029 真紀編 終
うーん。所々はそれなりに書けたんですが、
全体を通してみるとグダグダしてたり、うーんだったり・・・
やはり私の目論見が甘かった
勢いだけで書くといけない見本でしたすみません
いおりんの家の前に着く。
時間は少し早い。
携帯が鳴った。
出るといおりんの声。
『真紀。おはよう。来てくれたんだね』
二階を見上げるといおりんの部屋のカーテンの隙間から人影が見えた。
きっといおりんだ。
「・・・うん。約束したし」
『それじゃあ。部屋に上がってきて。鍵は空いてるから』
そういうと電話は切れた。
玄関で靴を脱いで、階段を上がる。
人の気配はない。
おじさんとおばさんが休日居ないのは珍しい。
いおりんの部屋の前で一度だけ立ち止まる。
深く静かに深呼吸。
震える手でノックした。
「・・・どうぞ」
ウチはドアを開けた。
そしてというか、半ば予想通りというか、ウチの目の前にはあの女の子が現れた。
彼女はスッと背筋を伸ばし、正座でウチを見つめていた。
ウチの眉間にしわが寄ったのがわかる。
いきなり彼女には会いたくなかったのに。
せめていおりんに先に会いたかった。
先制攻撃のつもりかな?
うん。それは本当に効果は抜群だ。
でも、それでもさぁ。
ウチにわざわざ見せびらかす必要なんてないじゃんよ?
女の子は昨日よりもお化粧に気合入ってて、
服もそこらへんの既製服なんかじゃない。
オーダーメイドのフルカスタムって感じ。
もうウチに勝つ要素なんて一片もなかった。
本当にしょーもない。
もういいや。
さっさと言うだけ言って帰っちゃおう。
「あの・・・初めまして。てか昨日もあってるけど。
ウチ、いお---じゃなくて、久我さんの幼馴染ってだけで、
別に・・・その・・・」
そう言ったところで、言葉が止まる。
別に・・・なんだろ?
考えたけど、考えつかなかった。
視線が下がる。
もう目の前を見ていられなかった。
足元の自分のつま先が目に映る。
途端に視界が滲んだ。
やだ。
やっぱり・・・やだよぅ。
ちがう。ちがうの。
こんなのウチじゃない。
いいじゃん。
いおりんが喜んでんなら、それで。
今までだってウチといるだけで、変な陰口を言われたり、
笑われたり嫌な目にあってたじゃん。
一緒にいるだけで陰口言われる奴なんかより、
好きな人と付き合えばどんなにか・・・。
あとはウチが諦めれば、それでいいんじゃん。
だけど。
だけどさぁ。
笑おうとしたのに、なんでか涙がこぼれてきた。
本当に・・・しょーもない。
「ごめんねぇ。いおりんごめんねぇ」
彼女が立ち上がったのがわかったけど。
慌てたのがわかったけど。
そんなのもうどうだっていい。
もう、どうでもいい。
みっともなくたっていいや。
「ウチ無理。もぅ無理。無理だよぅ・・・いおりんいないと無理だよぅ」
でも嫌わないで。
こんな嫌な子だけど。
しょーもなくてダメな奴だけど。
嫌わないで。
「ごめんなさい。ごめんなさい。すみません。ごめんなさい。
ウチいおりん好きなん。好きなんです。大好きなの。
諦めたくない。諦めるとか無理。絶対無理。
他の人好きになっちゃ嫌。ウチを好きになって。
ずっとウチと一緒にいて。どっか行っちゃわないで」
まるでガキ。
ウチは好き勝手なことばかりを口にする。
「いおりんなんか嫌い。大っ嫌い。嘘、違う、好き。
やだよぅ。こんなんやだよぅ。
あほぅ。いおりんのあほー。
やだよぉ。アンタなんか嫌い。大嫌い。
ウチからいおりんとんな、あほー。
とっちゃやだぁ、やだよぅ」
いおりんの部屋にウチの目茶目茶な泣き声が反響している。
上を向いて、ガチ泣きするウチに近寄る人がいた。
そんなウチの肩をそっと掴む人がいた。
耳元で声がささやかれた。
「違うんだ。真紀」
そう美少女が言った。
それはウチにとって、とても聞き覚えのある声で。
かわりに、それ以外の全ての音が消えた。
ウチの泣き声すらも。
彼女は言った。
「僕はどこにもいかないから。僕も真紀が好きだから。
どうか泣かないで」
そう言って涙でぬれたウチの頬をそっと撫でてくれた。
とても真摯な瞳がウチを射抜く。
真っ白な世界にいるようだった。
まるでウチら以外の世界が止まってしまったかのよう。
え?
え??
今ここにいるのはウチと目の前の彼女だけ。
ってことは・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
ウチは彼女の手を振り払った。
返す刀で振り抜く。
パン
「あたっ!?」
小気味のいい音と間抜けな声。
ふつふつと怒りがウチを真っ赤に染めていくのがわかった。
ウチはすぐさま両手で目の前のアホの肩を掴んで部屋に押し入る。
ドスドスドスと足音を立てて。
そのままアホをベッドに押し倒す。
小さい悲鳴が聞こえたけどこの際無視した。
ウチはアホの手を掻い潜り、服の裾を掴むと思い切りめくり上げた。
「わあっ!!」
アホの悲鳴を聞きながら、ウチは目の前のものを凝視する。
きめ細やかな肌と桜色のポッチ。
おおぅと溜息に混じって変な声が出た。
恐る恐る触れてみる。
また悲鳴が上がったけど、無視無視。
今のウチにはそれどころじゃない。
さらにそっと指を這わせた。
ぺったんこ。
どこまでいってもぺったんこ。
貧乳のウチよりも絶壁。
あえて言えば無乳。
「やめて!やめて!真紀!」
でもすべすべ。
すっごい白くてすべすべ。
なにこれ!
いつも見てそんな感じはしてたけど、超羨ましい!!
怒りがさらに爆発する。
畜生!こん畜生!!
「ま、真紀!ちょっと待って」
待ってられるか!このボケナスアホナスヘタレナス!
静止の声を無視して、今度はスカートの奥に手を伸ばす。
目標を定めて一気に行く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ひっ・・・やぁ、あ、あ、あ」
綿独特の手触りとその形状からローライズのボクサーパンツだとわかった。
果たしてウチの手のひらに伝わるのは、確かな暖かさと、皮膚とはまた別の柔らかな感触。
その間ウチは至極無言だった。
ようやく確信が持てたウチはその手を引き抜いて、目の前にかざす。
ワキワキと。
ワキワキと。
「むにゅ・・・むにゅって・・・」
ウチの視界には項垂れるアホが一人。
真っ赤な顔を両手で隠して。
息を吸う。
深く。
とても深く。
これ以上ないくらいに深く。
そして---
「なにやってんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?いおりんんんん!?」
その美少女は、あろうことかウチの初恋の人兼想い人、
(あ、どっちも同じか)
久我伊織その人だったのでした。
アホかっつーのマジで!
あんびりーばぼー!です!!
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
あれからウチはいおりんの拘束を解いた。
のろのろと。
意気消沈したともいうけど。
ウチといおりん(女装版)はお互い向かい合う様に、
ベッドの上で正座をしていた。
ぶっちゃけものすっごく居心地悪い。
でも、どうやらそれはウチだけみたいだけど。
目の前の平然としたいおりんを凝視する。
どこまでみても、どこまでいっても、完全無欠の美少女である。
でもあそこにはアレが間違いなくあった。
アレっていうのはアレ。
まぁアレだ。
今もウチの手にはリアルな感触が・・・ヤバい鼻血でそう。
ええっと・・・ってことは、つまり・・・。
「えっと、いおりんってそういう趣味があったの?」
「・・・え?ないよ?」
思いのほかあっけらかんとした返答。
嘘を言っている様子もない。
「・・・あれ?」
「??」
ウチは首をかしげる。
自分的には結構覚悟をもってした質問だったんだけどなぁ。
ウチに合わせていおりんも首を傾げた。
ってことは、これはあんまり考えたくないっていうか、あってほしくないんだけど・・・
「いおりんってホモ---ってかゲイなの?」
「あはは。そんなわけないじゃない」
これまた同じ返答。
「・・・・・・あれ?」
「??」
首を傾げ合うウチら。
「じゃあ、なんでそんな恰好してるん?」
「これ?これはもちろん、真紀のためだよ」
若干胸を張っての返答。
胸なんかないから意味ないけどね。
でも、おかげでますます意味がわからない。
「今日はそれも聞きたかったんだ。どうこれ?」
いきなりベッドの上で立ち上がると、
いおりんは得意げに服の着こなしを見せてきた。
「ゴメン。意味が激しく分かんない」
「こういうの。真紀好きでしょ?」
そういってスカートの裾を持ち上げて見せる。
白い太ももがウチの前に現れて、ドギマギしてしまう。
この奥にアレがあると思うと・・・ってどんだけ引っ張るつもりだ自分。
やめやめ。
ウチは無理やりいおりんの服装に視線を送る。
・・・いや、確かにそういう服はウチのドストライクなんだけど。
って、そうじゃなくて。
ウチはもう一度いおりんを座らせると、詳しい説明を促したのだった。
で。
話を聞くとこういうことだった。
ぶっちゃけ、ホントしょーもない話だったけど。
説明すんのもめんどくさい。
あーもう、頭痛薬どこだっけ・・・。
それはウチといおりんの二人の秘密の遊びによるものだった。
きっかけはウチが初めて貰った化粧品をいおりんに見せたこと。
親戚のお姉さんから貰った、化粧品会社の試供品。
まぁその時は口紅だけだけど。
ウチはいおりんの前で面白がってつけて見せた。
すると思いのほか喜んだ。
すごい。可愛い!と拍手喝采、美麗字句の雨嵐。
調子に乗ったウチは、それからお小遣いをためてはすこしずつお化粧品を買うようになった。
途中からはいおりんも調べてくれて、二人で何を買うか相談するようになった。
そんな相談もとても楽しかった。
そしてある日のこと。
不器用なウチの代わりに、いおりんがお化粧をしてくれた。
手先が器用ないおりんはそりゃあもう、初めてなのに女のウチよりとても上手だった。
それからはいおりんがお化粧をしてくれて、
いおりんが作ったシュシュやリボンなんかを組み合わせるようになった。
そのままどこかに出かけたりとかはしなかったけど。
いおりんの部屋での二人だけの秘密のファッションショーは続けられた。
ただ、めーちゃんとかに知られるのが恥ずかしかったウチは、
化粧品のほとんどをいおりんの部屋に置いていた。
ウチもいおりんの前で以外する気にならなかったからね。
で、いおりんは暴走した。
最近やたらとお化粧の技術が上達していったんだけど、
どうやらウチに隠れて自分で練習していたみたい。
他にも自分のバイト代で新しい化粧品を購入して、研鑽を積みまくったとのこと。
ウチも知らなかったんだけど。
どおりで、である。
確かにウチの日焼け止めはそれなりに効果だけど、
それだけで万単位行くほどじゃないのだ。
元々美術・芸術系に飛び抜けた才能の持ち主だったけど、
さらに言えば求道者でもあったいおりん。
躊躇うことなく自分をモルモットに超絶スキルに磨き上げ、
それどころか持ち前の裁縫技術で、
服飾までコーディネートするまでになっていった。
さもありなん。
っていうか、そこまでいっちゃったのねって感じだ。
しかもウチの体型に合わせるために、自分の体系も調節したらしい。
確かに身長も同じくらいだけど、そこまでやる?
・・・って、ちょっとまってバストとヒップはともかく、ウエストは?
ウエストもウチと一緒なん?
えっと・・・マジでショックなんだけど・・・
いや、今は話を戻そう。
あとで詳しく聞かせてもらうけど。
通りで最近ウチに薦める服とか、
小物とかのセンス良くなってきたなぁとは思ってたんだよねぇ。
それもウチの好みど真ん中ばっかり・・・。
それまでは二人してティーンズ雑誌の読モを、
そのまま真似てるだけだったのに・・・。
・・・ってか気付けよウチ。
いや、ウチが悪いのかな?
なんか目の前のいおりんの笑顔が恨めしくなってきた・・・
そしてようやくコーディネートの一通りが出来上がったのが先週のこと。
昨日はそのプレゼンの為の最終調整だったらしい。
実際に着てみて、変な突っ張りが無いかの確認や、お化粧品の肌ののり具合だとか。
そして運悪く早めに来たウチとエンカウント。
何も知らず、気づいてすらいなかったウチが、
その姿を目撃してしまったというわけだ。
ウチは目の前のいおりんを睨み付ける。
「でも、それならそれで別に隠す必要なくない?」
「いや・・・その、ゴメン」
「大体隠す意味が分かんないし」
「ほら、びっくりさせようと思って。
真紀ってそういうの好きでしょ?」
「それは!・・・そうだけど」
それにしたって、やってることが斜め上すぎる。
しかも本人に全く自覚がないってこと。
少しは躊躇しろよ。
女装するなんて、誰が考えつくってのさ。
「いおりんて意外と馬鹿だよね」
「ひどいなぁ」
「だって馬鹿じゃん。ばーか。ばーか。あほー」
「そ、そこまでいう!?」
「そこまで言うことだよ。もう、本当にしょーもな!」
ウチは両膝を抱えてうずくまる。
なんだ。
なーんだ。
もう、本当にしょーもな。
ウチのいおりんは、どうやらとんでもない馬鹿だったみたいだ。
こんなん思いつくくらい大馬鹿野郎で。
本当にしょうもないくらい。
大体自分を実験台にするとか、思考が斜め上だし。
女装だってウィッグまで用意しちゃって、どういう神経してんの?
マジキモイ。
こんな人、誰も好きになるわけないじゃん。
こんな人、好きになるなんてウチくらいじゃん。
なんか今度は嬉しいのに涙が出てくる。
わけわかんない。
泣きだしたウチに気づいて、いおりんが慌てて声をかけてくるけど、
ウチはかまわずに泣き続けた。
そっと背中を撫でてくれる手はとってもあたたかくて。
心地よすぎて大丈夫とは言いたくなくて。
しばらくはそうやって慌てていればいいと思うのです。
「そうだ!いおりん、ウチいいこと考えた」
いおりんのお手製の服に袖を通して。
奪い取ったウィッグを手のひらで弄びながら、ウチはピンとあることを閃いた
「なに?」
「いおりんさ、あの恰好ならウチとお出かけできるじゃん?」
いつものいおりんだと知り合いに見られるとまずい。
けど、女装したいおりんなら、少なくとも外見上は女と女。
多少のちぐはぐさはあるものの、中学のような悪目立ちはなくなる。
さすがいおりんお手製の服は、ウチにぴったりで。
これを着て外に出たい気持ちも大きかった。
「・・・・それはちょっと」
「え?どうして?」
「一応僕にも羞恥心というものはあるんだけどね」
はっはっは。ぬかしおる。
気付いてる?いおりん。
今ちょっとだけ、考えたよね?
そして、体裁を考えてから断ったでしょ?
もうウチね、わかったから。
さっき。
自分の本当の気持ち。
いおりんを誰にも渡したくないって気持ち。
本当に自分本位の我が儘な気持ち。
もう言っちゃったからには、今更取り繕ったりもしません。
言い訳もしない。
残念ながらもうここに綺麗なウチはいないのです。
自分の想いの成就の為なら、あらゆる手段を講じる用意があるのだ。
それともう一つ。
もっと重要で、大切なわかったことがある。
あの時のいおりんが思わず口にしたこと。
本人は忘れているのかもしれないけど。
ウチの耳はちゃんと聞いて、憶えてる。
まさかのまさか。
いおりんがウチのこと好きだって言ったこと。
言質取りました。コレ!
こうなったからにはウチは攻めるよ?
もう引いたりもしない。
だから、これはその為の第一歩。
ウチは今の自分にできる最高の笑顔でいおりんに言った。
「ウチがいおりんの作ってくれた服を着て、お化粧もして、そして一緒にお出かけしよう?」
「え?」
「それってばきっと楽しいと思うんだ」
まぁ、いおりんにちょっとした罰も兼ねてるけどね。
「・・・」
「ね?」
「・・・・・・わかったよ。負けた。真紀がそこまで言うなら」
イエス!
ウチは心の中で喝采を上げてガッツポーズをしたのだった。
ウチは山猫の毛皮を被る。
それは今も昔も変わらない。
獅子にも成らず、虎をも目指す必要もなくなって。
それでもウチは山猫の毛皮を被る。
きっとこれからもずっとずっと変わらない。
だってそれはウチの大好きな人が、
ウチの為に作ってくれた毛皮なのだから。
明日、後日談をアップできればなと思ってます。
その次はようやく萌絵の友人を登場・・・の予定?