001 少年時代
酷い見切り発車です。不定期更新です
同好の徒が来てくださると良いのですが・・・
よろしくお願いします。
よく「蛇に睨まれた蛙」という言葉を聞くけど、
「蛇を見つけた蛙」も同じだと思う。
目に入った瞬間、身体が硬直してしまう。
翔太はそんな益体もないことを思った。
学校からの帰り道、いつものように友達と別れて、
いつものように梵天公園の噴水前を通りがかった。
そこで翔太は見つけてしまう。
全身水浸し、長い黒髪を身体に張り付けて、俯きながらこっちに歩いてくる女。
得体のしれない何か。
ヒタリ・・・ヒタリ・・・水たまりの足跡を残しながら、こちらへと。
その時、黒髪の隙間から白い肌が見えた。
「ひぃ!?」
背筋が凍った。
目が合った!?
ランドセルを持つ手に力が入る。
砂利の上を後ずさりしながら、反転する。
翔太は後ろを振り返ることなく公園の外へと駆け出した。
どれくらい走っただろう。
気が付けば、小学校の校門にまで戻ってきていた。
翔太の姿に気づいたクラスメイトがどうしたのと聞いてくる。
それに適当に答えてから、息を整える。
どうしようと考える。
回り道する手もあったが、翔太の矜持がそれを許さなかった。
少年らしい蛮勇であったかもしれない。
まだ日が高かったからでもある。
「別に怖くなんかねーし!」
そういって、精一杯自分を鼓舞して、再び梵天公園へと向かう。
はたして、そこにあの女はいなかった。
辺りを良く見渡す。
先程であった場所には微かな水たまりがあったが、それだけ。
女の姿はついぞ見えなかった。
ほっと一息ついてから、梵天池の方へと向かう。
するとそこにはひときわ大きい水たまりがあった。
まるで池から何かが這い出してきたような・・・。
ここから出てきたんだ。
そう考え至るとぞくりと悪寒が走り、足早にその場を去った。
ベーカリーショップ「梵ジュール」
それが翔太の両親が切り盛りする店兼自宅だった。
店と店との間、路地裏を進んで裏口から入る。
帰ると姉の芽衣が出迎えてくれた。
「おかえり~」
翔太と同じ栗色の髪を左右にまとめてリボンで縛った少女。
創太の二つ上の中学二年生だ。
「あれ?芽衣姉?早くない?」
「試験中だから~。冷蔵庫にプリンあるけど、あたしんだから」
「食べないよ」
居間の隅にランドセルを置いてから
「なぁ芽衣姉。すげえのみた」
「なによ」
部屋に戻ろうとする姉を捕まえる。
「なんか全身真っ黒で、びしょ濡れの女」
「はあ?あんた何言ってんの?」
「だ~か~ら。バケモン。見たんだよ。俺。さっき、梵天公園の中で」
「おか~さ~ん。なんか翔が変なこと言いだしたんだけど」
「芽衣姉!マジなんだって」
「真っ黒でびしょ濡れ女?それって濡れ女ってこと?」
「濡れ女?なにそれ?」
「え?え~っと・・・あ~、それくらい自分で調べなよ」
そう言って、そそくさと引っ込む芽衣を呆然と見やり、居間にあるパソコンを立ち上げた。
グーグルで濡れ女と検索すると大体の概要はわかった。
読めない漢字も多々あったが、妖怪という文字は読めた。
そして翔太は濡れ女に対して怖れよりも、好奇心の方が多くなっていった。
また会えるだろうか。
もしかしたら手下にして、友達に自慢できるかもしれない。
ふとそんなことを思いつく。
明日もう一度探してみよう。
その夜は明日のことを思って、なかなか寝付けなかった。
一応、お守りは持っていくことにしたけど。
・・・・効くよな?