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008 ただ一緒に居られるだけで

唐突に思い出した暴露話


主人公ズの元ネタは進撃の巨人のエレンとミカサ

と、言ったら驚きますか?

噴水前の時計の針は約束の時刻を指していた。

土曜日の午前十時。

翔太は腕に抱えたバッグに視線を落とし、ひとつ溜息をもらす。


待ち人はいまだ此処に来ない。


翔太は噴水の縁に腰かけた。

石の冷たさが肌を伝わってきて心地よい。

「こう来るか」

独りごちて頬杖をつく。

あれから二日。

ようやく翔太の中でのイラつきは減ってきていた。

あの時の翔太は萌絵の全く理解できない行動原理に、

思いきり罵声を浴びせたいという欲求を抑えるのに必死だった。

だから黙るしかなかった。

口を開けばその言葉で萌絵を傷つけてしまいそうな自分が怖かった。

何が彼女をそうさせたのか、実は今もよくわかっていない。

これもいい機会だと、落ち着いて考えてみることにした。


考えて。

そして結論する。

やっぱりわかんねえと。


だからそれは、芽衣姉や真紀がいう乙女心とか女心とか、きっとそういうやつなんだろう。

じゃあ、わかるわけねえじゃん。

こっちはガキだし、男だし。

大体、あの体操服は萌絵が落としたわけじゃない。

持ち主である翔太自身もそんなに大切に使っていたわけじゃない。

汚れてなんぼの消耗品だ。

確かに進級してまだ半年もたっていないのに着れなくなるのは結構な痛手だが、

それだって、飛び込んでまでとって来いと翔太の親だって言わない。

謝って終わり。それでいいはずの、その程度のことなのに、アイツは迷うことなく池に飛び込んだ。

自分が溺れるとか、汚れるとか考えてすらいなかったんだと思う。

友達からの借り物だからって、幾らなんでも気にし過ぎだろう。

友達全員にあんな対応とってたらいつか本人が潰れるぞと思う。

そして、そこまで思って、ようやく思い出した。

「ああ・・・そういうこと」

へっと笑う様に口元を歪めた。

そういやあいつ友達いなかったな、と。

だからだろう、本来均等に分けられるべき友達への心の割合が、翔太に集中してしまっている。

翔太は似たような友達を知っている。

そいつは三年の時にこっちに引っ越ししてきた、元々本ばかりを読んでいる静かな奴だった。

前の学校でどんなことがあったのか聞いたことはなかったが、転校してきたばかりの頃は酷かった。

人のいうことにいちいち過敏に反応し、全力で空回った。

こっちはそんなつもりもないのに、すべてを悪い方へと考えていたらしい。

あれはどうやって解決したんだっけかと思い返す。

河原で殴り合ったり、崖から落ちかけたところを助けたりなんてイベントはなかった。

気が付いたら普通になってたしなぁ。

本人に聞いてみるしかないだろうか。

そうなると明日の野球の練習まで待つ必要がある。

なんにせよこういうのは、じっくり地道にいくしかないってことか。

何事も一足飛びにはいかない。とは最近姉から聞いた言葉だった。

まぁそいつは萌絵ほどぶっ壊れではなかったけど。

萌絵のはぶっちゃけ重すぎ。

胃もたれどころか胃が破裂するレベル。

性格もあるんだろうけど、なんであんな風に育ったのかね。

「ま、それも大方想像はつくんだけどさ」

頭に思い描くのはあの三人。

あの時は遠すぎて容姿とかは解らないが、何をしていたのかは大体想像がつく。

もう解りすぎるくらいに。

つまりアレだ。アレ。

我が校にはそんなものありませんというアレだ。

馬鹿くさいことだが奴等が萌絵をあそこまで歪ませたんだろう。

何をしたとか、何を言ったとか。

あそこまで至ってしまった原因なんて正直考えたくもない。

ああもう、余計なことしくさりやがってと頭を抱える。

そして再び怒りが再燃してきているのを自覚した。


そんな時、鐘が鳴った。

気が付けば噴水の時計の針は正午を指していた。

二時間余りの時間が過ぎていたことになる。

「・・・腹減ったなぁ」

そう呟いた翔太の上に影が差した。

翔太は影の正体を見上げた。

逆光で相手の顔は解らない。

けれど体の輪郭で誰かはわかる。

影は言った。

「なん・・・で、帰らない、の?」

手をかざし、庇を作って相手を確認する。

そこには両目いっぱいに涙をためた萌絵がいた。

ってか、もう決壊してるレベル。

それを見たら、文句も愚痴も、もう何も言えなくなって。

さっきまでイラついてた自分がガキに思えて。

実際ガキなんだけど。

胸中で呟いた翔太は、大きく溜息をついて立ち上がる。

萌絵の手を引いて先週とおなじ休憩所に向かう。

その間萌絵は何も言っては来ない。

その日の休憩所はそれほど混んではいなかった。

それでもあえて人の少ない場所を選んで座る。

先週と同じようにパンを取り出して、コロッケパンを萌絵の前に置いた。

そして自分はサンドイッチを食べ始める。

呆然とする萌絵を片目で見る。

「食えよ」

「・・・う、うん」

おとなしく従う萌絵。

サンドイッチを食べ終わると翔太はおもむろに口を開く。

「もしかしてお前さぁ、自分がイジメられてるの俺に知られて、嫌われたとでも思った?」

面白いように肩が震えた。

やっぱりか。

本当に馬鹿だ。

「それともイジメられてるの知られて、俺が離れてくとでも思った?」

「・・・・・・」

はい。これも当り。

今日の俺は冴えていると翔太は自画自賛した。

「お前、俺をナメ過ぎ」

これ以上ないくらい怒りを込めて、目の前の馬鹿に告げた。

すると萌絵は縋るような目で翔太を見る。

だが翔太は決然と告げた。

「萌絵、だからって俺を頼るなよ」

とたんに萌絵の表情が凍る。

思った通りで嫌になった。

こいつ俺をヒーローか何かと勘違いしていたわけだ。

アホだ。

アホすぎる。

俺はヒーローじゃない。

ヒーローっていうのはもっと、そう春のような奴のことを言うのだ。

少なくとも梵天小学校6年2組出席番号3番のただの小学生ではない。

そんな奴にできることなんて、たかが知れている。

「俺はお前を助けないし、助けられない」

「で、でも」

「俺がまだ子供だってのを忘れんなよ。いくら女だからって高校生と喧嘩すれば負けるんだ。

しかも相手は最低でも3人かそれ以上だろ。俺は喧嘩苦手だしな」

「・・・・・・」

いつしかコロッケパンの包装を開けようとする動きが止まっていた。

翔太はかまわず次のサンドイッチに手を伸ばす。

「なんだよ。食わないのか?美味いだろ?」

サンドイッチを口に入れる。

うん。美味い。

一口食べたサンドイッチの断面を見ながら

「でもさ。こうやって、一緒に飯食って、遊んでやることはできる」

その声に萌絵はゆっくりと踵を上げた。

ようやく萌絵と今日初めて視線があった気がした。

「この程度しかできないってのは、男としてどうなのって思わなくもないんだけど。

それで萌絵に愛想つかされたらそれまでなんだけど」

「そ、そんなことないよ!」

萌絵は感情のままに立ち上がって叫ぶ。

「そんなことない。私、嬉しかったもん」

「・・・それでも、俺は頼りきりの奴の面倒なんて見てられない。

友達ってのはさ。そういうんじゃないだろ?

お互いに対等ってことだと思うんだ。貸し借りなしのフィフティフィフティ。

それで、今の萌絵は俺と対等って言える?俺を頼りきりじゃないって言える?」

「・・・言え、ないと思う」

「じゃあ俺の友達なら、せめて対等になるよう頑張れよって話。

もし、こうしている今を、この先も続けたいことなら、根性見せろ。

・・・言ってることわかるか?」

「・・・わかる」

「お前さ、バドミントン巧いじゃん。足速いじゃん。背高いじゃん。

そんなチートなんだから。あの程度のこと自分でなんとかできるさ」

思いつく限りの激励を飛ばす。

せめて歪んだ苗がそこからまた成長してくれることを祈って。

それきり会話は途切れた。

二人はただパンを食べ、お茶を飲む。

静かな昼下がりだった。

そしてパンを食べ終わるころ、萌絵は言った。

「わかった。・・・頑張ってみる」

「おう。頑張れ」

全てが巧くいくことは、まずないだろう。

それでも全て巧くいってほしいと翔太は願った。



その時、誰かが草を踏む音が聞こえた。

この話はえらく難産でした。

結局のところ翔太のあれは青臭い理想論なのでしょう。

こんな簡単に解決する話ではないのは重々承知しています。

彼自身、いじめにあったこともしたこともないので、子供らしい理想で自己完結してしまっているという状況です。

不愉快に感じてしまった人がいたら、大変申し訳ありません。

全ては私の文章力・表現力・構成力の無させいです。


理想を語るにはそれに見合う力が必要だ。と、とある中ボス様もおっしゃってますし、それを次回彼は実感することになります。

駄文失礼しました。

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