005 狂い咲きの華
一人称と三人称が入り混じて地の文が酷い・・・
食事も終えて、午後は他の子供たちとも一緒になってかくれんぼや、たかおになどをして遊んだ。
最初は萌絵の異様さから恐る恐るといった感じであったが、
そこは子供らしく遊んでいくうちにだんだんとぎこちなさが消えていった。
それでも萌絵のどもりは最後まで直らなかったが。
夕方になって、他の家族連れも帰り支度を始めた。
二人は休憩所に腰を下ろし、並んで話をしていた。
「で、どうよ。一日遊んでみて、たのしかった?
あ、つまらなかったって言ったら絶交だけどな」
「・・・それ、私の意見聞いてない」
「いいんだよ。それでどうだった?」
萌絵は一拍の呼吸を置いて
「う・・・ん。楽しかった・・・かな?」
「かな?って、贅沢な奴だなぁ」
「うふふ」
それで楽しそうに笑う萌絵に翔太は呆れた。
一日付き合ってなんとなくわかってきた。
こいつけっこう欲張りで負けず嫌いだ。
あの本気で勝ちに行く姿勢は性格だろう。
小学生にムキになるとか、マジありえないですよ。
まぁでもこの前の死にたいって言っていた表情よりは、
幾分かマシになってきていると思えた。
安心した。
だから翔太は油断した。
「でも、まぁこれで友達とどう遊ぶかもわかったろ?
そしたら、次は学校で友達作って、今度はそいつと遊べよ?」
「・・・・・え?」
擦れた声が翔太の耳朶を打った。
ぞくりと背筋が震えるような、そんな声。
「萌絵?」
見上げるとそこにはあの時の---いや、それ以上の負を感じさせる萌絵が居た。
「・・・やだ!やだよ!!」
真っ青な表情で震える指で萌絵は翔太の肩を掴む。
細く尖った爪が子供の柔らかい肌に食い込み、翔太は小さな悲鳴を上げた。
「痛っ!?」
しかしその悲鳴も加害者には聞こえない。
澱んだ瞳は翔太を見てはいても、自分が何をしているのかは見えていないようだ。
「なんで?なんでそういうこと言うの?」
悲愴さを感じさせる声が彼女の唇から洩れ出でる。
「翔太と私は友達でしょ?今日だけみたいな。
これっきりみたいな言い方しないでよ!」
「なん・・・ちょ、萌絵、待てよ」
「翔太でいいよ。翔太がいいよ。なんでそんなこと言うの?なんで、私が、あんなやつらと!」
「萌絵!!」
翔太の大きな声にびくりと体を震わせ、萌絵は我に返る。
猛禽の爪のように突き刺さった両手の指を見て、言葉を失った。
「あ・・・しょう・・・た?ご、ごめん。あの・・・」
指を解こうと試みるが、震えるばかりで放すことができない。
「萌絵」
そんな萌絵の腕に翔太の手がそっと添えられた。
「落ち着けよ。俺の言ってることわかる?」
「う、うん」
「よし。ほら、まず手を放せ」
翔太がそう言われると、先ほどまで強張っていた指が驚くほど素直にほどける。
爪が突き刺さったところは赤くなっていて、翔太は痛みで眉をひそめた。
「ああ痛かった」
「怒って・・・ないの?」
その萌絵の問いかけに、翔太の肩が揺れる。
そしてゆっくりと顔を上げ、清々しい笑顔を向けた。
「ああん?お前、面白いなぁ。こんなことされて、怒ってないと思ってんの?」
「ご、ごめんなさい!」
すかさず平身低頭の萌絵。
それを見た翔太はちいさく溜息をつくと、いいよとだけ言った。
「ごめんね・・・」
恐る恐る顔を上げた萌絵が再度謝罪を口にする。
「だから、いいって。こっちも言い方悪かったし」
そうだ。配慮が足りなかったと。
コイツはもとからメンドクサイ奴だったと思い出す。
襟元を広げて、赤く蚯蚓腫れになった個所を見る。
「あーあ、これ親に見られたらどうすんだよ」
翔太の愚痴に反応して、萌絵は視線をそちらへ走らせる。
まだ変声期を経ていない少年の細い首元をまともに見てしまい。
萌絵は両頬に火照りを覚えた。
「あのさぁ。言っただろ?今度パン一緒に作るって」
「あ・・・」
言っていた。そうだ。言ってくれていた。
「あ・・・じゃねーよ。なんで忘れてるかな。地味にショックだ」
「ご、ごめんなさい」
謝りながら萌絵は自分の身勝手さに落ち込んだ。
本当に信じられない。あんなに嬉しかったことを何で忘れていたんだろう。
「友達ってのは一日で始まって終わるもんじゃねーの。これジョーシキな。
俺が言ったのは、俺とは別に近くに友達作れってこと。わかる?」
「・・・・・・・・・」
その言葉と翔太の視線に耐えられなくて萌絵は顔をそらす。
すると翔太は溜息ひとつ、頭をかきながら萌絵の正面へと回り込んできた。
これで萌絵は逃げられない。
「わかる?」
「べつに・・・・翔太がいればいいもん」
「もんじゃねーよ。ガキかおめーは。
俺だっていつでもそばにいるわけじゃねーし、
日曜は基本クラブやってるから、お前に付き合えないの」
「クラブ?」
「そう。少年団な。野球やってんだ」
と、どこか得意そうにいう。
「じゃあ、私も入る」
「じゃあじゃねーよ。話聞いてた?少年団だっつーの。5年くらい遅い。
だから、お前は同じ学校とかで別の友達を作れ」
「・・・・・っ、いひゃい!」
頑ななまま視線を逸らそうとした萌絵を、その白い頬を思い切り抓りあげて目線を合わせる。
「これは俺と萌絵の約束。友達同士の約束だ。
俺はお前の愚痴も我が儘もできるだけ聞いてやる。
だからお前はお前の友達を作れ。急がなくていいから。いいな?」
「・・・・・」
「わかった?」
「・・・・・・・・・・いひょがなくていい?」
「・・・ああ」
「わひゃった」
「よし」
「・・・ふぇぇ痛いよぅ」
抓られていた頬が開放され、萌絵は少しだけ痛みの残る頬に手を添える。
「悪かったよ。でもお互い様だろ」
ばつが悪そうに呟く。
そう言われては萌絵は黙らざるを得ない。
どちらかと言えばこちらに非が傾くからだ。
するとさっきのまま萌絵の前に立ったままの翔太が、思いついたように萌絵の前髪に触れた。
「そうだ。お前、そんな前髪してるから友達出来ねえんだよ」
「え?」
「ぶっちゃけ、薄気味悪いもん」
「うす・・・気味悪い」
ショックだった。
そのこと自体よりも、翔太に言われたことが。
しょげている萌絵を尻目に翔太は彼女の前髪をかき上げ
「思い切って短く切るとかして、それで背筋伸ばせ---ば・・・!?」
遮蔽物のなくなった萌絵の瞳がこちらを見下ろす翔太をとらえる。
その表情は見たこともないくらいに驚きの色を見せていた。
「翔太?」
そんな彼の様子に萌絵は訝しげに声をかける。
「---いいんじゃないかなぁ!?」
その声に我に返った翔太が飛び上って、前髪から手を放す。
いきなりの大声に萌絵は反射的に両耳を塞ぐ。
次に見た時には翔太は随分後ろの方へ後ずさっていた。
「さっきからどうしたの?」
「ああ?いや、うん!じゃあそういうことで、今日はもう帰ろうぜ」
「?? うん」
「また来週な。同じ場所で、同じ時間でいいか?」
「大丈夫」
矢継ぎ早に言われることをなんとか頭に入れて返答する。
簡単な約束だけをかわし、翔太は急ぎ足で公園を出て行った。
後にはただ呆然と佇む萌絵だけだった。
公園を出て家路の途中。
翔太は深呼吸を繰り返す。
それでも胸の動悸は治まらず、あの光景が今も脳裏をちらつく。
「なんだよ。あれ」
まったく、不意打ちもいいところだった。
野暮ったい前髪の奥にあるもの。
それは今まで見たこともないほどの綺麗な女の子がいた。
すっと通った鼻梁に整った眉。
長いまつ毛に二重のまぶた。
光の加減で群青に輝く黒瑪瑙のような瞳がこちらを見つめていた。
あんなの誰だって驚く。
「チートだ。チート」
翔太はどこからともなく怒りがわいてきて、そう呟いた。
ありがとうございました。
そろそろヤンデレ?のタグが有効になってきそうな予感。
そこまでガチになることはないと思いますが
夕方にはもう一話あげられると思います