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032 萌絵、オネショタというジャンルを知る

友達って言うのは五分五分で友達なのです。

たぶん


あと、私が定義するオネショタはあくまでも一例です。

私はどんなオネショタであってもバッチこいですよ!

明けて翌日。

萌絵は何故かまた地学準備室を訪れていた。


それはもちろん、萌絵の友人たる彼女に、呼び出されたからに他ならない。

萌絵は幾分かきつい眼差しで目の前の少女を睥睨した。

幽鬼のような雰囲気を張り付かせ、薄ら笑いを浮かべる百合子。

その有様が萌絵からすらも捨て置こうとする意欲を削いでいた。

昨日のハイテンションからは想像もつかない落差だったからだ。

彼女の身に一体何があったのだろうか。

すると百合子は訝しげる萌絵に一束の紙を差し出した。


受け取って見る。

それは百枚ほどの原稿用紙の束だった。

「これは?」

ニヤリと百合子は不敵?いや、得意げな笑みを浮かべて言った。

「ボクの作品さ」


「君の話を元に書き出してみた。まだ前半だけだが、感想を聞きたくてね」


ということは、官能小説ということだろうか。

さすがの萌絵も困った表情を浮かべた。


「私はこういうのあまり嗜まないのだけど」

「それでもいいのさ。君達を元に書いた物語なんだ。君には是非一番に読んでほしかった」


それだけを言うともう限界だといった表情を浮かべて、力尽きたようにパタリと机に突っ伏した。

精も根も尽き果てた感じのする彼女を見下ろしながら、萌絵は仕方なく紙をめくり始めた。









そして---数刻が過ぎた。

夏時間ゆえ日はまだ高くあったが、時刻はそうではない。

完全下校時刻が迫り、校内に響く予鈴で百合子は目を覚ました。

一瞬自分がどこにいるかを忘れていた彼女。

ふと見回した場所に萌絵の姿を捉え、ここがどこかを思い出す。

あくびをひとつ、ゆらりと立ち上がる。

仮眠をとったおかげか、先ほどよりもだいぶ体が軽い。

それでもまだ、芯に疲れを感じる身体に鞭打ち萌絵に近づく。

よほど熱中しているのか、萌絵は百合子に気づくことなく、視線を紙束に落としている。

それだけでも百合子は満足に思えたのだが、やはり感想は本人の口から聞いてみたい。


「さて、姉崎。どうだい?ボクとしても中々の出来栄えと自負しているのだが」

「・・・・・・」


と、声をかけるが反応は無い。


「姉崎?」

「は・・・・」


百合子からの再度の呼びかけに、ようやく萌絵の口から小さく震える声が吐き出された。


「姉崎萌絵?」








「破廉恥な!!」


それはそれは、学校中に響きわたるような声だった。

あまりの声量に百合子は反射的に両耳を塞いだが、それでも不十分。

彼女の鼓膜はビリビリと鈍痛を訴えた。

ギロリ

と、萌絵がその血走った眼で百合子を睨む。

「な・・・ななななななにこれ!?」

全身を震わせて、紙の束を指差す。

「これこれこれこれこれ!」

壊れた機械のように同じ言葉だけを吐いて出す。

「何って、君の話を元にボクが書き起こした物語じゃないか」

事も無げに百合子は答える。

フルフルフル

と萌絵が震えた。


「だ、だだだって、これ、翔太が私と〇〇で××が○×なんてしてない!!

私、知らない。こんなの知らない!!」

「ああ、それはほら。物語を盛り上げるうえでの脚色というやつさ。創作にはよくあることだよ」

「そ、そそそそれだって、私、上にまたがって、搾り取るとかしてないし!!」

似たようなことはしているものの、萌絵の反応を見る限り、目の前の原稿にはそれを凌駕することが書き綴られていたようだ。

「あはははは。言ったじゃないか。ボクは官能小説家なんだよ?

オネショタは基本女性上位。

それにこれはまだ前半だ。後半はこんなものじゃないよ?」

「こ、こんなものじゃない?」

「物語の後半、少年はいずれ性長---ではなくて成長し×××で○○なことをされて、ヒロインはついに▽▽なんてのも」

「ひうっ!なんてこと!なんてこと!!」

「何を言っているんだい。少年の成長は日々目覚ましいものなんだよ」

顔を真っ赤にして項垂れる萌絵というのも珍しい。

その割には耳を塞ぐことなく、聞き入っているようにも見える。

「いや、でもいい反応だったよ。これならこの路線でいけそうだ。礼を言うよ。姉崎」

そう言うと百合子は疲れの中に笑顔を見せて帰り支度を始めた。

「これで進めてみよう。完成したらまた見せるから。後半期待していてくれたまえ」


「・・・・・・」


百合子が去った地学準備室。

数刻まではすぐさま帰りたかったはずなのに、無言で佇み続ける萌絵がいた。

しばらく放心していたようだが、すぐに我を取り戻し、制服の下から携帯を取り出した。


コールは一度で相手はすぐに出た。


「あ、近重さん?」


「昨日言っておいた黒羽百合子のことなんだけど・・・」


「そう。彼女が所属する出版社わかる?」


「うん。なら今すぐ買収しておいて。名義は私で」


「あと彼女---いえ、先生の作品を一通り揃えて置いてくれるかしら?」


「ええ、そうね。全て初版本はもちろん。保存用もね」


「先生の今後の作品は全面バックアップの方向でお願い」


「まずは制作環境を整えるところから。優秀な編集者もつけてあげてね」










かくして姉崎萌絵はこの日、生涯の友であり、尊崇を捧げるべき人物を得たのであった。









その後、黒羽百合子という作家は一般文芸において著名な人物に成長を遂げることとなる。

その理由としては、少年と少女の心の交流を描いたとある作品が一世を風靡したからに他ならない。

出版社のそれまでの彼女への対応とは違った全面バックアップの元、果ては映画化も企画され大成功を収めた。


余談ではあるがこの作品、どうやら成人指定の真本があるとの噂があった。

その真偽のほどは定かではないが、好事家の間では信じられないほどの高値がついたものだが、

真本は結局のところ陽の目を見ることはなかった。










真本は今もまだ、ある女性の余人を許さぬ趣味部屋に大切に保存されている。

唐突ですが、次回でとりあえずの幕です。

書きたいこともある程度書けたのでまぁ満足かな?という感じです

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