幕間 花守
幕間 花守
「黒臣が怪我を?」
理の姫・光は、新たに創られた節理の壁近くで、その報告を受けた。
眉を顰めた光の問いに答えるのは、水臣だ。
「はい―――――。魍魎の様子が、これまでとはまるで違っていたのです。汚濁は無く、清らな気配。黒臣が戸惑う内に、それに手傷を負わされました。無論―――――滅しましたが」
黒臣の治癒の為、すぐに立ち上がろうとする光の袖を、水臣が掴む。
「どちらに?」
「訊くまでもないだろう。黒臣の元だ。……手を放して、水臣」
「面白くありません」
「何?」
水臣は揺らぐことのない瞳で続ける。
「あなたが、他の者の為に動くというのは」
「莫迦なことを――――――」
言い終わらないう内に、水臣に唇を塞がれる。
光が唇を手で覆い、水臣を睨む。
「―――――こんなことを、している場合ではない」
赤らんだ顔でそう言って、光は姿を消した。
「花守は――――――つまらぬ」
彼女が消えたあとを見て、水臣が独りごちる。
いっそのこと光をどこかに閉じ込めて、自分しか目に入らないようにしてやりたい。
水臣はいつも、荒ぶる感情を持て余していた。
常に近くにいるのに、光を独占することは叶わない。
(花守は、つまらぬ―――――――)