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COLORs  作者: 目黒九六
255/0/0.紅大帝国-エル=ピ=シャトレ-
8/25

60/0/0.呪い

「アイラを助けて下さり、ありがとうございました。」


宿泊街から少し離れた閑散とした路地に建つ一軒の小さな教会、その食堂にミミズは居た。

腰が抜けてしまったらしく立ち上がる事がままならなかった少女―――名前はアイラというらしい―――、を安全な場所だと言うので肩を貸し、今この場に案内された。

ミミズの前に座る二人の人影。

アイラという少女と、桃色の白髪の混じる赤髪をオールバックにした中年の男。

男はこの教会の主であり、アイラを育てた親のような存在らしい。


「本当に、ありがとうございました。」


アイラが気まずそうに俯きながら続いて感謝の言葉を口にした。

モップのようにくしゃくしゃの紫に塗られた髪に、縫い目やシミの跡のある赤い制服。

眼には自信の言葉が欠けているように見えた。

ミミズは、二人を観察しながら、食堂の内装をキョロキョロとしていた。

食堂、ごはん、食べる、場所。

その時、地鳴りのような音が響く。

ミミズの腹の虫が暴れている音だった。

腹が背中に張り付いてしまうほど限界である。


男が笑いながらアイラに食事の用意を促し、アイラが退出した。

どうやらご馳走を作ってくれるそうだ。

嬉しい。


「旅人さん、どうやらお腹が空いているようですね。口に合うか解りませんが、お礼も兼ねて是非食べていってくださいな。」


にこやかに笑みをミミズに贈り、そう言葉を掛けた。

その後、息を一つ吐き、ミミズを見つめる。


「アイラはね、この国では悪魔の子と呼ばれているんです。ご存知ですか?」


「悪魔の子?」


悪魔の子、聞き慣れないワードだ。

そういった難しい話はいつもメテルに任せている。

メテルが隣に居ない事に少し心細さを感じはじめた。


「知らないのも無理はありません。失礼な話、旅人さんが知らなくてよかった、そう思ってしまいます。」


もし知っていたなら助けてくれなかったかも知れません、と寂しそうにテーブルの上に握った両手を見つめながら呟いた。


「どゆこと?」


ミミズは首を傾げながら話の続きを促した。


「…どうか、アイラを嫌な目で見ないでやって下さい。」


そう言って食堂の厨房があるであろう、アイラの出ていったドアをちらりと確認した後、話し始める。


「この国が、まだ完全に赤の色だった頃、とある家庭に二人の赤子が産み落とされました。可愛い双子の女の子だったそうです。顔もよく似ていて、しかし、ある一点が大きく異なっていました。それは色です、一人の赤子は、美しく燃え盛る炎のように真っ赤に染まった髪。そして、もう一人の赤子は――――」


赤のみを映すこの国で、悪魔の子を象徴とされた紫色の髪でした、そう言った。

紫の色がどうして悪魔の子の象徴なのか。


「紫の色は、この世界をバラバラに染めた魔女の使い魔の色から由来するようです。紫色の悪魔、その血が流れているんだ、そうして悪魔の子と呼ばれてしまいます。」


魔女の使い魔。

なるほど、そういう事か。


この国だけでなく、世界が魔女を敵にしている。

魔女の悪戯は壮大な暴挙であり、天災では済まされない程。

それはまるで、世界の摂理に関わる程の事だ。

言わば〝魔女〟は、この世界では禁忌にも等しい。

そんな魔女の使い魔と同じ色をしていると言うのだ。

まるで、歩く禁忌と言ったところだろうか。


しかし、ミミズは一つ違いを指摘する。


「紫の色は、悪魔の血なんて混ざってないよ。」


その言葉に、男は驚いたかのように目を見開き、微笑む。


「…旅人さんはとてもお優しい、皆がそう言って下されば、アイラも傷付く事はないのですが…。ちなみに、どうして悪魔の血が流れていないと思うのですか?」


すんなりと受け入れる人は珍しいのだろう、男は、肯定派の意見を聞くためかミミズに問う。


「えーっと、アイラちゃん?って混血によるものだよね?」


どう説明すればいいのか、語呂力がないミミズには宇宙の法則を答える程に難題だ。

しかし、男にはしっかりと伝わったらしく、再び驚きの表情を見せる。


「流石です、旅人さんは博識ですね。」


混血。悪魔の血の事ではない。

ミミズの言いたい事は、親の繋がりである。

アイラの両親はどちらも人間であるが、異なりがある。

それは。


「アイラの母親は赤の国の産まれです。アイラの母親はある男性に出会い恋に落ちました。しかし、恋に落ちた相手、…その男性は、赤の国の生まれではなく、青の国の産まれだったのです。」


赤の国と青の国の混血である。

空や地、草木、水すら全てが夕焼けに当たったかのような赤の国とは裏腹に、青の国は全てが青空の色に澄んだ、まるで水の中にいるかのように真っ青な国。

赤と青は交わり、紫の色を孕む。

その法則性を理解する者は極少である。

何故ならば、赤の国と青の国は過去より長い間争っている。

その為、赤の国と青の国同士の恋は禁忌の行動である。

互いに互いを忌み嫌い、その禁忌に触れるものは誰一人居なかった。

しかし、その禁忌を犯した男と女がいたのだ。

誰にも悟らせぬように、こっそりと会っては愛情を育む禁断の愛。

そうして産まれた赤子こそが、悪魔の子と迫害を受ける少女、アイラだった。


そこでミミズはふと思い出した。


「あれ、双子って言ってたけど、もう一人の子は紫色じゃないの?」


男が言っていた言葉を思い出す。

確か、真っ赤な髪と言っていたが、混血であれば単色に偏ることはまず無い。

魔女の呪いは色濃く現れてしまう筈だ。

その質問に対し、男は気まずそうな顔になった。


「…その女性には、夫が居たんです。」


耳豆の質問の解答は、不倫という答えだった。

禁忌とされた他色同士の恋に、不倫と来たものだ、ミミズは何も言えばいいのか分からなくなってしまい、から笑いをして誤魔化した。

片方だけの混血ってあるものなんだ、それは知らなかった。


「お恥ずかしい話をすみません、実はその女性は私の幼馴染みなんです。」


何故ここまで詳しいのだろうとは思ったが、道理で詳しい筈である。

その時、食堂に匂いが充満する。

焼いた肉と香草のいい香りだ。


「旅人さん、先程話した事はアイラには話さないで下さい、アイラはまだ子供、心が強くなり、自ら尋ねてくる時までは隠したいのです。」


オトナって大変だなぁ。

ミミズも難しい話は自ら持ち出さない主義だ、説明しようにも忘れているかもしれない。

男の言葉に軽く相槌を打ったところで、アイラが戻ってきた。

アイラの両手には木製のお椀に入った豆と野菜のスープと香草を巻いて焼いた肉のステーキの乗ったトレーが握られていた。


「お待たせしました、口に合えば良いのですけど…。」


そうしてミミズの前に置かれる。

これはたまらない。

ミミズのお腹も既に限界を来している。

軽く早口で祈りを捧げた後、ミミズは獲物を喰らい始めた。

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