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011.5 side:芽衣

・・・嘘、言いました。

最初の予定は皐月と芽衣の両方の視点で語る予定だったのですが、

文体がブレブレになる気がしたので、芽衣オンリーに落ち着きました。


皐月と芽衣だからMayってしたかったんです

○月×日 日曜日


今日、泣き女を見た。

いや、違う。

それじゃなんか妖怪みたいじゃない。

弟の言い方がうつってしまった。

言い直します。

今日は泣いている女の人を見てしまった。

それがとても心に残ってて、こうして一か月ぶりに日記を書いてる理由。


あたしの名前は和泉芽衣。

梵天中学3年1組。吹奏楽部所属。

担当はラッパ。

身長は156センチ。体重・・・はこの際置いておきましょう。

でも最近、女性的な数値が革命的に成長を続けているのが密かな自慢。

これであの馬鹿も、あたしを見直すことでしょう。

あ、話がそれちゃった。

泣いていた女の人の話ね。

いま思い返してみても不思議な女の人だったの。


その日は弟の翔太が隣で厄介になっていて、あたしは朝からの綿密な外交交渉の末、

交換条件に昼のランチもつけることを相手に了承させたの。

あたしは意気揚々と自宅に戻って、いつものように家業の手伝いをしていると、店先におかしな行動をする人に気づいたわ。

最初は気のせいだと思ったんだけど、その人は何度も何度も、

私の家の前を行っては来て、行っては来てを繰り返していたの。


初めてみる人で、明らかにウチに用事があるのまるわかりで。

でなきゃ、背伸びして店の奥を見ようとはしないでしょう?

いっそのことこちらから声かけてみようかなと思った頃、

うん。と、こちらからでもわかるくらい大きく頷いて、

お店のドアを開けて入ってきたの。

絶対私より年上なんだけど、少しかわいく見えちゃった。

あたしとお母さんがいらっしゃいませっていうと、

面白いくらいびっくりして、おはようございますだって。

変なの。


それからその人は広いとは言えない店内をゆっくりまわりながら、

チラチラとあたしとお母さんを伺っているように見えた。

パンの説明を聞きたいのかなって思って、近づくとそっと逃げちゃうんだけどね。

うーん。なにがしたかったのかな?


さすがにこっちも他のお客様がいるから、ずっと見ているわけにもいかなかったんだけど、

それでもそれなりに長い時間いたから、その人を監視---じゃない、観察することができたのね。

まず一番あたしの目を引いたのが、腰まである艶やかな黒髪。

凄い綺麗で、私も髪の長い方だからお手入れの仕方とか、

使ってるコンディショナーの銘柄とか聞いてみたかったな。

服装は夏を感じさせる白い薄手のジャケットに紺色のワンピース。

落ち着いた女性って感じがしてた。大学生かな?

身長は私より10センチくらい上。

170は無いと思うんだけど。

それでも女性にしては背が高いほう。

だから服袖とかから伸びる手足がすらっとしていて羨ましい。

全体的に細身で、(これは女だからわかるんだけど)たぶん胸も大きい。

もうちょっと背筋を伸ばせばいいのに、もったいない。

ここまで書いてて思ったんだけど、改めてみると凄い高スペック。

ちょっと長すぎる前髪がちょっとマイナスくらい。

あれのせいで彼女の表情が見えにくかったもの。

でも、スッと通った鼻梁とか顎のラインは完全に美人さんのそれ。

これは賭けてもいい。


そして、事件?が起きたのはその人が店に入ってしばらくしてのこと。

ある程度客足も落ち着いて、これでようやく彼女の観察ができると思った矢先。

ある一か所から動かなくなったの。

総菜パンの場所ね。

お母さんとあたしは互いにアイコンタクトをかわして、

あたしがその人に声をかけたの。

するとすぐその人はあたしに振り返ってくれたんだけど。

あたしはその人を見てびっくりしちゃった。

その人、泣いてたの。

それも凄い大泣きみたいだった。

なに?食べてもいないのに香りで感動しちゃったとか?

ないない。

確かにウチのパンはその辺のパン屋より、絶対に美味しいっていう自負はあるけど、

嗅覚だけで人を泣かせるほどの至高のメニューってほどじゃない。

あんなのは漫画だけの世界よ。

何か惣菜パンに思い入れがあったのかな。

それも泣くほどのってなるとちょっと気になるよね。

でも、あたしもお手伝い歴8年のパン屋の娘。

なんとか笑顔でご用件を聞いたの。

何かございましたかって。

そうしたら、その人すぐに涙を拭いて、これくださいって言ったの。

コロッケパン。

おいくつですかって聞いたら、全部くださいだって。

そこにあったのは合計8個。

ウチのコロッケパンて結構ボリュームあるんだけれど、大家族なのかな?

それからその人は何かお母さんに話しかけようとしてたみたいだけど、諦めて帰って行った。

不思議な人だったけど、ウチのパン、好きになってくれるとうれしいな。

そしたらまた来てくれて、今度はもっと色々お話とかできるかもしれない。

今日はちょっと楽しみができちゃった。


明日は翔太が帰ってくる。

そしたら今日のこと、翔太に言って聞かせよう。

最初の文言はもう決めている。

私も妖怪泣き女を見たんだって。

そして言ってやろう。

凄い美人さんだったって。

悔しがると思うんだよね。

あの子なにげにマセてるから、美人が好きなの。

将来、女たらしにならないといいんだけど。

それが姉としてちょっと不安だったりして。






○月××日 日曜日

あの馬鹿、デートのランチに牛丼ってどうなの?

馬鹿なの?死ぬの?

初デートなのに!信じらんない!!

その上、言い訳が美味しいからだって!

そりゃ・・・確かに、美味しかったけど。美味しかったけれど!!

そういう問題じゃない!

絶対やり直しさせてやる!!

なかなか報われない少女、それが芽衣スタイル・・・合掌


あ、ちなみに革命的成長ですが、芽衣の主観ですのであしからず

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