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013 宣言

よろしくお願いします。

もうちょっとで第一部が終わる予定です。

「なぁ翔太。今日、安曇屋よってかね?」

そう言ってきたのはテツだ。

後ろにはいつものようにユウと三木もいた。

怪我の具合は良好。

まだ若干の熱はあるが、お化粧のおかげか誰にも見咎められることはなかった。

ちなみに安曇屋とは、通学路の途中にある駄菓子屋のこと。

古くから続く店で、芽衣はもちろん、春も通った梵天小学校の生徒たちの憩いの場でもある。

「ん~。俺金ないからパス」

テツの誘いに、少し迷ってから断る。

「はぁ?だってまだ月頭じゃん。なに買ったのさ」

テツが呆れた声を出す。

「買ったっていうか。押し売りされたっていうか」

渋い顔でそう呟く。

もう一生使われることもないと思うが、捨てる気にもなれず、

それは今も翔太のランドセルの中にある。

「なんだそりゃ?」

「悪い。とりあえず今月は臨時収入(手伝い賃)が入るまでパスなんだわ」

「最近付き合いわりぃぞ~」

「俺もそう思う」

テツの愚痴に翔太自身も同意の言葉を返した。

するとテツはそっと翔太に近寄り、周りを見渡しながら、小指を立てる。

「もしかして、コレか?」

「アホかお前は」

「だよなぁ~」

カラカラと笑うテツ。

「いいぜ。今日くらいはおごってやる」

「マジ?」

「5円チョコならな」

「せめて10円ガムになりませんかね?」

そんな掛け合いをしながら席を立つ。

四人は笑いながら教室を出た。

廊下を歩きながら、会話に花が咲く。

明日のテストのこと。

再来週の練習試合のこと。

新しく出たゲームのことなど話題は尽きない。


昇降口について、各々がスニーカーに履き替える。

他の友達が翔太達を追い抜きながら、元気に別れの挨拶をかけてくる。

それに元気よく答えながら、翔太は校庭へと出た。

---が、すぐに集団に阻まれることになった。

「なんだろうね、これ?」

隣の三木が面白そうに翔太に尋ねる。

何十人もの小学生がこの場で立ち止まっていた。

クラスメイト達の言葉が断片的に聞こえてくる。

曰く---


変な人。

黒い女。

校門のところ。

電柱。

先生呼ぶ?

高校生。

あと黒い。


そんな言葉が翔太の耳に入り、彼の表情に変化が生まれた。

「翔太?」

突然集団を掻い潜り、みんなの視線の先を追う。

果たしてそこには---

「おい。翔太どうしたんだよ。ああ、あれか」

追いついてきたテツが彼女を見て、顔をゆがめた。

「なにあの人、不気味過ぎ」

あの馬鹿は高校の制服で、校門の側の電柱に隠れるように佇んでいた。

「先生呼ぼうか?」

三木がそう提案をした横で、ユウが頷くのが見えた。

あいつはじっとこっちを見て、誰かを探しているようだった。

目が合った。

何を見てホッとした表情を浮かべているのか。

誰をなんて、そんなのわかりきってる。

あいつの目が答えを言っている。

人知れず笑みを浮かべていた翔太はランドセルの肩ベルトを強く握りしめ、歩きだす。

笑みを消し口元を引き締め、もうあの時のような情けない姿は見せないと決意して。

「おい。翔太、大丈夫なの?」

幾分腰が引けながらも、テツたちも翔太に続いて校庭を渡っていく。

「もしかして翔太の知り合いだったりする?」

中でも勘の鋭い三木が聞いてきた。

翔太はそれにぷっと小さく吹き出しながら、うんと答えた。

「妖怪濡れ女」

「よ、ようかいぃ~。マジかよ!?」

「あとすげえ馬鹿」

そうしているうちに彼我の距離は近づいていき、もう数メートルほどになっていた。

その間、彼女は---萌絵は多くの小学生に視線にさらされながらも、逃げることなく待っていた。

もしかしたら、電柱の陰で立ちすくんでいただけかもしれないが。

翔太は電柱の前に立ち、濡れ女を見上げた。

いつものように前髪の隙間から、黒瑪瑙の瞳がこちらをじっと見下ろしている。

二人は少しの間、互いに見つめ合う。

そして翔太は言った。

「お前、やっぱり馬鹿だろ」

「・・・ば、馬鹿じゃないよぅ」

「こんなとこ来て、もうちょっとで先生呼ばれるところだったぞ」

「そ、そうなの?ごめんなさい」

「ていうか、学校どうしたんだよ」

「そ、早退したの。翔太が心配で」

「・・・やっぱり馬鹿だ」

「馬鹿じゃないよぅ」

そんな二人の気の置けないやり取りを目の当たりにしたテツたちは、

幾分目をキラキラさせながら、翔太に尋ねる。

「おいおい。もしかして、翔太の彼女?高校生じゃないの、その人?」

テツの言葉にまわりの生徒たちも黄色い声を上げる。

口々に冷やかしや祝福の言葉を飛ばす。

それを萌絵はあたふたと両手を前に出して弁解をする。

「ち、ちがくて。私は、翔太のただの友達で!」

そうはいっても誰も取り合わない。

すると横から伸びた手が萌絵の右手を掴む。

反射的に萌絵の手が震えた。

その手は優しく萌絵を握ると、いまだ騒ぎ立てるテツたちに良く通る声で言い放つ。


「そうだよ。俺の彼女。だからあんま苛めんな」


シン---と静まり返る校門。

そして次の瞬間には大歓声が辺りを満たした。

まるで悲鳴の様な歓声を聞きながら、萌絵はぼうっとしたまま動きを止めていた。

もしかしたら思考すら止まっていたかもしれない。

「ほら。行くぞ」

翔太はそういって萌絵の手を引く。

「おい。みんな、恋人たちの時間を邪魔しないであげようぜ」

後ろで楽しそうなテツの声が聞こえる。

「あいつ」

苦虫を噛み潰したような顔で翔太が毒づく。

萌絵はぼうっと、されるがまま。

それでも二人のつないだ手は離れることなく、帰り道を一緒に歩き出した。

これでもう逃げられなくなりました。


翔太が

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