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(2)

 どうしたってこの世界には善と悪が存在する。そしてそれを識別する人間という生き物が存在する。その限り決してなくなりはしない。多くの人間が善であるべきと肝に銘じ生きる中で、その中でささやかであったり大胆であったり、一定の悪を求めたりもする。

 うちのコンビニで万引きがなくならないのも、この世界においては仕方のない事なのだと思っている。片田舎で何もない面白味もない土地で、うちの店で万引きを行うというスリリングで危険な遊びに興じようとする輩がいる事は覚悟の上だし、事実存在している。

 もちろんその存在を認めているからと言ってそんな輩を許すわけではない。時に静かに、時には烈火の如く怒りをそいつらに叩き込んでやる。例外はない。

 ないのだが。

 今回のようなパターンは初めてだ。


「いや、不思議なもんで、逆に褒めてやりたいと一瞬思っちゃいましたね」


 という田村君の言葉は分からないでもない。心底分かってやろうとはもちろん思わないのだが、以下彼女。そう。目の前のこいつ。金髪巻き髪、シャツにミニスカ。JK。ゴリゴリギャルJK。GGJKが行った内容だ。


 彼女は最初ペットボトル150mlの富士山の普通の水を手にレジへとやってきた。

 こいつはまた派手なギャルがおいでなすったと思いながら、心配になるほど短いスカートに気を取られることなく職務を遂行した。まあ、ここまでは何の問題もない。


「ありがとーござーしたー」


 板についたライトな挨拶をお届けした後。ここから問題のシーンに移る。


「あ、めっちゃうまそっ」


 そう呟いた彼女はレジ前のおでんゾーンで立ち止まり、しげしげと具を眺めた。そして自然な流れで器をとり、ひょいひょいと具を放り込んでいく。田村君はこの時点で、だったらまとめてさっきの水と一緒にレジに来れば良かったのにと思いながら彼女を見ていたわけだが、一通りの具をチョイスし終えた彼女は、「よし」と一声出し、そのまま店の入り口へ歩いて行った。ひょっとして何かまた別のものを買うのかなんて思ってたが、彼女は当然のようにそのまま店を出て行ったそうだ。

 ああ、買わないんだ何も。と思っていた田村君だったが、


「いや、おっでん!!」


 と自分でも驚く程の声を上げ、急いで彼女を追いかけた。


「ちょ待てよ!」


 声を掛けられた彼女はおでん片手に振り向きながら、


「え、何。今時そのモノマネはないわ」


 なんて言うものだから、何故だか田村君は「あ、ごめん」と謝ってしまったが、すぐさま自分のやるべき事に頭を切り替え、彼女をひっ捕らえて連れ戻したというわけだ。

 あまりに堂々とし、そして大胆な彼女の犯行は、口伝えで聞いた俺にとっても衝撃だったのだから、それを目前で見ていた田村君の衝撃たるや凄まじいものだったろう。


 そして今、目の前に彼女がいる。

 名前は前崎柚葉まえさきゆずはだそうだ。

 制服姿の柚葉はギャルな見た目に合わせて、良い感じに着崩されておる。

 シャツのボタンは不用意に第二ボタンまで大胆に空けられ、女子高生の象徴とも呼べるスカートの短さたるや風紀の乱れがとどまる事を知らない、男子学生共をご乱心に導かんとする柔く白い太ももが露になっている。

 おい、そんなに無防備に足を組み替えるな。見えるだろうが。いや、貴様がその気ならいくらでも見てやってもよいぞ。うん


 ――ああ、いかんいかん。つい。


 安い手に引っかかってしまう所だった。悪くはないが、俺の店のおでんを盗もうとした事は許すまじきだ。


「ダメだよ、おでん盗ったら」

「あ、はい」

「初めて見たよ。おでん万引きする奴なんて」

「だって、すんごくおいしそうなんだもん!」

「……ありがとう。本当にありがとう。丹精込めて提供してる、俺達のおでんを……」

「そんなに思い入れの強いおでんなんだね」

「だからこそ!!」

「ひえっ!?」

「金も払わずに! 持ち去ろうとするなど! 言語道断の極み!!」

「顔怖っ」

「さあ、どうしてくれようか」

「何が?」

「お前の処遇だよ」

「あ、別にいいよ。親なり学校なり言ってくれちゃって」

「そうだな、まずは親……んあ?」


 ――なんだと?


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