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5話

今回は少し短いです。


目覚めると知らない天井だった。



首だけを動かし辺りを見回すと、白いシーツと枕、壁は黒に近いダークグレー、そして最後に自分が一人ベッドに寝かされているのを確認し、アーウィンは溜め息をついた。



非常に残念な事に記憶は残っていた。

しかし、どれ位寝ていたかは不明だが一度寝た事で頭がリセットされ混乱もなく不思議と現実を受け入れている。

自分で言うのも何だが、素晴らしい適応能力だ。


ああいった者達、生きた死体を確かリビングデッドとか言ったか?

そういえば昔、死体を意のままに動かす魔法を使う貴族がいると聞いたことがある。

王の剣や盾などの二つ名がついた王族を守る一族がいる。

確かその中に奇妙な二つ名を持つ貴族が居なかっただろうか?



「…なんだったっけな〜。確か…王の墓守とか呼ばれていなかったか?」


「正確には、コリンヴィータ家ですよ」



いきなり聞こえた声に慌てて振り向くと、黒髪の美貌の持ち主が水差しを持ってそこに立っていた。

職業柄、人の気配には敏感だが、声を掛けられるまで気づかなかった事に驚く。




「…驚いたな。ここまで気配に気づかなかったのは初めてだ。……もしかしてアンタもか?」


「ええ、初めまして。シェルと申します。アーウィン様」


「…?俺の名前…ああ、レリットか。まあ一応礼儀として、アーウィンだ、宜しく…ん?………もしかしてレリットも、か?」


「いいえ。お嬢様は生きている人間ですよ。…しかしどうやってお嬢様を誑かしたのですか?身内以外生者には全く興味を示さない方なのに」


「人聞きの悪い事を言うな!!

…ったく。木から降りれなかったところを助けただけだ。…つーか、お前か!?あんな子供を一人で数時間も放っておいたのは!」


「それこそ人聞きの悪い。きちんと監視はつけていましたよ。…しかしながらお礼を言わなければなりませんね。

私達の身体は温度を感じることも出来ますが、感じるだけで実際は身体には直接影響しないのです。火傷をする程の熱湯を感じても実際には火傷も痛みも感じないので、お嬢様のお身体が徐々に冷えきって体調を崩す事を失念しておりました。

…助けていただき、ありがとうございました」


そう言って深々とアーウィンに向かい洗練された、生きている人間と変わらぬ仕草で腰を曲げた。

つくづく嫌味なほど絵になる男だ。



「…いいや、成り行きだったしな。それにこっちも倒れちまって世話になってるからおあいこだな」


「ありがとうございます。……しかしあの程度でお倒れになられる見かけによらず意外に繊細な方なのか、こうして私の正体を知りつつ普通に会話される何も考えていない、バ……豪胆な方なのか、判断に困りますね」


「どういう意味だ!?つーか、あれが “あの程度” か!?」


「…ふ。失礼。

首や目が落ちたぐらいで騒がれているのが可笑しくて。ここでは日常茶飯事ですので」



どんな日常茶飯事だ?

気のせいかもしれないが、鼻で笑われた気がする。あざ笑うかの様な表情すらも女受けしそうだとは、エリック辺りは血の涙を流しそうだ。

そしてシェルの言うとおり、何故自分は普通に会話しているのか?

悶々と考え込んでいると、ドアの奥の方からのパタパタ走る音と共に馬鹿犬の吠える声が聞こえて来る。

ノックの音と同時にドアが開き、帽子を取ったレリットがサラサラの髪をなびかせベッドに近寄ってきた。

ちょこんと枕元から見上げる様は無表情ながら、目が “大丈夫?大丈夫?” と訴えている。………かわいい。


い、いや実家の子犬に似てるだけだ。

多分、いやきっとそうだ。



「…アーウィン、起きた?大丈夫?」


「お嬢様、ノックの意味がありませんよ。廊下を走るのも厳禁です。淑女たるもの心に余裕を持たなくては」


「…分かった。

アーウィン、貧血で倒れたのを覚えてる?」


「は?貧血?」



いやいやいやいや、生まれてこの方一度も貧血で倒れた事は無い。

あれは現実逃避というか、脳がオーバーヒートしただけだ。



「…アーウィンは好き嫌いはある?」


「は?…いや好き嫌いは無いが、それより俺は別に貧血で倒れたわけじゃ…」


「お嬢様、食事の用意が出来たようです」


「…ありがとう。

アーウィン、いっぱい食べて力をつけるといい。ランチは私の好きな物を作ってもらった」


「ち、ちょっと待て。ランチって?」


「昼は少々過ぎましたが、お嬢様が貴方へランチのお誘いですよ。

さあアーウィン様、起きるのをお手伝い致します。

……いいですか?貴方は貧血で倒れられたのですよ。…心無い言葉でお嬢様のお心を曇らせるような、無神経な事は言いませんよね?」



後半はアーウィンしか聞こえない程の大きさだったが、騎士団の隊長職というそれなりに経験を積んでいる自分が一瞬、気圧された。

鳥肌がたった腕を摩りつつ横目でシェルを見ながら、死人はともかくとして、こいつは唯の執事では無いだろうと確信する。


つまりこの執事様は、俺にこの異常な環境に怯えるな、と。

内心を訳せば、お嬢様が気にするじゃねえか、責任取れんのか?ああんっ?てな感じか?



こんな状況のこんな奴の近くでランチ。

しかもお嬢様の好物ばかりのメニューらしい。

ハンバーグやオムライスはいいが、お菓子ばかりのランチじゃないだろうなと一抹の不安を感じつつ、こっそり溜め息をついた。






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