表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/38

022 携帯とヤンキー

今回と次回で新キャラ2名登場予定です。


突然携帯が鳴り始めたのにはびっくりした。

はずむ胸の鼓動を右手で抑えながら、視線を彷徨わせる。

どこかで聞いたことのあるメロディだった。

綺麗な曲を奏でる携帯を翔太はマジマジと見つめた。


白いカラーリングの折り畳み式携帯。

スマホが主流になりつつある現在、珍しいくらいの古びた携帯だった。

もちろん翔太のではない。

ここは梵天商店街から少し外れた場所にある遊歩道。

今日は伊織から借りた漫画を返しに行った帰りだった。

携帯はその遊歩道の入り口にひっそりと佇む郵便ポストのうえに置かれていた。


辺りを見回しても翔太の他に人通りはなく、持ち主らしき人影もない。

その間も携帯からのメロディは止むことはなく、流れ続けている。

しばし熟考。

もしかしたら持ち主がかけてきたのかもしれないと思い、その携帯を手に取った。

携帯を開き、点灯した画面には『れんちゃん』との表示。

どうも本人からではなさそうだった。

恐る恐る通話ボタンを押す。


『遊子?随分出るのにかかったな?』


どこか尖った物言いの男の声。


『遊子?』

「・・・あの」


翔太の声に向こうの男が息を飲んだのがわかった。


『誰だてめぇ』


凄い。

というか怖い。

先程までの尖った口調など、彼にとっては随分優しいくらいだったようだ。

明確な怒りを漲らせ、唸るように彼は言った。


『誰だって聞いてる』


翔太はすぐに通話を切りたくなった。

しかし、と。

自分の正当性と、なけなしの正義感から言葉をなんとか吐き出す。


「あの・・・俺、違うんです。この携帯落ちてて・・・それで」

『ああ?』


恫喝のような声に正直腰が砕けそうだった。

きっと彼は声だけで人が殺せるんじゃないかと思ってしまうくらい。

しかし、それはすぐに変化した。


『いや、わかった。またか・・・』

電話口から心底疲れたため息が漏れた。

「・・・あの?」

『いや、すまねえ。迷惑をかけた』

いきなりの謝罪に当惑する。

『お前、誰だ?今どこにいる?』

言い方からして取りに来るつもりだろうか。

「あ、俺、和泉翔太って言って。ここは梵天商店街の東の遊歩道の・・・えっとポストの前にいます」

『・・・翔太?お前、あの和泉翔太か?』

あのとは、どの和泉翔太のことだろう?

近所に同姓同名の人間はいなかったはず。

ということは、どうやら向こうは自分を知っているらしい。

ただ、この声に聞き覚えはなかった。

若い人の声ではあったが、それでも自分より随分年上に思えた。

それくらいになると翔太は春ぐらいしか知り合いが思いつかなかった。

『・・・なら、丁度いい。少しそこで待ってろ。15分くらいで着く』

こちらの返答を待つことなく、そう言って男は通話を切った。

すごい俺様な人のようだ。

「・・・・・・」

今すぐ逃げてしまい誘惑にかられる。

少なくとも向こうは携帯の場所は今の会話でわかってるはず。

ポストの上にでも置いておけば気が付いてくれるだろう。

彼が来る15分の間に誰かが持ち去らなければの話だが。

可能性は低いだろうが、ないとは言い切れない。

さすがにそれは無責任すぎるかと思い、翔太は仕方なく待つことにした。


待つこと10分ほど。

遊歩道の反対側から走ってくる人物が見えた。

その人物とはなんというか、無駄に輝いていた。

黒い服装のせいか、後光が差しているかのような錯覚を覚える。

初夏の陽光を浴びて、さらに輝く真っ白な髪。

加えて明らかに改造を施しているのが丸わかりな学ラン。


翔太は知っている。

彼の名は伝説のヤンキー。


「って違う」


と自分で突っ込みをしつつ、ポストの陰に隠れる。

つい先日、とある金髪の高校生と問題を起こした彼の条件反射のようなものだ。

大事には至らなかったものの、翔太に小さなしこりを残しているのかもしれない。

とはいうものの、あそこまでこれ見よがしなヤンキーを見れば、

君子危うきに近寄らずで誰だって同じ行動をするだろう。


走ってきたヤンキーはそのまま通り過ぎる

---かに見えたが、その足を止め周囲を見回す。


この時点ですでに翔太には嫌な予感がしつつあった。

この前の高校生たちではない。

もっと背が高く。

そして強そうに見えた。

なんとなく春を彷彿とさせる。


ヤンキーとの視線が交わる。


彼の吊り上がり気味の目がすっと細まった。

「何やってんだおめえ?」

「いえ、あの・・・」

「俺だよ。俺!」

いや、知りません。

貴方のような人、知り合いにいませんもん。

そんな翔太の反応を見て、自分がある勘違いをしていたことに気付いた。

彼はああと呟き

「悪い。さっきの電話が俺だ」

「ああ、やっぱりそうなんですね」

「携帯持ってるか?」

「はい。じゃ、これ」

翔太が差し出した携帯を彼はホッとした表情で受け取る。

「ありがとう」

存外に丁寧なお礼を言われてしまった。

それを大事そうに懐にしまうと、ヤンキーは改めて翔太を見た。

思わず身構えてしまう翔太。

「和泉、翔太だな?」

「あ、はい。そうです・・・けど?」

「俺は吾妻蓮二っていうんだけどよ」

「はあ・・・」


「すまなかった!」


そう言っていきなり直角に頭を下げる白髪ヤンキー。

あまりの出来事に度肝を抜かれてしまった翔太。


「お前が怪我したのは俺のしつけが悪かったせいだ。許してくれ」

真っ白な頭が叫ぶ。

「え?え?」

「この通りだ!お前に許してもらえねえと、春さんに会わせる顔がねえ!」

と、ここで何故かいきなりの春登場。

「春にぃの知り合いなの?」

「・・・ん?なんだ。春さんから聞いてねえの?」

身体を直角に折り曲げたまま、顔だけをひょこりと起こす蓮二。


そして話を聞いてみれば、この前の金髪のボスが蓮二であったらしい。

その蓮二は春の親しい友人であり、

舎弟が友人の弟分である翔太に危害を加えたことに責任を感じての謝罪であった。


翔太はその謝罪を必要とはしていなかったが、

蓮二がどうしてもと言うので受けとることにした。


「じゃあ、ついでだ送ってくぜ」

「え?いいですよ」

「気にすんな。俺も春さんに用事あるんだ」

ニカリと笑うそのお日様のような笑顔は、やはり春を彷彿させた。

ちなみにあの金髪の末路

翌日蓮二に呼び出されタイマンしました。

勝てたら無罪放免、負けたら坊主という梵工の伝統にのっとって。

で、勿論負けて現在坊主頭が5人です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ