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「店長―。どうしやす?」


 コンビニ店長として働いてもう五年程になるか。いろいろあるっちゃあるが、ないっちゃない。作業自体は慣れたもんで、ほぼほぼルーティン作業と化してるし、人のマネージメントつったって、コンビニ作業で大きな期待を持って人をとってるわけでもない。そつなく、必要な事をちゃんとやってくれればそれでいい。

 まぁ、バイトなんで自分よりも一回り下の学生を雇う事がほとんどで、思慮が浅く幼い部分が可愛らしいなと思う時もあれば、心底憎らしくうんざりさせられる事もあった。


「ん? ああ。とりあえず奥連れてっといて。後は俺の方でやるから」

「おねしゃす!」


 バイトの一人である田村君は軽い口調と態度そのままに期待を裏切らない金髪薄眉仕上げのチャラ男テイストだが、これでいて礼儀はある程度しっかりしてたり仕事も案外そつがないので嫌いじゃない。むしろ好きだ。敬遠されがちな薄っぺらい口調も愛嬌に感じる。  

 たいした志もなく毎日生きる為に仕事をしている俺と違って、彼にはバンドマンで飯を食うという大志もある。そんな彼を俺は結構心からちゃんと応援している。


「ターゲット確保致しました」

「ご苦労」


 レジに戻ってきた田村君は俺に向かって敬礼を行うので、俺も律儀に敬礼してやる。


「ほんと、勘弁してほしいッスよね」

「全くでございますね」

「なんスかその口調」

「何かおかしな所でもございますでしょうか?」

「店長の地位にありし者が、バイトに向ける口調じゃねえッス」

「そのッスってやつこそ、バイトであらされる人間が店長に向けるもんじゃねえけどな」

「こいつは失敬」


 こいつが夢を掴んでここのバイトを止めてしまう日が来ると考えると寂しくなるな、なんて思いながら俺は奥のスタッフルームに向かう。


 ――いらっしゃいませ、クソ野郎。


 どこぞの漫画のセリフを思わず心で呟いていた。だが訂正する気はない。簡素な部屋の中。机とイスが二つ。奥のイスに一人、クソ野郎が座っている。

 俺は部屋の扉を開ける。クソが俺を見る。その目を見ただけで一切の反省やら後悔がない事が見受けられた。


 ――ほう。根性は据わっているいるようだな。


 それもそうだ。こんなタイプは見たことがない。俺も田村君から話を聞いた時、思わず「嘘、現実の話?」と言ったぐらいだ。目の当たりにした田村君の衝撃たるや計り知れなかっただろう。

どかりと俺は対面に座る。もう一度視線を向けるが、やはり気持ちに変化は見られない。むしろ更に尖りが強くなっている気さえする。


「お待たせ致しました」


 残念ながら、こういう輩はいつまで経っても減らない。本当に困窮して明日を生きる為になんて存在はほぼいない。大抵は愉快犯だ。


 ――だがな……。


「呼ばれた理由は分かるよね?」


 彼女は何も答えない。真っすぐこちらを推し量るように見返すだけだ。


 ――愉快すぎやしませんかね?


「なんで、これを万引きしたの?」


 それは職務上の質問でもあり、個人的にシンプルな疑問だった。


「だって、うまそうじゃん」

 

 金髪の巻き髪をチャラチャラ手で回しながら、彼女は一切悪びれる様子もなく答える。


「品質にこだわってるからな」


 今言う事はそれじゃねえだろと自分にツッコミながら、目の前の物を眺める。

 俺と彼女の間に置かれているのは、器に入ったほっかほかのおでんだった。


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