死
目を覚ます。僕は一体どうしたんだっけ。頭が酷く痛い、記憶が曖昧で何があったのかよく思え出せない。ただ、やけに五月蝿い蝉の声だけは頭に響いていた。
それにしてもここはどこなのだろうか?辺りを見回すが1面真っ白で何処が上で何処が下なのか分からない。ただ、虚無感さえ感じるほどの純白が続く。
「やっと目を覚ましたか、人間。」
ふいに声が聞こえた。その声はどこか浮世離れした感じがして、聞いてるだけで頭がふわふわする感覚があった。声のするほうをむくと、そこには、見目麗しい女性、ではなく、どこにでもいそうな平々凡々な女性が立っていた。否、この空間では彼女が立っているのかすら分からない。僕は唖然としながらも声を絞り聞いた。
「貴方は一体……?それにここはどこですか?なんで僕はここに?そもそも僕はどうして……」
聞いているうちに記憶がじわじわと戻っていく、もとい、思い出していく感覚がする。しかし、矢張り決定的なことはわからない。リンの墓を後にした後、確か僕は家に帰ったはずだ……、しかし思い出せない。そもそも僕は家に帰ったのか?
「なんだ、自分の身に何があったのか覚えてないのか?」
彼女は呆れた様子で言ってきた。何故か申し訳なくも思い、つい、すいませんと謝る。いや、僕謝る必要あった?!てか、質問に答えてくださいよ!!
「ならば親切で優しいこの我が特別に教えてしんぜよう。」
何処が偉そうな態度にイラッとしながらもお願いしますという。
「単刀直入に言うとお前は死んだ。」
「……はあ?!!!死んだ?!!!どういうk『ええい五月蝿い!!最後まで聞け!!!』……はい」
「お前はリンという女の墓参りをしたあと横断歩道を渡っている時、運悪く居眠り運転していた車に轢かれて呆気なく死んだ」
彼女の言葉を一言一言噛み締める内に思い出してきた。そうだ、僕はあの時車に轢かれて、そうだ、あの時聞こえたのは蝉の声だけではない。車のクラクションの音や、人々の悲鳴、雑踏音……。そうだ、あの時は嫌に音が響いたんだ。そして、1番響いた音は、世界の終わる音。まるで、城の礎が崩れるような、砂が流れ落ちるような、硝子が割れるような、そんな音がしたんだ。
その瞬間、唐突に“死”というものを本当の意味で理解したんだ。恐怖しかなかった。昔読んだある有名な本では「死は次の世界への旅立ちだ」と綴っていたが、これはそんなものじゃない。この恐怖が冷たさが絶望が虚無が、旅立ちなどという気楽なもののはずがない。
体が震える、脳が壊れたのか周りの世界が歪み始める。しかし、色は判断できるようだ。僕の目の前には、あの日、5年前のあの日に見た、焼き付くような紅が広がる。知っている、僕はこの紅をよく知っている。君が死ぬその瞬間に見たのだから。
だが、その紅も次第に消えていく。否、僕の体の機能が死んでいっているんだ。嗚呼、僕の世界から景色が、温度が、匂いが、音が、消えていく。まじまじと死が感じられる。
ー嫌だ!!!!ー
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!!
このまま死ぬのか、やっと生きようと思ったのに、やっと目標が出来たのに、やっと君に誇れるよう前に進もうと思ったのに……。世界は神様は残酷だ、何も彼女が死んだ同じ日に僕を殺すだなんて。いや、世界は神様は初めから残酷だったじゃないか、あの日それを実感したじゃないか。
世界が黒に染まっていく。とうとう死ぬんだ。もっと生きたかったなぁ。
ープツンッー
そして僕の世界は黒になった。最期に君が見えた気がした。
「あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
そうだ、僕はあの時死んだ。何故ひと時とはいえ忘れていたのだ。あの絶望を、あの恐怖を。震えらる体を温めるかのように僕は自分の身を抱きしめる。異常なほど体が震える、助けて、誰か、僕を、助けて……
「思い出したか……、とは言えやはり耐えられんか、まぁ仕方の無い事だ。誰だって自分が死んだ時のことなんて覚えたくないからな。」
彼女は冷静に言う。お前に何が分かる、あの絶望を、あの恐怖を感じていないお前に、僕の何が分かる!!そう思いながら彼女を睨みつける。
「おぉ、怖い怖い。そう睨んでくれるな。死ぬ体験なんてそうそうで気はしないのだ、むしろラッキーだと思え。」
「っ!!!!!ふざけるな!!!ラッキーだと?!あの恐怖が、絶望が幸運だとでも言うのか!!そんな訳ない!!こんなもの感じるくらいなら、彼女が、リンが居ない世界を生きた方がまだマシだ!!!!」
頭に血が上り息が乱れる。この女は何を言っているのだ。あの感覚が幸運だと?巫山戯るな、お前は何も知らないくせに。
「そう怒鳴るな、それに我の言ったことは我の本心だ。お前の言うリンという女は、その絶望とやらを幾度となく経験したのだから。」
「……はあ???どういうことだよそれ……」
「お前は質問が多いなぁ、だが、それで漸く本題に入れる」
彼女の口からリンの名前が出たことに驚いた。そのおかげで僕は冷静になることが出来た。深呼吸をし、ジッと彼女を見つめる。彼女は僕が大人しくなったことに満足したのか、大きく頷き口を開く。
「お前の大切なリンを助けられると言ったらどうする?」
前回月曜には更新するといいながら更新せず、挙句土曜に更新してしまいました。申し訳ありません。言い訳をさせて頂きますと、部活に宿題に忙しかったのです。申し訳ありません、。今後はなるべく月曜に更新できるよう頑張ります。