門番
「では、改めて自己紹介をしよう。我はポルタ。門を守るものである。」
「門を守るもの……?」
「そうだ、お前達の世界で言うところの、ケルベロス、ヘイムダル、ヤヌス、ウロボロスといったところだ」
「はぁ……」
「んんっ、まあ、理解しずらいのも分かるが今は門番だとでも思ってくれ。」
「……分かりました。」
「続けるぞ?我は普段はこの空間にて世界中にあるあらゆる門を守っている。それは家の門であったり、城の門であったり様々だ。しかし、ごく稀に異世界に通じる門が開くことがある。その門を閉じるにはその世界とは違う世界の者を贄にしなければならない。」
「……待って下さい、という事は僕はその門を閉めるためだけに死んだって言うことですか?」
「まあ、端的に言えばそうなる」
「うっそだろ、もっと他にいただろ、て言うか異世界って、いやそもそもなんで僕?」
「それについては今から説明する」
混乱している僕を彼女もといポルタは残念なものを見る目で見ながら言う。お前のせいでこんな状態になってんだよ!
「実はな5年前にも異世界の門が1度開いたのだ。その時はたまたま死んだものがおってな、そいつを贄にしたんだが、それがことの発端だった。その贄の名はリン、お前の想い人だ。」
「……リン、が……贄に?」
「混乱するのは分かるが今は黙って聞いて欲しい」
「は、はい。」
「リンは当初贄になることを了承し、異世界へと行ったのだがそれからひと月ほど経ったある日、異世界の門が強制的に開いたのだ。その様なケースは初めてで我も焦って直ぐに門のある方へと行ったのだ。するとそこにはついひと月ほど前に異世界へと行ったはずのリンが焦燥しきった顔で立っていた。どうしたのだと聞くとか細い声で、お前をマモルを助けるために戻ってきたのだと言いおった。」
「僕を助ける?」
「ああ、そうだ。何でもあいつは向こうの世界である取引をし、特定の人物を助けれるまで時間を歪めることの出来る剣を手に入れたそうだ。その剣の名はー歪みの剣ー」
「歪みの剣」
「そこからは酷かった。門番である我にとって時間の歪みなど大したものではなかった。しかし、あいつはリンはお前が助かる時までずっと、幾度となく死ぬ体験をしながらもお前を助けようともがいていた。見るに耐えん光景であった。」
「そんな、リンが、僕、知らなかっ……」
「当たり前だろう、言わなかったのだ。」
「何でっ?!!!!」
「では逆に聞くがお前は信じるのか。実は私何度も死んでるんだって言われて。その言葉をすべてしんじれるのか?」
「……それはっ、」
「信じれんのだろう?」
悔しいことに僕は何も言い返せなかった。そうか、リンはあの絶望を何度も経験したのか……
「そして5年前のあの日リンは漸くお前を助けることが出来た。……自分の命と引き換えに。そしてあいつは向こうの世界へといったのだ。」
ポルタの口から語られたのはあの日に起きた真実であった。何故気づいてやれなかったのだ、あんなにそばに居たのに。何が幼馴染だ、何が親友だ。その親友の悩みに、苦しみに気付けなかったくせに。
リンは幾度涙を流しただろう、幾度絶望しただろう、幾度僕が死ぬ光景を見ただろう。ごめん、気づかなくてごめん。君を置いて幾度となく死んでしまってごめん。君を傷つけて苦しませてしまってごめん。
「うっ、あっ、……グスッ」
涙が次から次へと流れてゆく。君を苦しめた僕にはなく資格すらないのに……。
「苦しいと思うが泣くのはまだ早いぞ、お前、何故我がお前をここに連れてきたのだと思う。」
「……グスッ、そ、れは、異世界の門を閉じるために……」
「そうだその通りだ、しかし本来閉じる為にお前のような弱者を連れてくる訳がなかろう。泣き虫だしコミュ障だしヒキニートだし。」
ポルタの言葉の一つ一つが胸に刺さり先程までの涙が引っ込む。
「じゃあなんでポルタは僕を連れてきたんだ?」
「それはお前にチャンスを与えるためだ」
「チャンス……?」
「そうだ。もし、お前に覚悟があるのなら、血反吐を吐く思いをしてもいいのなら、何度も死ぬ様な体験をしてもいいのなら、お前をリンと同じ世界へと連れて行ってやろう」
「それはつまり……リンに会えるってこと?」
「そうだ、しかし会えると言うより、救う、と言った方が正しいな。」
「救う?それってどういう……」
「リンは向こうの世界で歪みの剣の代償として向こうの悪いやつの奴隷として日々働かされている。まるで物言わぬ人形のようにな……」
「そんな!!!」
「だからこそ、お前に選ばさせてやる!ここでリン無き平凡な異世界で暮らすか、リン有り無情で残酷な異世界で暮らすか、選べ!!マモルよ!!」
ポルタが指を指し言う。そんなの選ぶ必要も無い。こんな僕を助けるために幾度となく死んでしまったリンを救うためなら、残酷だろうがなんだろうが行ってやるさ。
「選ぶ必要もない!僕はリンと一緒に生きたいんだ!!明日を見たいんだ!!だから、ポルタ!!僕をつれていけ!その無情で残酷な異世界とやらにね!!」
高らかに宣言する。家族親友、先生達には悪いけど、でも、全てを捨ててでも僕はリンと生きたいんだ。僕の言葉に満足したのかポルタがにぃっと笑う。
「よくぞ言った!!お前の覚悟しかと受け取った。行くがいい、絶望渦巻く異世界へと。そこにお前の希望があるのなら!」
そう言いポルタは何処からか杖を出しそれを振る。するとどこからともなく巨大な門が出現する。そしてまたポルタご杖を振ると扉が開く。なんとも壮大な景色だ。筆舌しがたい景色に圧倒されながらも一歩、また一歩と足を進める。この門を潜れば二度とこちらの世界には戻って来れないだろう。しかし、それでも構わない。待っててくれリン、今行くから。
「ありがとうポルタ、僕にチャンスをくれて。きっと救ってみせるよ」
「嗚呼行くがいい、そしてリンを救ってこい!!我はいつでもお前を守護しよう」
最後に言葉を交わし、門を潜る。視界が暗転した。
さてさて、ここから始まるは誠に不思議な物語。果たしてマモルはリンを救えるのか。皆々様お暇でしたらどうぞこの情けなくも愛おしい男の物語を読んでくださいませ。
はい、という事で続けて投稿しました。さすがに頭が疲れましたね。こういう時は甘いものに限りますが深夜ですので自重します。皆さん読んで下さりありがとうございます。