コピーヒューマン思考実験
●コピーヒューマン思考実験
あなたは魔法使い(科学者でも可)である。
その力は限りなく万能に近い。何のリスクもなく、無限に使う事ができる。
神に等しい力をもってすれば、できない事は何もない。
ただし、例外が一つだけある。
自分以外の生命に作用する事である。
何をどうしようと、他の生命体に影響を及ぼす事はできない。人間はもちろん、虫や動物や植物にさえも。
例え時間を巻き戻そうとも、それは叶わない。
そんなあなたは、場所や時代はどこでもいいが、ごく当たり前の世界で生きていた。
日常生活でその力は一切使用せず、至って普通に暮らしを送っていた。
それどころか、自分がそんな力を持っているという事さえ忘れていた。
もちろん、人間関係も築いている。
友達や仲間がいれば、ライバルや敵もおり、最愛の人も、憎い仇もいる。
愛する相手に対しては、 「君は素晴らしい人間だ」と言い、憎い相手に対しては、 「お前は人間の屑だ」と言う。
もしくは、「あなたなしでは生きていけない」「お前なんか消えてなくなれ」と言う。
強い力こそ持っているが、あなたはごく当たり前の人間だった。
そんなある日、あなたを除く全人類が死滅した。
目立った物理的被害はないまま、あなた以外の人類だけが命を落とした。
あなたではそれを止める事はできなかった。
ただ一人、あなただけが生き残った。
あなたは孤独だった。
あなたの力では、他人を作り出す事も生き返らせる事もできないからだ。
自分以外の命には何もできない、それがあなたの力の欠点だった。
そこであなたは、自分のコピーを作り出した。
クローンなどとは違い、思考も記憶も人格も肉体も全て同じ。完全な同一人物である。
死滅した人類と同じ数、数十億のコピーを作った。
しかし、それだけでは自分自身が増えただけだった。
そのため、あなたはコピーの姿形を変えた。
死滅した人類、数十億人分。
脳・内臓・遺伝子なども、完璧に変化させた。
それどころか、それぞれに独自の記憶と人格を与えた。
彼らはあなた自身だから、いくらでもあなたの力で操作できた。
ただし、記憶と認識の幾つかを操作した。
自分たちはオリジナルのあなたとは別人、完全に独立した一個人である。
何もかも滅亡前の世界と全く同じである。
もちろん、人類は死滅などしなかった、と。
それを見届けたオリジナルのあなたは、全ての証拠を消去した。何一つ残さずに。
そして最後に、自分自身を操作した。コピー達にしたのと同じように。
全人類は死滅しなかった。
自分とコピー達は全くの別人である。
そして、自分は魔法など使えない。
もちろん、コピーを生み出したりもしなかった。
そんな認識を与えた。
こうして、世界は元通りの姿を取り戻した。
何もかもが滅亡前の世界と同じになった。
その新しい世界で、全てを忘れてあなた達は生きる。
外見と中身こそ違えど、全人類はあなたとあなたのコピーのみである。
どれがオリジナルだったのかは、もう誰にもわからない。
しかし、彼らは紛れもなくあなた自身だ。
親も、子供も、兄弟も、姉妹も、恋人も、友達も、仲間も、仇敵も、知り合いも、全てあなただ。
この世で人間はあなただけだ。
あなた自身に囲まれて、あなたはごく普通に人生を送る。
あなたは別のあなたと友達や仲間になり、ライバルや敵となり、愛し合い、憎み合う。
あなたは別のあなたに、「君は素晴らしい人間だ」と言い、また違うあなたには、「お前は人間の屑だ」と言う。
もしくは、「あなたなしでは生きていけない」「お前なんか消えてなくなれ」と言う。
あなた同士で結婚して子供を作り、あなた同士で戦争を起こして殺し合う。
何百年も、何千年も。かつての世界と同じように。
──以上を踏まえて質問する。
1、過去と現在の世界に違いはあるか。
2、「あなた」だけの世界における人間関係に意味はあるか。
3、「あなた」は孤独か否か。
その理由も答えよ。