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「なるほど、話はよう分かりました」


 ぶるぶるぷるぷると小刻みに大刻みに震えながらも対面に座る前崎組長になんとか、柚葉お嬢様の罪状について述べさせて頂いた所、内容をご理解頂いた前崎組長様は腕組みをし、私の話を頭の中で咀嚼されておられるようでした。


「ただね、今井さん」


 しかし次の瞬間、身体をずいっと前に傾け、私の顔面に鼻をこすりつけんばかりに顔をお近づけになられました。タバコくさっ。


「は、はひ!」

「証拠だけ、見せてもろてもよろしいでしょうかね」


 Sho-ko?

 ああ、証拠ね。はいはい。証拠証拠。ございますとも。


「あ、ええはい、もちろん。監視カメラがついておりますのでそこにバッチリ映っておられるかと」

「それ、今見せてもらえますか?」

「え?」

「あ?」

「あ、はい、ただいま! こちらへどうぞ!」


 そう言って、部屋の横にある監視カメラ映像の方をご案内する。


「えっと、これを、えーっと」


 あ、やっべ。緊張と恐怖で操作忘れた。ってか俺だいぶ長い事これ触ってねえわ。

 どうすっぺ。あ、そうだ。田村君! 田村君を呼ぼう! 彼ならこの操作もよく知っている。っていうかもはや彼しか知らないレベルだ。

 と思ってたら、ちょうど良いタイミングで田村君が現れる。部屋に入るなり驚いたように目を見開き、会釈をした。


「田村きゅん。ちょいとごめん」

「今田村きゅんって言いました?」

「これちょっと操作してもらっていいかな? 柚葉お嬢様の犯行の瞬間のビデオをお見せしたいんで」

「柚葉お嬢様って」


 そう言いながら、田村君はこなれた手つきで操作してくれる。ありがとう、田村君。今ほど君の夢を本気で応援しようと思ったことはないよ。


「悪いな、兄ちゃん」

「あーいえいえ、全然イイっスよ」


 ――田村コラ―――――――――――――――――――!!組長様に向かってなんちゅう口調じゃ貴様ーーーーーーーーーーーーーー!!

 

 と思ったけど、組長も笑ってるからまあいいや。


「じゃあ、拝見させてもらいますね」


 映像はちょうど田村君が柚葉お嬢様から水を受け取った場面から始まっていた。この後に例の犯行シーンが行われるわけだが。


「おい」

「へ?」


 映像を見ていた組長が俺の方を振り返る。

あれ? そんな怖い顔してどうしたの? ひょっとして、お睨みになられております?


「あんたは見んでええやろ」

「……え?」

「あんたはちゃんとこの映像も確認して、確固たる証拠もある上で、娘に話聞いとったんちゃうんか?」


 あれ? あれれー? 組長さん、激おこじゃないですかー?


「そしたらそんなマジマジと見る必要ないやろ?」

「え、いや。あのー」


 なんだか自分の顔がビッチョビチョなんですけど、汗かな? 涙かな?


「まさか、あんたこの映像見やんと、決めつけで娘に話聞いてんちゃいますやろな?」


 あ、ヤバイ。おしっこチビりそう。


「い、いや、いやいやいやいやいやいやいやいやややいあやいやいや!! そんなわっけなーいじゃないですかーもおーーヤダなーお父様ったら!」

「あ?」

「あ、申し訳ございません」

「あんたちょっと下がっとって下さい。見終わったらまた声かけますから」

「は、はひ」


 そして組長はまた監視カメラに目を向けた。

 俺は、そして俺は。静かに、くるりと身体を反転させた。俺の視界に、一切監視カメラの映像は入っておりません。完璧。


 ――死ぬかと思った。

 

 だがしかし、安心は一つもない。それどころか悪い予感が止まらない。

 組長の言った通り、俺は監視カメラなど一切確認していない。田村君からの報告のみで動いた。


 ――……ないよね、そんな事。


 そもそも間違いだった、なんて事はないよね、田村君。


「おい」


 後ろから、閻魔大王のような地を揺るがす声が聞こえた。

 いや、閻魔大王の声なんて知りまへんけど。

 おそるおそる、という表現があるが、これほど絵になるおそるおそるを繰り出す事など今後そうそうないだろう。

 振り向いた先に、閻魔様のご尊顔があった。


「コケにしてくれるやないか、われ」

「へ……? そ、それは、どういう、意味で、ございますです、でしょうか……?」


 顔怖っ。額に浮き上がる血管が半端ないですよ、お父様。


「娘がおでんを万引きなんて、しとらんやないか!!」


 ――田村、てめえはクビだ。そして、貴様の夢など潰えてしまえ。


 目の前が真っ白になった。


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