第3話 明くる朝、翁の正体。
明くる朝、鳥のさえずりが聞こえて目を覚ます。
朝はやっぱり弱いな...。
場所や世界が違えど自分の肉体だ、感覚が変わる訳は無い。
目を擦りながら、伸びをする。
窓から日差しが照りつけ、部屋を明るくしている。
脇腹の痛みはあまりなくなり、ベットから身を起こす。
今日の目的はあの事について聞くことだ。
聞かなくては爺さんに。
部屋を見渡し、本などが置いてあったが何語だかさっぱりだ。
それよりも気になる気になる事があった。
ベットの横の机に僕の鞄が置いてある事についてだ。
ーーーーーこれもついてきたのか。
まぁそれは好都合だ。
でもこうした場合、鞄は向こうの世界に置き去りにされる物。
これが僕へのチートってか!
そんなチートなら有っても無くても一緒だろ。
僕はそんなことを心で思い、微笑した。
「えぇーっと?鞄には何が入ってたっけ?」
僕は鞄の中をガサゴソと探りをいれる。
鞄の中身は.....。
「携帯、財布、水筒、参考書、筆箱、その他諸々か...。」
役に立ちそうなものはないな。
一通り鞄を探したが、特になにもない。
「俺のチートが崩れ去っちまった...。」
最早、見る影も無い。
終わった。ーーーーーーーー
と、こんなことをしてる場合じゃない。
爺さんに話を聞かなくては。
僕は、扉をバタッと開けて廊下に出た。
両サイドに扉があるが、下の階で音がする。
この下の階に居るのか!
緊張と焦りで心臓がバクバクと音をあげる。
一段、また一段、あの爺に近づいている。
「よしっ!頑張ろ。」
勇気を振り絞り下の階への最後の一段を降りる。
一階は綺麗な彫刻が彫られた飾り扉などがあった。
音がする一番奥の部屋に進む...。
部屋の扉の前に来た。
心臓の鼓動は速くなる。ーーーーー
意を決して扉にノックする。
扉を開けるのにこんなに時間かかるのか。
扉を開けた。ーーーーー
すると、そこにはあの爺の姿があった。
爺は椅子に座って本を読んでいた。
そして、僕が話し掛けようとしたとき。
「体は大丈夫か?」
その爺は優しい顔をして僕に問う。
僕はとっさに、ーーーーーーー
「はい、だいぶ痛みが取れました。」
「そうか...それはよかった。」
爺さんの顔には一筋の涙が流れていた。
なにかあったのだろう?
ただ、その目はとても優しかった。
「どうかしましたか?」
「いや、大丈夫だ。」
昨日?僕を吹っ飛ばした、爺とは思えないくらい優しい。
そんなことはいい、本題に移ろう。
「な..なぁ"おっさん"一つ聞いてもいいか?」
ヤバい、"おっさん"と言ってしまった。
これは初対面の相手には失礼だよな...。
脂汗を垂らしながら、言い訳をどうしようか考えていると。
爺は優しい顔のまま聞き返す。
「なんじゃ?」
よかった、気にしてないぃーーーーーーーっ!!
これで普通に会話が、と思った次の瞬間、背筋が凍りついた。
「それにしても、おっさんって呼び方。ーーーーーーーーーー
ヤバいヤバいヤバいヤバい、これはもう弁解不可能だな。
久し振りに聞いたのぉ。」
あれ?怒ってない?
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッッ!!!
来たぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーッ!!
僕の春が帰って来た。
「ひ、久し振りですか...。」
「おお、そうじゃな。」
「はっ、はぁ...。」
爺は怒ってなかった。これはやったぜぇぇぇぇぇ!!
このままあの事についてもサラッと聞こう。
そうだ、そうしよう。
「あ、あのぉ一つだけ伺いたいというものはですね。」
「ん?なんじゃ?」
「すみません、単刀直入に伺います。」
「どれ、話してみよ。」
「貴方は...何者なんですか?」
「そうか...その事か。」
緊張した空気が二人を包む。
「わしは、おまえと一緒じゃ。」
その言葉に僕は安心の反面、不安があった。
「それは、どういう事ですか?」
「それは...おまえが生きていた世界出身だという事じゃ。」
「え...ぼ、僕だけじゃなかったんですね!」
「そういう事じゃが、おぬしは...何も持ってないんじゃな。」
どういう意味だ?"何も"ってどういうことだ?
まさか、チートってことかぁーーーーーー?
「それはどういう意味なんですか?」
「ん?あぁそれはの、ーーーーーーー
この爺のチートはあの怪力か?
さぁ吐け、吐くんだーーーーーーッ!!
ーーーーいい鞄の中身のことじゃ。」
僕は絶句した。