序
__それは昔の話
彼らの歴史はあまりにも短くて
私達の存在はあまりに小さくて
決して、何の記録にも残らない____
_ただ、一つだけ確かな事は
今、此処に立つ私達の
あまりにも儚くて淡すぎた、あの恋心は
胸に…
心に…
確かにその傷跡を深く残して消えたという事
__それは昔の話
まるで、昨日の事の様にすら感じる
__それはそれは昔の話
「…ねぇ、前世とかって信じる?」
「はぁ?まおちゃん急にどしたの?なんか変な宗教でもはじめた?」
パックジュースのストローをかじったまま、まおの友人であるともがからかう様に笑った。
二人は高校三年生。
普通なら、受験だ進学だと慌しい時期のはずの二人がのんびりと放課後の教室に残っているのには理由がある。
落ちこぼれ、問題児、進学希望なし
以上の理由から、同級生たちの過酷な受験戦争から二人は早々に戦線離脱していた。
類は友を呼ぶというのか、問題行動や不登校ではない二人が仲良くなったのは高校に入ってしばらくした頃。
遅刻早退が多い二人は職員室でよく顔を合わせ、頭髪検査の後も一緒に指導を受けることが多かった。
当時で言うところの「ギャル」のような浅黒い肌と派手なメイクを纏った外見のともと、
対照的な白い肌に、明るい頭髪と真っ黒いアイラインが印象的なメイクをしたまお。
鮮やかな色彩を放つ二人の指先の爪が、彼女等が校則と規律に忠実でないことを露見していた。
極めつけは、それぞれが友人の紹介ではじめたアルバイト先が一緒だった事だろうか。
それが遡る事、1年半前。高校一年の冬休み。
共通の趣味を通じて親交を深め、今では親友と呼び合えるような間柄になった。
「なんか昨日の夜中のテレビで、スピリチュアル的なの見ちゃってさぁ〜」
「あぁ!美輪さんでてるやつ?あーゆーのってどーせヤラセでしょ?」
「やっぱ?だよねーっ」
放課後の教室で、いつもの他愛ない話は盛り上がる。
鏡を片手に化粧をするその姿と外見からは、だれも行く先が博物館であるとは思わないであろう。
「でもさ、もし生まれ変わりとかあるなら前世とかって知りたくない?うちら、前世でも悪友かな」
「間違いないでしょ。まおちゃんはきっと遊女とか、芸子とかそっち系じゃないの?」
「えー、それ微妙。でも、日本人じゃないかもよ?とも、外人だったりとか」
「私の顔が濃いからって偏見やめてくれる?」
「自分で言っといて超ウケる」
いつも通り、廊下に二人の笑い声がよく響く。
「でもさ、超楽しみだよね!京都からこっちに持ってきてるなんてさ」
「うん!やばいよね。でも一ヶ月間だけの特別展示だって。ドラマもやってるからじゃない?土日は混んでるだろうし、期末テスト前の短縮授業とか今日のタイミング最高すぎ」
成績底辺である二人には、テストの三文字がすでに追試の二文字に切り替わっているようだ。
そんなこんなで、まだまだ放課後といっても日は高い。
準備もそこそこに、駅に向かうために二人は学校を後にした。
今日は少し遠くまで出掛けるつもりでいた二人は、タイミングよく到着した快速電車に意気揚々と乗り込んでいく。この電車ならば一時間とかからずに、目的の駅にたどり着くだろう。
扉が閉まり、車体はゆっくりと動き出した。
そして、電車はスピードをあげる。
これから二人に降りかかる
とても不可思議で…
ひどく残酷で…
そして
甘く儚い一瞬の未来に向かって…