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君を救う異世界物語  作者: 蒼流梨子
2/4

お墓参り

暑いですね!!私は暑すぎて連日家から一歩も外に出ていません。そんな私が主人公を外に出させるなんて中々に滑稽な話ですね。

報告がひとつあります、これからは毎週月曜日に更新しようと思います。今後ともよろしくお願いします。

  若々しく生い茂る木々、熱気の篭もった空気、目がくらむほどの陽光、坂の先で揺らいでいる陽炎、それら全てを睨み、伝う汗を拭い、一歩、また一歩と足を進める。

  あの日から早五年、君が僕の隣からいなくなってからもう五年。

  君の声も笑った顔も仕草も、ほとんど忘れてしまったけど、あの日感じた君の体温だけは忘れていない。

  それにしても君は死んで尚僕をいじめたいらしいね。男とはいえこの炎天下の中歩くのは割と、否、かなりキツい。しかしまあ、君の墓参りだ、うだうだと愚痴を言ったら怒られてしまうね。

  後少しで君のお墓にたどり着く。この道をもう何度通っただろうか。

  君が死んでから最初の一年、僕は自暴自棄になり何度も君の元に逝こうとした。まあその度家族に止められたけど。今でもその跡が手や首に残っている。これを見る度に父や母は悲しい顔をする。いやはや申し訳ないことをしてしまった。これからは親思いの子になろう。うん、それがいい。

  二年目は行かなくなった学校にも行くようになった。先生や友人は「よく来たな」とか、「頑張ったな」とか気遣った言葉を言ってくれたし、遅れていた勉強も丁寧に教えてくれた。彼らには感謝しかない。先生や友人に恵まれて僕は幸せ者だね。

  その頃だろうか、君の両親に挨拶しに行ったのは。君の両親も辛いはずなのに、僕に「大丈夫だった?最後まであの子のそばにいてくれてありがとう」だって。柄にもなく人様の前で号泣したよ。ああ、でも、君が死んでから泣いたのはあれが初めてだったな。その後から僕は君のお墓に通うようになったんだよ。

  三年目、僕は大学に進学できるようひたすら勉強に勤しんだ。その努力が報われたのか見事地元の公立大学に入学出来た。君にも言ったけど、僕は昔から小説家に憧れていたから文学部に入ったよ。勉強は難しいし課題も多いけど、それなりに充実した毎日だよ。

  四年目、君が隣にいないことにも慣れ始めた。悲しいけどね。前を向かなきゃ君に怒られる気がしたんだ。そう言えばこの年に僕の書いた小説が賞を取ったんだ。嬉しかったなぁ、教授も「よくやった」って褒めてくれたんだよ。両親も喜んでくれて、その日の夕飯はご馳走だったんだ。

  ……ああでも、やっぱり君に一番に褒めて欲しかったし、一番に読んで欲しかったな。なんてね。

  そして五年目の今日、僕は君に一つの報告をしに来た。

「久しぶりだね、リン。今年も君のいない夏がやってきたよ、この季節になると僕はいつもあの日を思い出すんだ」

  君のお墓の前に座りながら僕は話す、今日は一段と暑い、君の墓石にも水をやる。墓の前には美しいヒマワリが置いてある。君にぴったりのこの花はおそらく君のご両親が添えたのだろう。

「今日は一つ君に報告があるんだ。……実はね僕、前々から外国で旅をしようと思ってたんだ。日本にはない景色を見てインスピレーションを受けようと思ってね。それで先日、両親からも許可を得て明後日出発することになったんだ。」

  徐ろに空を見上げる。視界に映るのは憎らしいほどに青く広々とした空だ。

  あの日の空もこんなかんじだっけなぁ。

「出発する前に君に報告しておこうと思ってね、行先はいつか、君が行ってみたいって言ってたドイツだよ。写真、いっぱい撮ってくるから楽しみにしててね。さてと……」

  最期に線香をたて、お供えを置き立ち上がる。

「そろそろ帰るよ。また、来年の夏に来るからね。じゃあ、行ってきます。」

  ポケットに手を入れ歩き出す。ふと、突然強風が吹き荒れる。僕は咄嗟に目を閉じる、その瞬間だった


『行ってらっしゃい』


  驚いて後ろを振り向く、しかしそこには依然、君のお墓しかなく、でも、

「でも、今君の声が……」

  ふっ、顔をほころばせる。全く君はいつも僕を驚かせる。

  僕はまた足を進める、しかし気分は先ほどと違い中々に良い。迷いというか焦りみたいなのが一気に吹っ切れた気分だ。後ろ手を振り、今度こそお墓を後にする。

 


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