美少年であらゆる才能もあってオマケに王子だなんてチート過ぎません?
「先程は父が失礼したね、ヒュッレム嬢。」
「いえ、お母様のことを大切に思ってくださっているのですもの。」
「ヒュッレム嬢はまだ3歳なのに達観しているな。」
レアールが苦笑いしながら私にそう言うがレアールよ、君も本当に4歳か悩ましいくらい達観しているわ。
「改めて、ヒュッレム嬢、令嬢の儀おめでとう。これからは公爵家令嬢としてあらゆることが求められる。辛かったら僕のところにおいで。」
「ありがたきお言葉でございます、殿下。しかし殿下のお手を煩わせるわけには参りません。」
ああ、本当に天使だわ。正妃腹の第2王子というやんごとなき生まれの高貴な身分の殿下が、しかもこんな美少年が私の心配をしてくれるなんて…
此処で説明しておくと、彼は「レアール・ヒュラー」現国王の正妃の第2王子でグレーア王族の証である紫の瞳に正妃の母国、イリアーナ公国の王族の証である藍色の髪をした美少年。殿下は兄である王太子殿下とは2つ歳が違うが仲が良く、兄弟揃ってあらゆる才能にも恵まれているともっぱらの評判だ。
ちなみに彼はゲーム内では攻略対象ではない。彼の立ち位置はどちらかと言うと 傍観者の様なものだ。ゲーム内の彼は面白いものが好きで私と相手の悪役令嬢、どちらが将来の王妃になるかといつも攻略対象である王太子殿下の隣で目を細めて見ていた。が、それぞれのルートではいくつかのイベントを発生させた張本人でもある。
まずゲームは王太子殿下のルートしかない。表向きは、だが。実は裏ルートに2人、別人物がいるのだがそれは後にしよう。ルートは3つ。1つは『メリーバッドエンド』と言われるものだ。これはヒロインと王太子殿下が互いに想いを交わす。しかし、王太子殿下の父である国王が隣国のレーメ王国とのつながりをより強いものにしたいと考えたのだが正妃との間に王女はいない。側妃との間には1人王女がいるがなにせ側妃の家の身分が高くない。このグレーア王国に次ぐ大国であるレーメ王国の次期王妃には相応しくないと考え姪である私に白羽の矢が立つ。王太子殿下は国王の説得を試みるがヒロインは次期国王である王太子殿下の役に立てるならと泣く泣く嫁に行ってしまうというなんとも後味の悪いものだ。
2つ目は『ハッピーエンド』所謂普通のエンドなのだ。内容は無事に想いを実らせ翌年には結婚をする。そして三年後まで月日は流れ最期のスチルには子供2人と幸せそうに微笑むヒロインと王太子4人のイラストが描かれている。
3つ目は『ハッピーバッドエンド』だ。正直『メリーバッドエンド』よりもタチが悪い。これは『ハッピーエンド』の続きの様なもので、ある時のパーティーで王太子殿下が狙われてナイフで殺されそうになる。ちなみにこの刺客の黒幕は、悪役令嬢として描かれていた「アイリス・レーメ」だ。これを庇ったヒロインが刺されて死ぬ。ヒロインが最後に王太子殿下に残した言葉とともに描かれたスチルはフィクションだと分かっていても全国のプレイヤーが涙した。母が殺されるところを目の前で見た子供2人のうち、兄の方は国王に即位した際に母の様な人を出さないと政治に力を入れて後世に「賢王」として名を残す。そしてその賢王の親であるヒロインと、ヒロインが死んでから後妻を1人も取らなかった王太子殿下の「悲恋物語」はずっと語り継がれていた、と言う話だ。
何故運営側は乙女ゲームにこの様なドロドロとした終わりを3分の2も入れたのか、死んでしまった私は分からなかったが、このエンドがあったおかげで「他の乙女ゲームみたいにハッピーエンドばかりじゃないから味があって楽しい」と爆発的な人気を誇ったのだ。
様々なグッズも発売され、一時期は海外にまで大流行した。
「これは僕がしたくてしている事だ。手を煩わせるなんて考えずに頼ってくれ。」
「…では、お言葉に甘えさせていただきます。殿下。」
「ああ。…ところでだが、俺のことは今後『レアー』と呼んでくれ。」
「え?ええ、畏まりました。」
王族である彼が年端もいかない令嬢に簡単にあだ名で呼ばしてもいいのだろうかとも考えたのだがそういえば公爵家も王族の血を引いていたんだわ。と思い出した。
かくして、私とレアール殿下、もといレアーは気が置ける仲の良い友人となった。
ちゃんと最後は幸せになりますよ?