024 姉崎邸訪問 お泊り会 前編
一話におさまりきらなかったん・・・
策は弄した。
相手は油断している。
なら、攻めるしかないじゃない!
その日も一本の電話から始まった。
「ん。別にいーよ。一応、親に聞いてからになるけど」
今度の金曜日の夜、姉崎家でホームパーティーをするらしい。
ホームパーティーとは何ぞや?
誕生日会なら知っている翔太だが、それは想像の範囲外であった。
なんでも近しい人を招いての立食式の園遊会だそうで。
そこでさらに「リッショクシキ」と「エンユウカイ」という不可思議な言葉に翻弄される。
それについて聞いたら、外が嫌なら室内でもいいよと頓珍漢な返答が帰ってきた。
まぁこれ以上話が進まないのも何なので、とりあえずパーティーということで納得した。
ちなみにその日はパーティーが終わるのも遅くなるし、お泊りでどうぞとのこと。
当初その話を聞いた皐月は少し不安そうだった。
どうやら先日、姉崎邸の前を別件で通りがかったらしい。
あの威容を見て少し及び腰というわけだ。
ザ・小市民!である。
そんなに身構えるほどのやつじゃないんだけどなぁと胸中でつぶやく翔太。
そんな折、姉の芽衣がガリガリ君(梨味)を片手に呟いた。
「いいな~。メイドさんもいるんでしょ?あたしも見てみたい」
さすがに姉が同伴はちょっと恥ずかしいなと思っていると。
「そうね。芽衣が一緒なら、いいわよ」
「「え?」」
と二人の声が重なる。
先に我に返ったのは芽衣だった。
「マジで?イエーイ!!そゆことでよろしく翔タン♪」
・・・それは逆にダメなような気がしますが・・・お母様。
それとその呼び方やめろ。姉上。
ああでも、萌絵に知り合いを作るにはいいのかもしれない。
まずは自分の姉で慣れさせるのは良いアイディアのような気がした。
芽衣自体に多々問題はあるかもしれないが、姉の猫かぶりは世界トップクラスなのも確か。
下手にボロは出すまい。
とりあえず、言うだけは言ってみることにした。
「・・・え?」
「・・・・・・萌絵?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙が怖い。っていうか恐い。
「萌絵?」
「・・・別に、いい、よ?」
「マジで?」
「・・・・・・うん」
なんか・・・が少し長かった気がする。
どこか不満そうでもあったが、一応了承はしてくれた。
まぁ後でフォローはしておこうと翔太は思った。
最近、しがらみが多くなったなぁ自分と、思わないでもない翔太であった。
そんなこんなで日々は過ぎ、決戦の日---もとい金曜日の夕方。
萌絵の家に向かう途中のこと。
事件は起きた。
「はぁっ!?え?何?ちょっとどうしたの?」
芽衣の携帯に真紀から電話がかかってきたのだ。
それ自体はいつものことなのだが、聞いている限りどうも尋常ではない様子だった。
携帯の向こうからは真紀の泣いている声が聞こえていた。
真紀が泣くことなんて小学生の頃でも、年に1回あるかないかだった。
ここ最近なんて見たこともなかったのに。
「真紀ちゃんだよね?」
「うん。ちょっとなんか普通じゃないみたい」
切れた電話を見つめながら芽衣は青ざめた表情で答える。
決断は早い。
「・・・あたし、真紀のとこ行ってくる」
「うん。でも、パーティーどうする?」
「ゴメン。キャンセルしといて!」
そう告げると翔太を置き去りに、もと来た道を走り去っていく芽衣。
翔太も心配ではあったが、芽衣が向かったのだから大丈夫だろうと思いなおす。
なんだかんだで面倒見のいい姉なのだ。
以前も真紀をギャルだとか悪口を言う男子に、スカートのままドロップキックをかました勇者でもある。
姉同伴での姉崎邸訪問が、いつも通りの翔太一人での訪問となったことで、
少し肩透かしを食らった気がしないでもないが、まぁ仕方ない。
萌絵に謝る言葉を考えながら姉崎邸へと向かった。
「え?お姉さん、来ないの?」
「ごめんな。せっかくOK貰ったのに」
此処に向かう途中での顛末を語り終える。
「ううん。ううん。いいの」
出迎えてくれた萌絵は慌てた様子で左右に首を振りながらそう言った。
「もうパーティーは始まってるの?」
門から伺い見るようにして翔太は聞いた。
「ああ、うん。まだだよ」
ここに来るのもこれで3度目。
もう最初ほどの緊張はない。
萌絵に誘われるがまま、二人連れ立って屋敷内に足を踏み入れる。
屋敷の中は思ったよりも静かだった。
というより、人気がなかった。
家に入るとすぐ、萌絵があっと声を上げた。
「そうだ。ちょっと着替えてくるね」
「え?その服じゃないの?」
今日はオレンジのワンピースだった。
意外と似合ってると思うのに。
だが、萌絵は朗らかに笑ってこうのたまう。
「そうじゃなくて、下着のほう!」
「どゆこと!?」
翔太の追及の声を聞かずに、萌絵は二階の方へと消えてく。
服をパーティー用に着替えるならわかるけど、何故ここへ来て下着?
訳が分からない・・・。
「あれ?」
そういえばと辺りを見渡す。
てっきり近重さんも出迎えてくれると思っていたのだけど、と小首を傾げる。
入り口広場で一人たたずむ翔太少年。
しばらくして萌絵が戻ってきた。
「随分静かだけど、近重さんは?」
「いないよ」
あっさりと答える萌絵。
「・・・え?」
「近重さんは今日は本社にいってるから、明日まで帰らないの」
「・・・・・・え?え?」
ドユコトデスカー?
目の前の萌絵は妖精のような微笑みを浮かべている。
それはまるで少年を妖精郷に誘う妖精のようだった。
「え?だって・・・今日、パーティーだって・・・」
「パーティー、だよ?私と翔太の二人だけの」
パーティー。
それは社交のための集まりであり、そこに人数制限はない。
つまり二人以上であれば、それはもうパーティーと定義されるのである。
ナ、ナンダッテー??
「あ、俺、宿題残してたんだった!」
ガシィ---出口に向かいかけた翔太の腕を猛禽のような指が掴む。
「も、萌絵?」
「お料理冷めちゃうよ?」
笑顔のままそう言った。
「・・・」
「大丈夫。なにもしないから」
そう言って何もしなかった奴は、いったいどれくらいいるのだろうか。
「いや、帰る」
すげない翔太の言葉に、笑顔であった萌絵の表情がふにゃりとゆがむ。
「やだよぅ。かえらないでぇ・・・」
翔太の腕を掴みながら、泣き喚き始める。
「いや、だって拙いでしょ。二人だけなんて」
「やあぁぁぁぁ!」
「やぁってあーた・・・」
今度は幼子のように駄々をこねはじめた萌絵に呆れて果てる。
「え?え~・・・何もしない?」
「うん。なにもしない」
随分とはっきり答えるなぁと胡散臭がる翔太。
ガシガシと頭をかいて、溜息をひとつ吐いた。
「わかった。今回だけだからな」
「やた!」
目の前で歓声を上げる芽衣を見て、早まった感がしないでもない。
が、どうも萌絵の泣き顔と笑顔には弱い。
ずるずると引き摺られつつあるなぁと苦笑する翔太だった。
Q 萌絵さんはエロエロですか?
A エロエロよー!
翔太の貞操は(どの程度)守られるのか!?
できれば明日アップします。できれば。