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6話

お待たせして申し訳ございません。

この屋敷全体が黒系統で統一されているのか、案内された部屋も天井には豪華なシャンデリアやグレーの壁紙、そしてテーブルクロスも上品な漆黒だ。

四人掛けの大きめのテーブルの上には少しの曇りもない銀食器やシャンパングラス、ワイングラスが出番を待ち構えている。

中央に火の灯った蝋燭立て。その周りには白や薄いピンク系の花々がセンス良く配置され、洗練されたコーディネートながらも何処か暖かみのある食事会だ。お高い貴族様の金に物を言わせた悪趣味な食事会とは比べものにならない質の高さだ。


銀食器は毎日手入れをしないと直ぐに曇ることから銀食器の輝きで執事の質が分かるというが、容姿端麗で仕事も出来るとは同性として嫌味以外の何ものでもない。



「こちらの席にどうぞ。当家ではマナーを気にせず、ゆっくりおくつろぎ下さい。

今回の食前酒にシャンパンをお持ちしました。お嬢様にはブドウジュースです」


きめ細かい泡と爽やかな酸味が軽い感じで飲みやすい。

レリットは赤いブドウジュースをコクコクと美味しそうに飲んでいる。


……和む。

隊員の中には癒しを求めて鳥や小動物を飼う者たちがいたが、漸く気持ちがわかった。




「先ずは前菜ですね。

当家の菜園で今朝採れました豆を茹でた後、荒塩で味付けをしたものです」


大きな白い皿の中央に緑色の豆が子供の拳大の大きさに盛られている。

確かに美味いが、サヤから出しているこれは酒場のお通し定番の枝豆に似ている。


次に音も立てずに置かれた皿の上には黄色系と緑色のコントラストも鮮やかな、クラゲとキュウリの酢の物に似ている。


「次は酢を使った料理です。さっぱりした味と食感をお楽しみ下さい」


………まんまクラゲの酢の物だ。

あの執事の嫌がらせか、と思わずレリットの皿を確認すると自分のものと全く同じものだ。

アーウィンの視線に気が付いたレリットがコリコリ食べながら “…これ好きなの” と、はにかみながら答えた。

どうやら本当に好きらしいが、もうちょっと何と言うか、ビジュアル的な面でモヤモヤする。



「本日採れたての季節野菜の具沢山スープです」


何とかまともだ。誤解しないで欲しいが、味付けはピカイチだ。



次の料理が来る間レリットと世間話で場を繋いだが、レリットの母親はおらず今は父親と使用人達だけらしい。

父親は研究三昧で一ヶ月に二度程顔を出しレリットを目一杯可愛がり、また研究室に篭るという不健康なサイクルを繰り返している。


「…研究室から出てこなくていい」


「………」


43歳の騎士団様が娘に 、“パパ嫌い” と言われ一週間使い物にならなかったのを思い出した。

どこの家庭でも父親は娘にうっとうしがられているらしい。

談笑していると次の料理が運ばれて来た。



「シェフ自慢の鳥の辛辛ソース和えでございます」


「ちょっとまてえぇぇぇっっっ!!!」


思わずアーウィンは指をさした。



「さっきから一体何なんだ!?何で酒場定番のツマミばかり出て来るんだよ!こういった席には普通、野菜のゼリー寄せとか海老や蛸のマリネとかガチョウのコンフィとかだろう!」


「…アーウィンおしゃれ」


「全く、出されたものに文句を言うなんて。困った方ですね」


「違う!こうビジュアル的なものがあるだろう!?何で親父くさいメニューなんだよ。

こいつにはチョコとかマドレーヌとかが似合いそうなのに」


「酒場メニューは私が好きな食べ物だからですよ。お嬢様も小さな頃から食べ続けた結果、好きになりました」


……普通人はそれを洗脳と呼ばないだろうか?

元凶がここに居たらしい。

そんな中、洗脳されていたレリットは不思議そうな顔でアーウィンに質問した。


「…アーウィン。チョコやマドレーヌって何?」



………は?

…………………嘘だろ?


アーウィンは元凶を睨みつけると執事は肩を竦めて、あれは体型を変える悪魔の食べ物と言い放った。


「いいですかアーウィン様、お嬢様は絶妙な丸みを帯びた体型なのに、スベスベのお肌を荒れさせ、体型を脂肪まみれに変化させる悪魔の食べ物なのです。

お嬢様の体型を崩すなど世界に対しての冒涜と一緒なのです!」


「黙れ、変態。……レリット今度焼き菓子を持って来てやる。甘くて美味いぞ」


「…甘い?ハチミツより美味しい?」


「お、流石は貴族様だな。高級なハチミツを食べてんのか」


「ええ、お嬢様の為に。

因みに私が採取しております。私達は痛覚がありませんし、何よりタダです。それにハチミツは美容と健康、お嬢様のお肌もツルツルに…」


「甘いものを食べさせているかと思えば、貴様の欲望の為か……レリット、今度色々持ってきてやるから好きなだけ食べろ」


「いけません!お嬢様の体型が!」


「喧しい!貴様へんたいは黙っていろ」


二人で言い争うのを見てメイドが一言、『お二人の会話を聞くと、お菓子を子供に買って来るお父さんと、買って来ないでと怒るお母さんみたいですよね〜』、と。


「 「…………… 」 」



不毛な争いが止まったのは感謝するがもう少し他に例えが無かったのだろうか?




因みに自慢なだけあって、辛辛ソース和えは今まで食べた中で一番美味かった。











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