(5)
「パパほんと優しい。鉄拳の一つも見舞わないなんて、マジ仏」
「ええんや。一般市民さんに乱暴はよくない。それに、拳ってのは簡単に振るうもんちゃうんや。ほんまに必要な時に、俺はこの拳を使うんや」
「あ、やっば胸きゅんやっば。なんでパパはパパなの? もうマジパパと結婚したいんだけど、どうにもならない?」
「ほな、来世では必ずお前を迎えに行く」
「パパそれ以上やられた心臓止まるから手加減して」
朧気な意識の中、結局俺は組長の恐怖に屈し、柚葉の万引きなどなかったと説き伏せられた。
「これでこの話は終いや」
そう言って、大根とがんもと卵と牛すじのお金だけを置いて、前崎親子は店を去っていった。
店の入り口を掃除していた田村君は丁寧に彼らにお辞儀、組長はニヒルに腕を上げ、柚葉は気さくに手を振り帰っていった。
なんだったのだ。一体。
「店長、大丈夫じゃなさそうッスね」
見りゃわかんだろ、バンド崩れが。てめえのせいでこんな事になってんだぞ。
「まあ、これで一件落着ッスね」
どこがだ。いや、まあ確かに命あるだけでも良かったか。結局何を奪われたわけでもない。
これで、これで良かったんだ。これ以上深入りなどすれば、災いが降りかかるだけだ。
「田村」
「はい?」
「てめえはクビだ」
お前だけは許さんがな。