019 和泉家の食卓
サブタイトルを入れてみようかと
評判悪かったらやめます。
中休みみたいな話&次へのつなぎの話です。
ちょっと書けたのでアップします。
それは一本の電話から端を発する。
「翔太。あんたに電話」
そう言って、子機を持ってきたのは母の皐月。
夕食の支度もすみ、珍しく家族そろっての夜だった。
「だれ?」
「女の子だけど。姉崎さんて子。知ってる?」
「?・・・あ!う、うん」
姉崎と聞いて一瞬わからなかったが、萌絵だと思い至る。
そういや姉崎って名前だったなと思いながら立ち上がった。
小首をかしげる皐月から電話を受け取って居間を出る。
さすがにここでは少し話しにくい。
背後にいくつかの視線を感じたが、あえて無視して部屋に籠る。
扉を閉めて溜息ひとつ、受話器を耳に添えた。
「萌絵?」
「・・・翔太?」
声を聞くと間違いなく萌絵だった。
向こう側でもホッとした安堵の息が聞こえた。
「ご、ゴメンね。いきなり電話して」
「ん、別にいいよ。どうしたん?」
「あ、あのね・・・・」
「うん。・・・・・・」
だが、そういったきりいつまでたっても萌絵はしゃべらない。
「なんだよ。はやく言えよ」
「う、うん。あ、あのね。今度の土曜日会える?」
ああ、そういえば具体的な約束してなかったなぁと思い出す。
「ん?ああ、大丈夫」
「じゃ、じゃあ私、パン作りたい!」
「え?」
「・・・ダメかな?」
翔太は少し驚いた。
あの萌絵が自分から何がしたいと言ってきたからだ。
少し、嬉しい。
「ああ、いや、大丈夫」
「本当?よかった」
「あ、でもウチだと仕事の邪魔になっちゃうからなぁ」
梵ジュールの定休日は水曜日なのだ。
「萌絵の家ってオーブンある?パンが焼けるくらいの奴」
「ちょっと待って。近重さんに聞いてみる」
そう言われてしばし待つ。
「大丈夫だって。焼けるみたい」
「なら決まりな。じゃあ、詳しいことはまた今度電話するから」
「う、うん」
「じゃあ萌絵の電話番号教えてよ」
学習机の上に転がっている鉛筆と紙を手繰り寄せる。
「あ、えっとね・・・090-○○×-▽×〇〇なんだけど」
言われた番号をメモに取った。
その番号を見て
「これって携帯?」
「うん。あ、また電話してもいい?」
「ん?おう。構わないぜ」
その後、いくつかのことを話して電話を切る。
電話を元の場所に戻すために部屋を出て、それから居間に戻った。
するとそこは随分と静かだった。
いつもはテレビが付いているはずなのに、今日はその音すらも聞こえない。
当然だ。
テレビがついていないのだから。
しかし三人とも居間には居る。
「?」
翔太が現れると誰もが神妙な顔でこちらを見る。
見れば夕食の用意がされているというのに、手つかずのままだった。
「?・・・メシ、先に食っててもいいのに」
そう言いながら翔太は席に着く。
いただきますと言いながら箸をとった。
目の前には父・仁。
右手に母・皐月。
反対側には芽衣がいる。
「・・・・・・」
無言のまま三人は食事を始めた。
「???」
なんだこれ?
すごく居心地が悪かった。
しばらく食器の音だけが響く。
ふと、さきほどの萌絵との約束を思い出す。
「そうだ。お父さん、今度の土曜、店の強力粉とかちょっと分けてもらえないかな?」
「ふぉっ!?お・・・おお。別にかまわないが。何に使うんだ?」
「うん。ちょっと友達と一緒にパン作ることになってさ。
相手の家でやることになってるんだけど、
誘ったのこっちだし、これくらいは持参しようと思って」
「それってこの前の彼女?」
そう呟いたのは芽衣。
「え?やっぱり彼女なの?さっきの姉崎さんのことよね」
翔太が何かを言う前に、俄然色めきだつ皐月。
「名前は知らない。でも、最近付き合い始めたみたい」
「ちょっと、翔太。なんでそんな大切なこと、お母さんに言わないの!」
「なんでさ!?」
いきなりの説教に翔太は悲鳴を上げ、余計なことを言った芽衣を睨み付けたが本人はどこ吹く風だ。
「まぁ待ちなさい。そういうのは男だからな。軽々と言うもんじゃないのさ」
と今度は父が翔太の弁護に回る。
「お父さん。そういうことじゃないでしょ。ご両親にも挨拶しないといけないかもしれないじゃない」
止めてください。死んでしまいます。
俺の羞恥心が。分子崩壊レベルで。
「すごい丁寧な話し方だったわ。きっといいところのお嬢さんよ」
頬に箸を持ったままの手を当てながら皐月はうっとりと呟いた。
行儀が悪いですよお母様。
「へえ。そうなのか?」
「・・・」
「それにたぶん中学生」
「「中学生!?」」
芽衣の間違った情報に、両親ともに驚愕の声を上げる。
「しょ、翔太。やるなぁ」
「あらあら。まあまあ。血は争えないものねぇ」
と今度は何故か嬉しそうな皐月。
それもそのはず何を隠そう皐月は姉さん女房だったからだ。
「・・・そんなに年上が良いのか、男どもめ」
母親とは反対に瞳がギラリと物騒な輝きを宿しはじめた芽衣。
ミシミシと手に持つ箸が三日月のように弧を描く。
その後、無言で目の前のおかずを殲滅にかかった。
だが両親が一気に騒がしくなる和泉家の食卓。
やがては二人の想い出話は、学生時代の出会いから始まり、
若干惚気も交えて同棲生活へと突入し始めた。
殲滅戦を終えた芽衣が鼻息荒く一番に離脱し、
頃合いを見計らって翔太も撤退を敢行する。
なおも和気藹々と団欒を続ける二人に視線を投げつつ自室へと戻る。
これで高校生と言ったらさらに複雑になりそうなので、
沈黙を選んだ翔太であった。
来てくれる方、皆が楽しめるものを書きたいけど、難しいですね。