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COLORs  作者: 目黒九六
255/0/0.紅大帝国-エル=ピ=シャトレ-
11/25

90/0/0.行方

-エル=ピ=シャトレ-の狭い路地。

宿泊街より離れた、辺りを見回しても店の無い場所。

この国の者が生活する為の家の立ち並ぶ住宅街。

宿泊街より、何処か薄暗さがあった。

その道を、ミミズは走っていた。


「うっひゃー、困ったなぁ。」


まさかこんな事になるとは思いもしていなかった。

よくメテルが言っていた「他国ではトラブルを起こさないように」という躾を破ってしまった。

どうしよう、怒られるだろうなぁ。

頭の中がメテルのお叱りの言葉で埋め尽くされそうになるが、とりあえずメテルと合流しなくてはならない。

今現在、ミミズは正反対にある宿泊街を目指している。

後ろを確認してみたが、赤い鎧の姿は見えない。

いっそ広い道に出て近道をしてもいいかもしれない。

それにしても。


「アイラちゃん、大丈夫かなぁ…。」


捕まると尚のことメテルのお怒りを受けてしまうと思い、思わず逃げてしまった。

その時に共に行動していたアイラという紫色の少女。

赤い鎧の標的はミミズだった。

アイラは捕まらない筈だが、案内をした人間という事で、色々と尋問されているかもしれない。

ミミズの言葉は伝わっただろうか。

今は、無事何事も無く立ち去っていてくれることを願うしかない。


ミミズが考え事をしながら走っていると、曲がり角から人が出てきた。

その人物の姿は、赤い鎧を着た――――


「うわっ。」

「居たぞ!白き獣人だ!!」


帝国戦士だ。

先程の五組の者達ではない。

曲がり角からぞろぞろと数人出てきた。

数は同じく五組。

五組の編成で巡回をするのが帝国戦士の決まりなのかもしれない。

面食らった顔のミミズは、前が塞がれた事により、元着た道を戻る。


「おい待て!反逆と見なすぞ!!」

「救援を呼べ!」


その時、一人の帝国戦士が呪文を唱え始めた。

数秒で詠唱を終え、赤い炎の玉が生成される。

その炎の玉は、ミミズではなく空へと発射された。

何をしているんだろうか、ミミズは呆気に取られたが、すぐにその意図を知る。


建物より高く浮かび上がった炎の玉は、徐々に減速し、そして。

甲高い音を響かせ壮大に破裂した。

あれはまさか――――!?

その炎の玉は、救援要請だ。

空高く飛んだ炎の玉は、煙の軌跡を残し、破裂すると同時に音を鳴らし、かつ赤い煙を噴射させて現在地を知らせる。

それから間もなく、金属の擦れる音が辺りから聞こえてきた。


やばい、やばいやばいやばい。

これはまずいぞ。


引き返した道からも赤い鎧が現れた。

これはまさに、挟み撃ち。


「白き獣人!お前を拘束せよとの命令が出されている!!」

「既に包囲されているぞ!諦めて投降しろ!!」


じりじりと追い詰められ、思わず後ずさりをしてしまう。

こうなったらやむを得まい。

ミミズはマントの下をまさぐり始めた。


「貴様!何をする気だ!!」

「迎撃の許可も下されている、無駄な抵抗はよせ!!」


その言葉を無視し、ミミズの取り出したのは一本のスプーン。

そのスプーンの柄尻はキセルのような形をしており、空洞があった。

アイラに見せた手品に用いた小道具だ。


「スプーンだと…?」


ミミズは呆気に取られる帝国戦士達を見てドヤ顔を浮かべ、大きく息を吸う。


「赤の国の皆様!只今よりミミズちゃんの手品ショーが始まりマース!!」

「貴様、ふざけて――――」

「今、ミミズちゃんの手に一本のスプーンがありますねー!まずは最初の手品、このスプーンを大きくしまーす!」


帝国戦士の言葉を遮り、ミミズは右手で持ったティースプーン程の大きさのスプーンを左手で隠す。


「はーい、いきますよー!大きくなぁーれ!」


その掛け声をあげた瞬間、左手からスプーンが覗く。

正確には、隠しきれず、露わにした。


「な、に…?」


先程までティースプーン程だったスプーンは、ミミズの背丈くらいまで巨大化していた。

よしよし、皆釘付けになっているな!


「何ということでしょう!先程まで小さかったスプーンが大きくなりましたー!はい拍手!!」


パチパチと巨大なスプーンを片手に叩くミミズ。

帝国戦士は誰一人として拍手を起こさなかったが、皆目を見開きスプーンを眺めている。


「それでは最大のクライマックス!果たして何が起こるでしょう!皆想像してみてねー!!」


そう言ったミミズは、ヴン!と音をたてながら巨大なスプーンで目の前の空を薙いだ。


「さて、準備完了ー!いきますよー!!」


そして、スプーンの柄尻を地面にコツンと当てた。

その瞬間、ボンッと音が鳴りミミズの周囲に大量の葉が生成された。


ミミズの用いた技は遥か過去に廃れた魔法、古式錬金魔法(レガシーアルケム)

火は土を遺し、土は金と成り、金は水を抱き、水は木を孕み、木は火を産む。

近代の魔法は魔力と情報を用いて創造を具現化するのに対して、古式錬金魔法は魔力を必要としない代わりに媒体が求められる。

今回の魔法では、空気中に漂う微量の水分を媒体とし葉を生成させた。

ちなみに古式錬金魔法は使い方を理解すれば誰でも使用出来る。

しかし、媒体を必要とするという点に対して、燃費の悪さがあり誰も使用しなくなり、歴史より忘れられた遺術である。

そんな魔法を何故使用するのか、それはミミズの愛用するスプーンにある。

そのスプーンは、媒体を〝掬う〟のに適しており、通常よりも濃厚で多くの媒体を摂取する事ができる。

そして、その媒体はスプーンにより高速処理され、キセルのような形の柄尻より生成させる。

これがミミズの武器、色素操匙(カラーデザイン)である。

どんな物で作られていたか、名前は覚えていないが、錆びることの無い鉄製の素材らしい。

その鉄製の素材は、使用者の精神と融合し、形状を変化させる事が可能である。


古式錬金魔法で生成された葉は生きているかのように宙を泳ぐ。

風が吹き荒れ、葉を巻き上げる。

視界が遮られ帝国戦士は思わず目を覆ってしまいそうになる。


「おい!白き獣人が消えたぞ!!」

「なに!?」


一人の帝国戦士が挙げた声に、辺りを見回すが白き獣人の姿は無かった。

その時、一人の帝国戦士の視界にちらりと白い物体が動いた。


「上だ!屋根の上に逃げたぞ!!」

「クソっ!全帝国戦士に告ぐ!今より迎撃の許可を許す!何としてでも捕らえろ!!」


こうしてミミズと帝国戦士の争いの火蓋が切って下ろされた。




=====




どうしよう、どうしよう!!


全速力で走る白い獣人が、冷汗を垂らしながら動揺していた。

ミミズである。

ミミズには、何故こうなってしまったのか、理解できない。

逃げた先、逃げた先に赤い鎧を纏った帝国戦士が居るのだ。

一体、どれ程の数の帝国戦士が動員されているの!?

そして、会うたび、会うたびに魔法でミミズを攻撃してくる。

その魔法は躊躇の無いほどに威力が凄い高い、当たったら怪我では済まなそうである。


あぁ!あぁもう!!

一体ミミズが何をしたというのだ!?

なんで、何でこんな!!


「なぁあんでこぉおんなってるのぉー!?」


思わず叫んでしまった声は赤い国に響いた。




結局、宿泊街に辿り着いたのは空が暗くなる時だった。

ミミズは遮蔽物に身を隠しながら周囲を警戒する。

帝国戦士の姿は見えないが、遠くから怒声が聞こえる。

一体何時になったら諦めてくれるのだろうか。

とりあえず、メテルと合流して一時退避しなくては。

まだ赤の国で目的を果たすどころか目処も立っていないのだ、国外逃亡はできない。

それからすぐに最初の宿に辿り着いた。

しかし、おかしな事に明かりが付いていない。

困り果てるミミズだったが、その時宿のドアが開いた。


「…こっちだよ。」


ドアから現れたのは桃色の髪の中年の女性、宿に着いた時にメテルが対応していた人だ。

ミミズはよく分からなかったが、帝国戦士の怒声が近付いている事に焦り、言われるがままに宿に入った。


「大丈夫かい?」

「ありがとうございますー…」


差し出された桃色の水を差し出され、一気飲みする。

この国に来て初めて水を見たが、完全な赤色でなくてよかった。

それにしても、この女性の対応は素晴らしい程にタイミングが良かった。

まるで、事情を知っているかのように。


「もう一人の子から伝言を預かっているよ。」

「ほぇ?メテルはここにいないの?」


どうやらメテルは居ないらしい。

緊急事態なのに何処に行ったのだろうか。

ミミズの問いに、女性は首を横に振り答えた。


「帝国戦士に連れていかれてしまったわ…。」


メテルが帝国戦士に?何故?


「白き獣人の旅人を探している帝国戦士の方達が来て、その仲間として連れていかれてしまったの。」

「ぐ、私のせい…?」


これはメテルに凄く怒られてしまう。

この宿にすんなりと迎え入れられたのは、事情を知ったメテルからの助力があったからだろう。

そういえば、伝言があると言っていた。

ミミズが女性を見つめると、悟ったのか頷く。


「伝言を伝えるわね、あの子からの伝言は――――」

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