私は上に立つものとしてまずは仕事を見つけます
令嬢の儀が終わってから一週間、父と母は所用で出かけており、今はこのだだっ広い屋敷に私と弟、それに大勢の使用人のみだ。自室で私はこれからについて考えていた。
まずゲームであった令嬢の儀での攻略対象との接触は防ぐことができた。まだ油断はならないが第一関門は突破したと考えて良いだろう。そこで、だ。何か没頭できるものを見つけ、尚且つ結果を出すことが出来ればそれを理由にこれからの攻略対象との接触も必要最低限でしかしなくていいのではないだろうか。そうと決まればまず何をするか、だ。
そして私は考えた。そういえば、と私は令嬢の儀の際に衝撃を受けた女性たちの化粧や服装を思い浮かべた。
「化粧品、ねえ…」
化粧品とかは作れるけど道具はあるのかしら…?
「ねえ、少しいいかしら?」
「お嬢様⁉︎どうしたんです?」
まず私が足を運んだのは我が公爵家の自慢である研究室だ。我が公爵家では『知識は力』という教訓があるくらい学問に力を入れている。そして今私に返事をしたのが『トーマス=ララン』だ。二十代前半のなかなかの好青年である彼は伯爵家の次男だったのだが、研究をしたいという彼は紹介を得て我が公爵家研究室にやってきた。その意欲に違わず彼にはとても才能があるらしく、未来の所長と呼ばれているらしい。
「化粧品ってあるでしょう?作る道具はこの研究室にはあるのかしら?」
「お嬢様、まだ化粧品を使うには早すぎますよ。」
ハハッと笑うトーマスにムッとした私は拗ねたような態度をとった。そんな私にトーマスは苦笑いをしながら「ありますよ」と答えた。最初からそう答えてくれればよかったのに‼︎
「と言いましても、化粧水などは私は専門外ですので、そうですね…レキアを呼んできますね。」
しばらくしてドアからやってきた『レキア』という女性だが、この研究室の紅一点であり、この国でも珍しい紺髪紺眼の美人さんだ。ただ真面目すぎるというのが欠点だが。
「お久しぶりです、お嬢様。本日はどのようなご用件で?」
「話が早くて助かるわ。実は化粧品を作りたいのよ。」
「はっ…⁇」
何言ってんだこいつという目で私を見てくるレキア。そんな視線に少し傷つきながらも事情を説明すると納得した様子だった。
「確かにこの国の貴族女性方はあまりにも危険な化粧をなされていますからね。むしろ、あんな薄化粧で許されるのは奥様くらいでしょう。」
「『危険な化粧』?どういうことかしら?」
「そうですね、まず1番はコルセットですね。あれでは背骨が変形して早死にする可能性があります。次に白粉ですが、白鉛が使われているためこちらも早死にの原因です。それに髪の毛も。あれではシャンデリアに引っかかり燃える可能性があります。」
…この時代の人の寿命が短かった理由がわかったわ。そうね、まず手をつけるべきは化粧品ではなく衣服ね。
「分かったわ、ありがとう。私は用事ができたので帰ります。近いうちにまた来ます。」
「「かしこまりました。」」
この国ではピラミッド制、上の者にはいくら歳下であろうと礼儀を欠いてはならないとされている。それがたとえ子供同士であろうともだ。研究室から出た私は少し振り向くと、未だに頭を下げ続けている2人の姿が。前世の記憶を持つ私としてはやめて欲しいのだがこれは仕方がない者だ。上に立つ者に必要なこと、ならば私は上に立つにふさわしい人間になろう。そう決意を決め私は我が公爵家御用達の服飾店「マドモア・ゼル」の主人「マダム・ベルタン」を呼び出した。