007 発覚
かなりの数の方が来てくれているようで、大変うれしいです。
ありがとうございます。
帰りの会も終わり、一気に騒がしくなった教室で。
「翔太ぁ。今度の土曜、三木んちでスマブラやるんだけど、どう?」
よく遊ぶ三人が翔太の駆け寄ってくる。
誘ってきたのは幼稚園からの付き合いのテツ。
「ん~?ああ、悪い。今度の土曜ってか、しばらく土曜は無理っぽい」
せっかくの遊びのお誘いにすまなそうに答える。
その後ろには当人である三木とユウもいた。
三木は数年前こっちに越してきた比較的新しい友達だ。
クラスで一番の秀才。
だからと言ってそれを自慢するわけでもなく、気持ちのいいやつで、
よくゲームをしたり、翔太も勉強を教えてもらったりして頼りになる友達だ。
いつもならすぐさま乗ってくるはずの翔太にびっくりして、ユウが聞いてくる。
「へ?どうしたん?塾でも通うの?」
「いや、そういうわけじゃねーんだけど」
言葉を濁しながらランドセルを背負う。
「面倒みないといけない奴がいてさぁ」
もしこの言葉を萌絵が聞いていたら、
きっと憤慨しそうな(それでも若干嬉しそうな)ことを言った。
「ああ、なに子供の面倒?うへぇ俺なら無理だわ」
「そういうわけでも・・・あるような、ないような・・・まぁそんなわけで。悪いな」
「なんか大変そうだね」
難しそうな表情を浮かべる翔太に、三木は気の毒そうに感想を述べた。
「いいよ。また誘うから」
「ごめんなぁ」
翔太は友達と校門で別れ、家路に向かう。
梵天公園の中を歩いていくと、ふと萌絵と出会った場所に目が止まった。
なんだかんだ次の土曜を楽しみにしている自分がいるのに少し驚く。
そういえば萌絵もこの公園を、登下校に使っていると聞いた。
今までは高校生なんて気にしたことなかったから、注意して見たことなかったけど、
気にしていればもしかしたら会えるかもしれない。
例えば今日も。
そんなことを思っていると、翔太の耳が聞き覚えのある声を拾う。
「・・・萌絵?」
声は確かに萌絵だ。
けれど、それはどこか悲鳴のような気がした。
まさかと思いつつも自然と進む足が早まる。
そして翔太は見た。
梵天池のほとりで、萌絵と何かを引っ張り合う女の姿を。
萌絵と対するのは三人。
皆同じ制服を着ていた。
同級生だろうか。
しかしその三人は、どいつもが厭な笑い声をあげていた。
嫌な予感がする。
酷く翔太の心はざわついた。
その頃には歩きは走るに変わっていた。
そして翔太がもう少しで辿り着くとき、それは起こった。
女の一人が萌絵から白いものを取り上げ、すぐさまそれを池へと放り投げたのだ。
聞いたこともない萌絵の悲鳴が上がった。
それを目の当たりにした翔太は目の前が真っ白になった。
翔太の中でブツリと何かの切れる音。
「なにやってんだぁあああああああ!」
その声に驚いたのか、三人の女子高生はギョッとした表情を浮かべると、すぐに身をひるがえし我先に逃げていく。
翔太が現場に辿り着き、女たちの行方に視線を走らせたのと、盛大な水音がしたのはほぼ同時。
振り返ると、信じられないことに萌絵が池に飛び込んでいた。
「萌絵!?」
萌絵は一心不乱に池の中を泳いで、水面に浮かぶ白いものの元へと向かう。
それを手にとると、安堵の表情を浮かべ、次に呆然と見下ろす翔太を見て、泣きそうな顔を浮かべた。
なんて顔してんだよ。
翔太は居てもたってもいられず、水面の萌絵に向けてその手を差し伸べる。
「萌絵。来い。こっちに来い!」
「しょう・・・た」
ややおぼつか無い動きで、なんとかほとりまで泳ぎ着く萌絵。
差し出した手をしっかりと握りしめて彼女を引き上げる。
荒く息をつき、咳こむ萌絵の背中をさすることしかできない自分に嫌気がさした。
「ごべんばはい!」
「萌絵?」
「ごめんなさい!」
突然謝罪を繰り返す萌絵に驚く。
「ちょっと待って、なんで謝るのさ」
「これ」
そういって差し出されたのは、この前貸した自分の体操服だった。
カッと頭に血がのぼる。
「お前!馬鹿じゃねーの!こんなもんのために池に飛び込んでんじゃねーよ!!」
「だって翔太のだもん!」
「関係ねーだろ!それでお前がもし溺れたらどうすんだ!死んじまうぞ!!」
「・・・だって・・・だって、翔太のだもん!」
ダメだ。
こいつ、何言っても聞きゃしねえ。
何も見えてねえ。
仕方ないと、少し考えてまずはここを離れようと決める。
あいつらがまた戻ってくる可能性もあったからだ。
萌絵をこのままにしておくのは不味い。
座り込んだ萌絵の腕をつかむ。
「立てよ」
「翔太・・・怒ってない?」
「・・・いいから、立て」
今の萌絵と話してると沸々と怒りがわいてきた。
理由はわからないが、それはとめどなく溢れてくる。
無理やり立ち上がらせて、びしょ濡れのまま手を引いて歩き出す。
萌絵の家に着くまで、何度も彼女から声をかけられた気がするが、あまり覚えていない。
途中からその言葉もなくなり、嗚咽だけが聞こえてきていた。
あの日と同じ道をたどって萌絵の家に着く。
「翔・・・太ぁ」
縋るような目。
本当に、本当にイラつく。
翔太は無言で彼女の背を押して敷地に入れる。
それでもこちらを振り返る萌絵を、顎で中に入れと指示する。
萌絵が家の中に入るのを確認してから、それでようやく翔太は肩の力を抜いた。
気が付けばもう夕方になっていた。
萌絵の家に背を向けて家路につく。
そういえば、また体操服を返してもらい忘れたと今頃になって思い出した。
そろそろ二人に試練が訪れる予定です。
さっさとクリアしてラブラブ話が書きたいです。
本文中に出なかった設定
テツとユウは双子の兄妹です。でも似てません。
テツがガキ大将でその親友が翔太です。