


おかげで拳が痛む


百合には同情なんかしていない


ただ、自分が人を傷つけていることが嫌だった




真っ暗な世界に人の顔だけが浮かぶ様は異様だった


俺を一番動揺させたのは鮫島先生だった


…………罪人を増やせ


いかにも先生が好きそうなことだった




「そういえば先生については説明が不足しすぎていたね」




あー


本格的に癖がヤバくなってきたー






鮫島克利さめじま かつとし。鬼教官と恐れられており、俺の親を処刑した過去を持つ。好きなものは金と家畜の飼育。人を殺すことは虫を殺すことと同等に思っている、それ以外、全て未詳…………」




と言っても、この説明でさえ事実なのかわからない


俺があの日から先生を見てきた客観的な事実ではあるが、それは事実とは限らない


つまり先生は謎であって事実を掌握することもできない




「そして俺が先生を先生と呼ぶ理由はだな…………」




はは、猿人が人間に進化したように俺の癖も進化してやがる




「俺が生命を宿した以前に世界は狂っていた。つまり俺の知る世界は狂った世界一つだった。その世界が俺にとって当然だったんだ。狼に育てられた人間が狼になるように、俺も狂った世界に生きる人間なんだ。だからなのか、俺は罪人になった百合を憎んだ。法律や裁人官は憎まず。その考え方が先生に好感を持たれた。たしか、先生の初めての言葉は…………」




良い眼をしている、だ


憎しみと殺意に満ちた眼で百合を睨んでいたときにだ


社会に反感をもたず、憎しみの権化だけをただ憎む


俺はあの日から豹変した


復讐の炎を自らの口から吹いた


憎き百合に復讐するために


万人に俺の不幸と同等の不幸を味わせるために


俺は先生の家畜となり、骨となった




「罪人を増やせ、か…………」




家畜にはもったいないよな、ククク






「ぶつぶつぶつ…………」




「お前さっきからぶつぶつぶつ………………うるせえよ」




「え?あ?すまんすまん、ぶつぶつぶつが俺のブームなんだ」




なんかマジで癖が悪化してるな


あの悪夢になんか関係があるのかもしれない、いやないか




「え?流行なのか?ぶつぶつぶつ…………が?マジかよ?」




「ああ、俺は流行の尖った先端にいなきゃいけないんだ」




「マジかよ?流行って尖ってたのか?じゃあ俺もぶつぶつぶつ…………」




「ぶつぶつぶつ…………」




そんな調子で学校まで二人でぶつぶつぶつと呟いていた


司はやっぱりリカちゃんが中心だった


俺はとても他人には聞かれてはいけないことを呟いていた






「そういえば、昨日の放課後どこにいたんだ?」




「え?ああ、例の病院だよ」




司がいきなり聞いてきやがった


思わず、先生のことを言ってしまいそうになったぞ




「へー、まだ通ってたんだな。おっけおっけ」




「まあ、けっこう治療しにくい病気みたいでさ、でも大して体への悪影響もないみたいだから、そのまま放置する患者のが多いらしく、俺みたいなのはけっこう珍しいんだとさ」




一応、それなりの嘘をついてやった




「そんなのどうでもいいって」




笑いながら司はそう言った


実は司の表情からも心理を読むことは難しい


ただ、俺にわかったことは笑っていることだけだった


そう、笑っていたんだ




「あははー、みんなーおっはよー」




眩しすぎる笑顔を晒しながら俺と司は教室に入った


いや笑顔なのは司だけだ




「・・・・」




司はどうやらたくさんのクラスメイトに無視されたようだ


一瞬サイレントモードになった教室は再び活気を蘇らせた




「ああ、潤くん、おはよう」




「・・あ?おはようございます」




苦手なはるかさんから俺だけに朝の挨拶をされてしまった


俺はちゃんと返せたのかなー?ぐすん




「今日は有加里さんと一緒じゃないの?」




そういえば登校中会わなかったな




「そうだね、今日は一緒じゃないよ」




俺が答える前に司が答えてしまった


かなり悔しい




「それから3人の言葉のキャッチボールは途絶えてしまった。俺が思うに、原因は司だ。絶対そうだ、いやそうに違いない!!」




「はあーはあー、今日一日口臭大丈夫かなー?」




どうやら司の口臭が原因のようだ


有加里が来たのは、それからかなり後になってからだった


彼女の表情はかなり悪いものだった


とても深刻な





「朝から何か具合悪そうだけど、どうかしたか?」




昼休み


緊張感のない授業から解放され羽根を伸ばす生徒


お弁当を広げて“また昨日の残り物かよ、俺は豚か?”と騒いでいる生徒


ポ〇モンふりかけを手にとり“これで全種類のシールが手に入るよー”と喜びに涙する生徒


様々な生徒がいるなか、俺は有加里が気になって声を掛けた


するとすぐにいつものメンバーが集まり出した




「ファイト、だよ♪」




あの有名PCゲーム会社のキャラの口癖を使って励ますはるかさん


多分、本人は自覚ないし、あったら怖いし




「背中は俺が守るぜ」




意味不明な発言をするのはやはり司だった




「みんなありがと………」




「みじかっ?」




どうやら俺たちの声は有加里に届いていないようだ




「さて俺の眼力を使うとしますか…………ククク」




ヤバ、また口癖が




「ちょっと?何ジッと見てるのよ!!」




有加里が暴れだす


そんなの関係ねえ




「…………ふむ」




これはどうやら冗談じゃなく、かなり深刻な話になりそうだ


有加里の表情、言動、目、手、足…………


いろんな部位から不安が見える


朝から様子がおかしかったことを考えると




「家庭の事情、か…………」




………ッ!?


突如、激しい頭痛が俺を苦しめた




「なんか臭くね?」




「え?マジ?」




「司の口から匂ってくる」




「…………ごめん」




司は小さく頭を下げた


なんか可愛い




俺はそうやって話を変えた


昨日と同じように触れられたくないところは触れない俺なもんで


チラ見しても、有加里は引きつった笑みを浮かべているだけだった





「まったく、悪夢を見た日からいろんなことがあった気がするんだが、どうよ?」




「そうだなー、たしかにそれは事実だが、俺が思うに悪夢があってもなくても関係ないとー」




「いや癖が悪化してきたのは異常だって…………」




「はあー…………」




俺は一人で溜め息を吐いた


家に帰ってきたら、早速自分と会議をした


口癖のレベルを越えているよな




「しかし俺はそのおかげで脳内を整理できた」




俺が言うとおり、脳内は落ち着きを見せていた


まず、飾霧沙耶だ


大罪人でひとまず棚に置いておく


次に有加里だ


眼力のある俺の分析結果は家庭の事情と予想した


俺は自ら触れないタイプだが、頼られたら力を貸すタイプでもある


しかし家族になってしまうとな


ああ、頭痛がー




「今日はオネンネしよう、ぐすん………」




そうして俺は布団の中に潜り込もうとした


良い夢を見れることを祈りながら


しかし、儚く一本の電話により散っていった





「もしもし。ピザの配達は無理ですが、膝なら…………」




布団に潜り込もうとしたとき、けたたましいベルが家中に響いた


この家にとってはかなり珍しいことだった


だから俺はちょっとだけテンションをあげて、電話に出てしまった


ピザとか関係なく、今は夜の10時を過ぎていた




「………潤なの?」




「なんだ有加里か?どうした?夜逃げか?準備して待ってろ、今会いにいきます」




「…………まあ夜逃げみたいなものかもしれない」




「はあ!?」




おいおい、せっかく明るくやってんのに、夜逃げかよ?


俺はすぐに声色を変えた


有加里は真剣なようだ




「潤、今から会えないかなー………?」




不安に押し潰されそうな声




「俺は構わないが、どうしたんだ?いきなり」




まずは味方なんだと相手に思い込ませる


そうすると向こうも安心してペラペラと事情を話すもんだ




「べ、別に…………ただ少し話したくなっただけ」




「電話じゃ駄目なのか?」




夜逃げの話はどこへ行ったのやら


有加里は相当追い込まれてるみたいだな、いろいろと




「電話?えっとー………できれば直接…………」




「親の許可は?じゃないと俺も何かあったとき責任がとれない」




許可があっても無理だ




「え?…………許可はとったよ、いいって」




「…………じゃあ財布と必要なものを用意しろ。学校の近くの公園のジャングルジムのてっぺんで待ってる」




「財布?必要なものって?」




やっぱり夜逃げは忘れていたか




「夜逃げすんだろ?だったらそれなりに準備はしとけ」




「え?あ、うん、そうだね……そうだったよ…………」




「じゃあな……」




俺は返事を待たずに受話器を下ろした


有加里の奴、いきなりどうしたんだ?


夜逃げとか言うし、話したいとか言うし


一番わかりやすい恋愛感情なんて今までの有加里には一切感じられなかったし


やっぱり家族の事情、か…………ククク




「さて、俺は手ぶらで待つだけ待ってみるか」




ジャングルジムのてっぺんに昇るのは、この俺だ!!






「ああー寒いよー寒いよー」




季節で言うと今は春なのに、俺は寒さを感じていた


心が貧しいとさ、寒いって言うだろ


現在10時30分


時計を持っていない俺はてきとーにそう思った


顔を上げると、夏の大三角形が夜空に浮かんでいた


都会の空でもまだ星を眺めるのに驚いた


星とカエルの合唱はそれなりに趣があった


そして、寂しい俺も一緒に合唱しようとしたときだ




「………来て、くれたんだ、ね」




学校での刺々しさを一切感じさせない有加里が俺の前に立っていた


走ってここまで来たのか肩で息をしていた


なんか恋人みたいだな




「………んで、話ってなんだ?」



そして俺は告白された


上目遣いなのはルール違反だ


というのは全て俺の妄想だった




「え?夜逃げは?」




有加里は大きなバックを肩に下げていた




「その荷物は?」




あくまで夜逃げは知らないみたいに聞いた




「え?ええー、だって潤、夜逃げって…………」




「俺はそんなこと言ってない」




手に何も持っていないことを示しながらそう言った




「…………」




黙り込む有加里


だんだんと頬が赤く染まっていくのを俺は見逃さなかった




「そう………司がね、夜逃げっていえば潤は必ず来てくれるって言ってたのよーあははー………」




けっこう上手い逃げ方だった


司を使うのはいい手かもしれない




「んで、本当は?」




声色を威厳あるものに変えた


手や目も顔も、だ




「…………ほほほ本当に特に何もないんだって!!」




ちょっと驚かしすぎたか




「まあ暇だから、ゆっくりでいいからさ」




そうして俺は深くベンチに座った


有加里はちょこんと俺の横に座った





「…………………………」




有加里は一向に話す様子がなかった


マジこんな空気吸いたくないんですが




「おいおい黙ってたら朝になっちまう。カエルと合唱しちまうぞ」



「あ、それいいわ♪聞きたい聞きたい」




ヤバ、墓穴掘った




「いい加減にしろよ、こんな夜遅くに呼び出しやがって」




声だけヤクザにした


言動もヤクザに




「早く言わねえと犯すぞ」




ヤバイ、ク〇ウザー2世みたいなこと言っちまった




「…………別にいいよ」




「はい?」




「…………だから、いいんだよ」



俯いて有加里はそう言った




「お前、今自分が何言ったのかわかってて言ってんのか?」




何かがおかしい


俺の知ってる有加里じゃない




「わかってるよ…………」




「じゃあ」




俺はそこで言葉を止めた


有加里は目に涙を溜め、俺の両眼を潰すかのように睨み付けた


そして、こう叫んだ




「わかってるよ……!!!!」




「わかってるって………そんなことは…………」




そして、自ら塞ぎ込み、潰れていった




俺の話術は成功したようだ


あんなに睨み付けられたのは久しぶりだった


ククク…………


俺の耳はしっかりと声を捕らえていた


なんとなく光景が浮かぶほど、酷い声だった




……………私なんか、どうでもいいんだよ




有加里は最後にそう言い付け加えた


意味するのは何か?


想像するのは楽しいことだ





「…………まあ、なんだ。また明日、ここで待ってるよ」




今日は俺がもたない


何か手助けをしようと思っても俺自身の心の準備がまだ十分じゃない




「…………うん、わかった」




刺々しさを失った有加里は狂おしいくらい可愛かった


夜なだけに……いや駄目だ


家庭の事情を俺がどうにかすることは無理かもしれないが、それ以外なら是非とも任してほしいものだ




「じゃあ明日、同じ時間に」




そうして俺は有加里と別れを告げた


明日、有加里の顔が今日よりも暗かったら本気になろう


家庭の事情は……………


まあ、有加里は友達だ


頑張ろうじゃない




そうして夜は更けていった




「あー眠れない」




あまりに目が冴えていた


マイベットで両手両足をバタバタさせてみた


お前はバ○子さんか、とツッコミを忘れない


羊も数えてみた


6匹目はアンパ○マンのパンチによって儚く人生の幕を下ろしていった


正義のヒーローはゲラゲラと笑っていた


というわけで、俺は眠れないんだ


ああ、嘘ね




俺が眠れない原因は絶対に有加里にある


はっきり言うが、あんなに元気のない有加里は見たことがない


クラスでは元気がいいほうで、逆に元気をもらっていると言っても過言ではない


男女差別のない有加里は異性にも好感を持たれている


俺だってちょっと前までは毎日共に登下校をしていたくらいだ


だから友達があまり多くない俺にとっては司と同じくらいの仲だといえる


この際だから司も友達な・・・・




それが最近酷く元気がない


どうしてなのかはわからない


俺の勘によると、どうも俺の苦手とする家族が関係しているらしい


いきなりの電話


一緒の登校が減る


夜逃げ・・・・


私なんかどうでもいいんだよ・・・・




「あー余計眠れんわ!!」




頭を冷やすか


そうして俺は水を飲みに一階へ降りていった


階段に躓かないほど、空は白んでいた



一匹のハウスダスト(埃)がキラキラと宙を舞っていた


それは俺が子供のときに見た、平安京の貴族の踊りそのものだった


埃は俺に話しかける


・・・・あなたをずっと待っていました


俺は涙が止まらなかった


1300年前の埃が俺を待っていたんだ


キラキラと踊りながら


涙を見せまいと目を擦った


・・・・やべ、見失った


埃は山となった


所詮、埃は埃


見分けがつくわけないじゃん、はは




「あーいい具合に気分がダウンしてくぜぇ・・・・くく」




だいぶ俺は落ち着いた


心地よい眠気が襲ってくる


ほーらぁ、階段が階段に見えてきたぁー


くく・・・・




「はふー」




そうして俺はマイベットに戻ってきた


臭いのを除けば悪いところはない




「・・・・さて、落ち着いてきたからもう一度考えるか」




鋭い日差しが窓から差し込んでくる


眩しいと感じるまで目を開いた


視界は真っ白に染まっていった



まず、考えられることをとにかく挙げてみよう


俺は一冊のノートを取り出した


鮫島先生から教わった記憶法の一つだ


自分の頭の中をうまく整理できないとき考えたことを箇条書きでもいいから書いていく


考えられるだけ書き終わったら、ノートを眺める


すると思ったより頭の中はスッキリする。不思議と


本当はメールを自分宛に送信するのが一番いいらしい


まあそれは面倒なんで却下




俺はそうしてノートに書いていった


有加里、司、飾霧沙耶、はるかさん、鮫島先生・・・・


覚えている言葉、表情全てを簡単に書いていった




「・・・・へ?」




最後、有加里を整理していく


得られる情報はあるか?


気になる言葉はないか?




「ない、だと!?」




結果はどれも曖昧なものだった


整理できることは既に俺の頭の中で整理されていたみたいだ


そんな中から、ただ一つ強い予感を発していたものがあった




「みんな繋がっているだと!?」




そう


さっき挙げた人物に繋がりがあったんだ


名前と名前が俺が引いた線で繋がっている


それは円を形作っていた




「なんなんだよ、これ?」




意味がわからない


先生なんてまったく接点がないはずだ




「くそ」




俺は紙を丸めた


整理できなかったことに苛立った


そしてそのまま布団に潜り込んだ


今日だけは太陽がなきゃいいのにと





「おっそーい」




俺はその日夢を見た


とっても心地のよい夢だった




「うわ、引っ張るなって百合」




百合…………


俺はどうやら昔を夢で思い返しているようだ


百合がいるのに心地良いのはなぜだろうか




「あらあら、そんなに急いでも鍵がなきゃ車は開きませんよ」




お母さん…………!?


俺は夢の中、完全に目を開いた


暖かい太陽の光


庭に生える緑の草々


家の屋根は光を反射し白く輝いていた


同じように目の前の車も輝いていた


俺はこの車を知っている


お母さんの車だ




「お母さーん、早くっ♪早くっ♪」




車をベタベタ触りながらお母さんを急かす百合




「はいはい、もうすぐだから」




そういって鍵を開けるお母さん


純粋な笑顔だった




そうして俺もお母さんの車に乗り込んだ


懐かしい柔らかい座席


この匂い、居心地、俺は全部知っていた


座席ミラーに反射して見えるのはお母さんの純粋な笑顔だった


向こうからは俺は見えないらしい

久々に手に汗を握った



小さい俺と百合は後部座席で楽しく遊んでいた


本当に昔を映し出した夢なのか疑うほど俺は百合と仲が良かった


百合は花のような幸せな笑顔をしていた


小さい俺もこの頃は笑っていたんだろうな




「あー、すまんすまん。あまりに大きいウ〇コに苦戦して遅れてしまった」




と言って、運転席に座ったのはお父さんだった




「え?お父さん!?」




これが夢だとしても驚くものは驚く


死んだ父親ならなおの話だ




「お父ーさん、臭ーい」




隣にいる百合が鼻を摘んでいた


その隣にいる小さい俺も




「あなた、早く出発しましよ」




…………!?


お母さんが急に顔を歪めた


今の俺ならわかる


この表情は悲哀や嘆きの類だ


当時の俺は気付きもわかりもしなかったお母さんの気持ちが今になってわかった気がする


そして俺の耳にだけ聞こえてくるお母さんの呟きがあった




「兄弟にならなければ良かったのかしら…………」




お母さんは遠くを見るような目でそう言った


もし視界にUFOが出現したとしても、お母さんの目には映らなかったことだろう


それほどにお母さんの目は雲っていた




そして俺の夢も落ちていった






「ふわあー、よく寝た」




ハウスダストが舞う中、俺は大きなあくびをした




「げほっげほ」




たくさんの埃が口の中に入ってしまった




「あー、なんかダリィなー」




さっきのよく寝たってのは嘘だ


この季節に夜が白むのは早くても5時だ


つまり俺が目を閉じたのは5時以降になる


そして今、8時だ


みんなわかったかな?


僕は4時間しか寝ていないことになる


6時、7、8…………?


あ、3時間だった




とにかく気分は最悪だった


頭は痛いし、頭は痛いし、頭は痛いし


そういえば喉が乾いたな


俺はベッドから起き上がると水を飲みに自室のドアノブに手を掛けた






「あ!兄  さ  ん!?」




ドアノブを捻り、押すといつかのように百合が立っていた




「ちぃ……」




舌を鳴らした


寝不足のせいもあってか、俺はかなり機嫌が悪かった


突如、自分が自分じゃなくなっていく感覚に襲われる


…………駄目だ


そう強制しようとする俺とは関係なく腕が大きく挙がった




「きゃ………!」




百合は床に倒れた


だんだんと赤くなっていく頬


だんだんと痛みを増す俺の拳


幸せな夢を見たせいか俺の心を引っ掻いていく




「百合…………」




気付いたら俺はその名を呟いていた


駄目だ




「ぐっ…………」




倒れている百合に蹴りを入れた


誰から見ても喧嘩ではない、一方的な暴力だ


憎しみがあった


強大で醜悪な




俺はそれからも一方的な暴力を振るい続けた


誰から見てもそう見えるように






「ごくごくごくごく……」




冷たい水が喉を潤す


殺気だってた心も一瞬で冷えていった




「今日は絶対呼び出しくらいそうだな……」




あのお方は俺のことならお見通しみたいだからな


拳の痛み以上に痛いったらありゃしねえ




「お母さん、お父さん……じゃあ行ってくるよ」




俺は写真立てにそう告げた


写真の中の2人は笑顔だった


毎日欠かさず挨拶をしている俺はかなりマザーとファザーコンなのかもしれない


死んだんだ、しょうがないだろ




俺はそうして明るい外に歩を進めた

 





「んでさー、今日のリカちゃん凶暴化しちまったみたいでよー。うふふ、とかテレパシー発しながら俺の顔をお人形さんの靴で踏んでくるわけよー。なんかこう……“あなたは今日からリカちゃん様の雌豚よ”とか言ってくるわけよー。わかる?俺の気持ち?」




あー、この長い話を聞いていると朝だなって感じる俺


途中出会った司といつものようにリカちゃん話で盛り上がっていた


道行くおばさんは俺たちを指差して嘲笑う


幼稚園児はコンクリートの地面に腰を下ろし、ポッキーを吹かしている




「ここら辺も荒れたなー」




しみじみ


俺は簡単に司のマシンガントークから現実逃避




「ほんとほんとー、昔なんてポッキーくわえていただけで罰金だもんなー」




いや、罰金はない




「んでさー、リカちゃんが…………」




そういえば


司も昨日書いたノートの円の中に入っていたな


誰とも繋がりがあった


怪しいとは思うが、記憶整理方にも過ちはあるはずだ


司が先生と繋がっているはずがない


つまり、気にするなってことだ




「やーやー、司ー、潤ー」




「お!有加里、おはよー」




元気に手を振る有加里


それに負けないくらい元気な挨拶を返す司




「……有加里?もう大丈夫なのか?」




昨日のこともあってか俺は有加里のギャップに心配した




「え?あ、うん……大丈夫大丈夫!!」




太陽にも負けない輝いた笑顔をする有加里


いつもの有加里がそこにいた




「昨日元気なかったみたいだから安心した」




これで一安心


気になることはあったがまだ聞かなくてもいいだろう




「あ!昨日、ね……あはは…………」




「あははー」




俺も笑った


…………大丈夫じゃねえじゃんか


俺には先生から学んだ眼力がある


だからこそ、わかる




…………有加里は何も大丈夫じゃねえ


むしろ酷くなっている


無駄に空元気を振る舞っている




「…………俺、さき行ってるわ」



俺は一言みなにそう告げて、早足でその場を立ち去った


嫌な汗が背中を伝った



足音一つない校舎


元から登校が早いせいか俺はどうやら学校に着いたのが一番のようだ


とりあえず昇降口から校舎に入る


上履きの中に画ビョウが入っていないか確認する


大きな窓から差し込む朝日


綺麗にされていない窓は若干光を遮っていた


俺は階段を登った


画ビョウが置いていないか確認する




「ガラガラガラ」




寂しさを紛らわせるために口で扉を開いた音を表現した


綺麗に配置された机を見て、乱したいという衝動を抑えた




「ふー」




持病の痔に気を付けながらマイチェアーに座った


いたい


のは嘘




「さて、得意のペン回しを披露しながら考えましょうかー」




くるくるっと




「…………」




ペンは意志があったようだ


俺の手先を無視して転がっていってしまった




ペン回しはやめた


回せないんだ




有加里…………


俺は集中して有加里について考えを巡らしていった

 


有加里の元気のなさは異常だ


昨日も言った通り、有加里は元気っ子だ


元気で優しくて、少しだけ怒りっぽい


それが最近元気がなくなった


クラスでは俯いていることが多くなった


一緒に登校することが少なくなった


俺の考えだとどうも家庭が関係している


そこで気になるのは有加里の言動だ


…………どうでもいいんだよ


耳にタコさんウインナーができるくらい気になる


そして更に気になるのは今日の元気を振る舞う姿だ


急に元気になったように見せた


夜に呼び出された俺にも飾ってきた


俺の予想だが、有加里が俺に配慮している


他人を気遣う有加里の優しさだ


なのに夜に呼び出されたってことは他人に配慮できないくらい有加里は苦しんでいたってことになる




「なんかーなんだかなー」




多分、俺の眼力と思考は信じてもいいだろう


あとは




「先生、だな……」




先生と繋がりがあると示した記憶ノート


過ちだとわかってても万が一の可能性がある




「一応、備えておこう」




だいぶ癖も様になってきたな




「先いくなんて酷いじゃねえかー」




司が教室に入ってきた


後に続くのは元気のない有加里




「すまんすまん、トイレだよ」




俺は今、珍しい体験をしようとしている


他人のために動くことだ


一人にこんなに興味を持ったのもあの日から初めてかもしれない


やはり、友達だからか…………




「ぶつぶつぶつぶつ」




1日の学校生活が始まった





「ってことで俺、早退すんね」




昼休み


授業の疲れにひれ伏していた俺に司が話かけてきた




「え?聞こえなかった」




俺は教科書を机の中に入れながらそう言った




「ってことで俺、早退すんね」




司は何の理由か知らんが早退すると言っている




「へーそなんだ、んじゃ」




特に気にする必要がない


俺は眠いんだ




「じゃーなー」




さっさと教室を出ていった司


具合が悪そうには見えなかったからサボりだろう


司はそんなに悪じゃないが、月1でサボりがある


理由はわからないが個人的な用事があるんだろう




「あー頭いたい」




寝不足はつらい


あまりの眠気に頭は重くなる


いくら眠くても頭痛がして眠れたもんじゃない


眠れなくても目を閉じていることが大切と聞いたことがあった




視界は一色に染まった


まだ昼日中だから黒に染まることはなかった


眩しい光が瞼を通り、角膜に


どっちかというと赤色に近かった


昼休みはずっと目を瞑っていることにした



……そして予想通り、先生から呼び出しの電話があった




「はい、もしもし」




相手はわかっていた


この携帯電話はほぼ先生専用だ




「昼休みか?」




喉にかけた重く深い声


先生から学んだ心を読むことも先生にだけは通用しない




「はい、それで用件は?」




俺はなるべく早く済ませたかった


長電話では俺が不利になるからだ




「学校が終わったらすぐに来い」




どこに?なんての愚問は許されない


俺はただ用件を飲むことしか許されていないんだ




「あと……」




電話を切ろうとした直後だった




「お前はまだ鳥じゃない」




ねちねちしたひどく重い声


そこからは怒りと恐怖という未来しか感じられなかった




「では」




俺はそうして電話をきった


震えているなんてかなり久しぶりのことだった






「あー嫌だなー」




俺はテストを嫌がるような気持ちでそう言った


本当はどうしようもないくらい怖かった


鮫島先生は異常だ


俺がどんなことがあっても先生にだけは逆らえない


俺の一枚や二枚も上をいっているからだ


暴力という力も並大抵ではない


俺が鬼だとしたら、先生は人間の群衆だ


つまりたくさんの人を使う権力もあるってことだ


たとえ鬼でもたくさんの槍や鉄砲の前ではネズミへと成り下がる


先生自身も俺以上に強いはずだ




そして何よりも厄介なのは先生の権力だ


この狂った世界では先生が人を殺したとしても罪にはならない


強大な裁人官は法律に制されないんだ


だから俺みたいな凡人はあっという間に殺される


本当に気をつけなければ




司がいなくなった昼休み


クラスはいつもの賑わいを見せていた


授業が始まるまで俺は一切話掛けられることがなかった


俺の殺気じみたものが滲み出ていたからか


ただ単に俺に興味を示す人がいなかっただけなのか


確かめようがないことがひどく気になった



歴史を感じさせるドアの前に俺は立っていた


茶色いニスに塗られたドアは気品があり、鼓動を速まらせる威厳があった


黒く錆びているくすんだ金色のドアノブに手を掛けた


何人もの人が触れてきたドアノブに俺は今、手を掛けていた


手の汗がドアノブを包み、冷たさが手先から広がっていく


このドアの先、何人の人が殺されてきたのか


俺が今入ろうとする場所は獅子の檻内


死と隣り合わせ


自分からドアノブを捻るのは狂人なのかもしれない


震える手


唾がつたう喉元


一粒の汗が大きな音をたて地面に落ちた


俺は殺されるかもしれない


根拠のない恐怖に支配された




そうして捻っていたドアノブをゆっくりと押していった




「遅かったな」




俺を待ち構えていたように深く座っている先生がそう言った


蛇に睨まれた小動物のように身動きができなくなった




「どうした?早くそこに座らんか」




鋭い眼光に射られ続ける


嫌な汗が全身から吹き出る


俺はなんとか座ることができた


首を上げると鬼のような先生がいた


自然と見下ろされるように設置されていたんだ




「どうした?やけに静かだな」




言葉には優しさがあったが、目は笑っていなかった


いつ殺すか伺ったような目は直視できないものだった




「……おい」




喉を鳴らしたような呼び声


あまりの恐怖に俺は喉に言葉を突っ返た




「お前は誰だ?」




俺は見下ろされながら先生は怒りを見せていた


椅子に深く腰掛け微塵も動かない先生


顔だけは鬼のように歪み、恐怖そのものだった




「お前は誰だと聞いている」




答えようがなかった


まず恐怖に支配された身体は自由を奪う


口から出るのは音ではなく息だった


…………先生、また怖くなりましたねー


心の中で笑った


どうしようもない状況にただ笑っている俺がいた





「お前はー…、私のようになったつもりなのか?」




俺には状況がどう転んでいくのか予想できなかった


先生は最初から怒っていなかったなんて可能性もないわけではない


この恐怖に慣れ始めてきた俺がいた




「いえ、違います」




否定だけすることができた


先生と同じ立場なんて思っているはずがない




「じゃあ………なんなんだ?」




試されていると直感した




「私は裁人官候補生です。まだ学ばされる立場にいます」




何度も何度も言ってきた決まり文句


俺は実際に先生から裁人官候補生だと説明されたことがあった




「ふふ……、ははは、はっはっはー…………」




静寂は笑い声に変わった


その笑い声に少しだけ安心する俺がいた




「そうだった、お前は裁人官候補生だった」




今でも腹を抱えて笑いそうな雰囲気が先生にあった


…………忘れられては困りますよ


そんなことを言おうと考えた瞬間




「自惚れるのもいい加減にしろ……!!」




目は殺戮に変わった


一瞬で空気は凍り付いた


初めてかもしれない


先生が本気で怒っていた





「私はお前のことなら何でもわかるぞ」




先生は嘲笑うかのように口元を歪めた


目だけは殺意が満ちていた




「お前の妹……清水百合、か?」




ビクッと体が反応した


俺は薄々罪の意識があったんだ


ああ、先生すげえぜ




「お前は実の妹を毎日のように殴ったり蹴ったりしているみたいじゃないか」




先生はどこまで俺のことを知ってるんだよ


あまりの力の差に恐怖は薄れ尊敬心が現れ始めた


それ以上に煮え切らない思いが沸々と込み上げてきた




「本当なら……駄目な候補生は殺さなければいけないんだが、な…………」




額に鉄の黒い塊が押し付けられた


ひどく冷たい銃口が死を実感させた




「私の言いたいことがわかるだろ?お前は候補生という分際で罪人を処していた………。一方的な暴力を振るい続けた……そうだな?」




俺はその問いに微かに頷いた




「そこでお前は候補生の枠を脱した。つまり、候補生ではなくなったんだ」




だから自惚れるな、か




「でもな、潤………?。お前は逸材だ。非常に惜しい……」




俺は小さい時から先生に世話になっていたからな


先生にも情があるのかもしれない




「そこで、だ……。お前に課題を出したいと思う」




先生が本当に嬉しそうに歪んだ笑みを浮かべた


全てはこのためだったのか


殺されるなんて真っ平ごめんだ


だったら課題の件を飲むしかない


俺は先生を睨み付け、課題を待った





「お前の知っての通り、我々裁人官は現在金銭に困っている。数年前よりも罪人が減少したのが原因だ。」




先生は軟らかさを見せ始めた


微塵も動かなかった手足は組んだり、バタつかせたりしていた




「だからこの前、罪人を増やせと仰ったのですね」




俺も極度の緊張感から解放され安心したのか、口を緩めていた


俺の問いに微かに頷いた先生




「3年前に我々はある財閥と金銭的に繋がりを持ったことは知ってるか?」




「……はい、たしか……里崎財閥でしたか」




俺の知識に満足したのか、先生はどこか笑っているように見えた


俺はとても嫌な予感がしてならなかった


里崎財閥…………


忘れるはずがない




「その里崎財閥が最近急激に落ちていることは知ってるか?」




「……はい。どうも家庭の事情が原因みたいですね」




ああ、全てが繋がってきた


嫌な予感は的中したにちがいない




「そう、そうだ。里崎財閥の主力……里崎新平と、その妻……里崎仁美に原因があるんだが…………、わかるか?」




「……詳しいことはわかりませんが、私自身の予測を含めた見解ですと……“両人の方針の違い”が最大有力になります」




里崎新平さんは金銭的


里崎仁美さんは人徳的




「その通りだ。ならば、私がお前に出す課題はなんだと思う?」




裁人官らは金銭的に困っている


金銭的に援助するはずの里崎財閥に問題がある


その原因は解決できそうな問題


つまり、そういうことかよ先生…………




「両人の離別もしくは離婚…………とにかく里崎新平を孤立させればいいのですね」




離婚すれば会社に影響を及ぼされる心配がなくなる


金銭を大事にする里崎新平ならすぐに財閥は力を戻し、裁人官らにも金銭的な援助が施される


自分のためなら犯罪も容認ってわけかよ…………




「その通りだ。私から言うことは…………あまり目立ったことはするな。それだけだ。とにかく両人を独立させればいい」




簡単に言ってくれるぜ


俺は2つの問題を抱えることになるんだからな


でも、ここで断ったら死だ


それにやる価値はある




「わかりました。今日はすみません、失態を覆すように、この課題、頑張ってみたいと思います」




一応、頭を下げた


問題なのは


…………里崎有加里、か



里崎有加里……俺の友達が最近苦悩したり元気がなかったわけが見えてきた


親に問題がある


多忙なのだろうか


冷えきった家族なのだろうか


里崎財閥の一人娘は元気がなかった


花のような笑顔は萎れ


無意味な空元気を振る舞い


…………私なんかどうでもいいんだよ


この発言の意味するところは?


親が多忙ならそんな発言をするかもしれない


安直な答えだが、可能性は大きい


一番の壁になりそうなことは


見知らぬ俺がどうやって里崎新平と仁美に関わりを持つかだ


その際は有加里に知られたくないのが一番の願いだな


友達でありたい、純粋な気持ちだ




とにかく鮫島先生の課題を優先的にやったほうがいい


じゃないと待つのは確実な死だ


そして有加里だ


あいつは強がっているが、かなり心の弱い持ち主だ


親友の俺が影から仕掛けていたことを知れば駄目になってしまうかもしれない


有加里は優しいからな




まあ今日はもう一つ、得ることができた


いつかのために、俺は心を殺してきたんだ


ククク…………


待ってろよ






「歩こうー歩こうー、私は元気ー」




トト□(←“ろ”じゃないよ)の唄を歌いながら俺はある場所までやってきた


砂を積み上げ、もっこりした山にはトンネルが開通していた


その隣には相合傘が!!


大人げない俺はまず開通したばかりのトンネルを巨人になった気分で踏み潰した


山は一瞬に崩れ、強者にひれ伏した


次に相合傘


幼児と幼女が出過ぎた真似しやがって


ハートの先端の下には愛を囀る名前があった


潤、潤子


俺と名前同じだし、女は子付けただけだし


敗北した


潤子だけは汚くなるように変えておいた


〇んこ、だ


苛めに発展することを願おう




「むあーさみいー」




そう、俺は公園に来ている


夜の公園はなんか怪しいね




今日も星は綺麗に輝いていた


呂の形に似ている星座はちょうど真上に位置していた


目線を下に下げていく


オリオン座しか知らない俺はペースを落とすことなく目線を下に下げていった


光を灯すライトの下


彼女は手ぶらで立っていた


暗いイメージを感じるのはなぜだろうか


遠くて顔は見えないというのに




「よう、有加里ー」




気安いのが俺のモットー


触れた肩はひどく冷たいものだった


彼女は何時間、外に立っていたんだ?


春過ぎた時期、つまり冷たいのは全部俺の思い込みだった


人はそれを妄想という





「ああ……、潤……」




有加里は口から元気が零れていくようなか細い息を吐いた


ライトの照らし出す範囲から出て、顔が見えなくなった




「そんな暗い顔してー、どうしたんだー」




「真っ暗だから何も見えるわけないじゃない……」




いつも強気な有加里から弱々しい一言が放たれた


それでも俺のボケに突っ込んでくれるあたりはさすがとしか言いようがないね




「一寸先は闇。こういう時でも使えると思う?」




「使えない……」




ああ、俺の持ちネタが無惨に


有加里ってこんなに無口でクールだったか?




「ていうか可愛いな」




俺は取り留めもない発言をした




「だから真っ暗だから……」




……そうだった


俺の発言にデレデレ照れないあたりが安さを感じさせないよな


さて、そろそろ本題に入るとしましょうか




夜の公園は急に寒さを感じさせた


時折、冷たい風が吹き、肌を露出させている首元が若干の痙攣を起こした


あまり長居はできないな


馬鹿な会話でわかったことがあった


有加里にはまだ少しだけ元気がある


だから何だとしか返せないが


俺はそれだけで安堵するんだ





「昨日はすまん……」




いきなりすぎただろうか


まあ大丈夫だろう、親友だし、困っているようだし




「昨日って………?」




有加里の奴、覚えてないのか?


あれを二度も言わせるのはちょっと初な俺には、な


でも、言うしかないか




「あああ、あれだよ………。そのぅ………。お、犯しちゃうぞ…………ってさ」




しまった、発言がエロティックなおじさんに!?




「…………お菓子?」




有加里は首を傾げたようだ


真っ暗だからよくわからない




「まあ、なんだ………。とにかく昨日帰っちゃってごめん」




さすがに3回はキツい俺だった


とにかく昨日の話の続きをしなきゃいけない




「なんで謝るのよ?帰ったのは一緒だったじゃない……」




有加里の語尾は未だに元気がなかった




「いや、昨日は全然話できなかっただろ?なんか相談とか悩み事とかあったんじゃなかったのか?」




俺は申し訳なく見えるように全身でアピールした


さりげなく本題に移らせた




「え?あ、うん………。別に相談とかじゃないけど…………。なんとなく、かな………?」




声を分析しても本当になんとなくって感じがした


まあ、不安な感じもしたが




「じゃあ、本当はなんとなくなんだったんだ?」




ちょっと語尾を強くした


不本意ながら有加里の悩みの種であろうものは先生から伺っている


つまり、今の有加里の会話は確認でもあった


俺の命に関係してるからな




「なんとなく……そう、なんとなく潤と話がしたかっただけよ」




不安、孤独感、恥じらい、




「話?まだ俺たちは会話といえる会話もしてないだろ?」




ちょっと強すぎたか?


でも、まあ死だしな




「………じゃあ、潤が話題作ってよ」




反抗、負けず嫌い、幼心、優しさ


予想通りの結果



一瞬考えた


あまりに的を射すぎるのはよくない


かといって、まったく関係ない話は無意味


しばし視線を下に下げた




「明日、一緒に学校へ行かないか?」




そして俺は視線を上に上げた


唐突な誘いだが、気にはならないだろう


肯と出るか、否か




「………え?」




「だから明日一緒できるか?」




「…………わかんない、ごめん」




有加里は俯いた


俺は予想通りの結果を得られ、少し満足した


………わかんない


つまり、何かに規制され日によって登校時間が変わる


それは毎日違った規制であり、規則性がない


だから、決まった時間での約束はできない


………ごめん


つまり、約束は守れないの比喩強調表現


釘を打たれたわけだ




「どうして?ちょっと前までは毎日一緒してたじゃん」




図々しい自分を演じた


俺はただ信憑性を上げたかった




「え?そ、それは………」




不安、不安、不安




「あれだよ!あれ!!えっとー………、寝坊さんなのよ私」




必死さ、嘘、


俺の眼と耳は鍛えに鍛え上げられてるから、忠実に相手の感情を読みとれる


あまりいいと思わないが、便利だ、便利に越したことはない




「へー有加里って寝坊さんだったのかー……」




俺は勝利を確信した


いや、なんとなく言ってみたかっただけ




「………じゃあ、明日俺が起こしに行ってやんよ」




有加里は体をビクッと反応させた


やっぱり家がキーワードだったか




「………だ、大丈夫よ。目覚まし時計あるしね」




有加里はそうしてドンドン坩堝に填まっていった




「じゃあ明日、この公園で待ち合わせな」




我ながら酷い


無理だとはわかっている




「………………」




有加里は予想通り黙り込んだ


これからどう話を進めていくか


俺は優しげな笑みを作っていた






「なんかあるのか……?」




俺はあえて莫大な質問をした


相手を精神的に追い込み莫大な質問をすると、相手の不安を聞き出すことができる


もし相手に真意を気付かれたとしても、莫大な質問だから曖昧に返しておけば大丈夫だ




「…………」




有加里は視線を下げ、再び黙り込んだ


俺の作戦は失敗したようだ


ちょっと圧しが弱かったみたいだ




「いいたくないことなら無理は言わない……。でも俺はできたら有加里の力になりたいと思っている。助けてやりたいって思ってる。」




俺は優しげな笑みでそう言った




「………」




有加里はまだ黙り込んだ


俺の眼は有加里の心が悩んでいるのが見える




「……俺たち友達だろ?あれか?秘密事か?ダイジョブ、誰にも言わないってー」




明るく振る舞った




「……」




有加里はまだ黙り込んだ


心は俺に傾いている、だからもう一押し




「何があったって友達だろ?」




強気な有加里に一番的確だと思った


俺は今までの有加里から友情に厚い人だと思っていた


きっと有加里は不安だったんだろう


家族の何かに怯えていたんだろう


何かあったって友達


こんな俺でも友達なのか?




いつの間にか、視界は暗闇に慣れていた


表情や視線を把握できたのはそのためだ


俺は待った


これ以上言うことはないし、言いすぎると逆に怪しまれる


俺が裏とつながっていることは絶対に知られたくない


本当に俺は先生の犬だな




どのくらい時間がたったのだろうか


時間間隔はあまり自信がない


個人的に3時間経過している


そのとき、有加里はやっと口を開けた




「実は…………」




それからは俺も知ってるエピソードばかりだった


里崎家の詳細を除いて




話を聞き終わった直後


俺はこう思った


…………有加里は可哀想な人だ


この私情は30分を3時間に感じてしまう人の口から出たものなのか?


知ってるのは、多分誰もいないだろう



有加里は可哀想な人だ


これは俺が抱いた本当の私情だ




有加里の家族は内部分離している


有加里の話からの俺の見解だ


まず、両親はあの里崎夫妻だ


里崎夫妻は夫婦の関係というより会社仲間の関係らしい


最近は常に多忙で生活感がない


その間に生まれたのが有加里だったわけだ




有加里はここ最近になって元気がなくなった


両親の仕事が上手くいかず、両親が多忙の渦中にのまれているせいらしい


それは残酷だった


会社は赤字が続き、里崎夫妻の目は蒼白していた


一種の廃人と言うべきか


有加里は両親に相手にもされなくなった


冷たい家庭なんてものじゃない


家庭がないと言ったほうが正しい


両親が家に帰ってきても挨拶はない


母親の温かい御飯はなくなり、有加里自身が作ることになったらしい


有加里は料理がうまかった


それなのに、両親はいただきますの挨拶もしない


食べることはまるで作業かのように


有加里は無視された


両親は稀に喧嘩した


きっと会社なんだろう


みんな会社


会社、会社、会社、会社……………


次第に有加里の心は壊れていった


元気がなくなっていった


それでも有加里は諦めなかった


再び家庭を築くために


温かい食事をするために


いつかの空元気を振る舞っていた有加里はその証拠だ


有加里は強く優しい子だった




俺は心の中で溜め息を吐いた


これなら離婚は簡単なんじゃないだろうか


繋がりのない家族なんだから


問題は有加里だ


今でも家族のために頑張っている


きっと両親の離婚なんて猛反対なはずだ




じゃあ俺はどうする?


有加里を不幸にさせたくない


俺は死にたくない


両方成すことができるのか?


無理だ


俺の命は離婚が関わり


有加里の幸せは家族円満に関わる


…………どうすんだよ


どうしようもない


俺は何かを殺さなければならないのか

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