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彼岸桜  作者: 卯天太郎
一幕 文久三年
6/6

母想い子想い

______



ともが家に帰ってから、もう十日が経過していた。



あれから彼女は、何事も無かったかのように自宅での生活をしている。


不思議と、ホームシックになったりもとの時代に帰りたいと考えることがなかった。

本当に、何事もなかったかのようにこの時代の「とも」の日常をそのまま過ごしていたのである。


もちろん、一緒にいたはずのまおの事も気がかりだったので、手がかりがないかと市中を探したりもした。





外に出るときは、こちらの"とも"がいつもそうしていたように、男装で兄の名前を名乗る。





そして、家に帰れば、京訛りの母が小言を言いながら出迎えてくれる。





たったそれだけの事がすごく嬉しくて、いつも決まって暗くなる前には帰宅した。





その度に「なんや、おてんば娘が、えらい親孝行にならはって。春に雪でも降るんとちがう?」と母はからかうけれど、その顔はとても嬉しそうだった。








(現代だったら考えられないよね〜まだ五時くらい?むしろ今から出掛けてたし)





風呂に入りながらそんな事を思う。





携帯がない生活というのはすごく不便で、車とか自転車がないのも移動に時間がかかってしまう。





ただ、だからこそ誰かが必ず自分の帰りを待っている、帰る場所がある、そんな当たり前の事が無性に有難いと思った。




ある日の夕餉時、




「…せやけど、あんたのその江戸言葉どうにかならんの?なんやよそよそしくてかなんわ」



母がたまらず、京言葉だった娘の異変に対して、もう何度目かの愚痴をもらす。



「え…あぁー。江戸から来た人達と一緒だったからかなぁ。あはは、やっぱ変やんなー?」



「そんた妙な京言葉はいっちゃんあかんわ。さぶいぼたってまう」





とものおかしな言葉遣いに、母はわざとらしく身震いをする。そんな掛け合いが現代と変わらなくて居心地がいい。





「そういえばさ、最近お父さんとこによくお客さん来てるよね?どこの人達なの?なんかお侍さんみたいだけど」





その質問に母が少し止まった。





「さ、さぁねぇ。遠縁の人ららしいけんど…上京した言うてたから、挨拶でもしに来てくれはったんとちがう?邪魔したらあかんよ?」





少しの間をあけた後、いつもの笑顔でやんわりと答える。

ともは特に気にせず「ふーん、わかった」とだけ返した。








この時、母が下手な嘘をついていたことにまだ娘は気づいていない。



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