-R
かっこいい男を書きたかった!!
Do you want to a government guns and maria?(お前は政府の銃や聖母様を望むか)
……It is surprising! It is surprising!(とんでもない!とんでもない!)
We decide our way.(俺達の未来は俺達が決めるんだ)
We're here to represent.(俺らは見せつけるためここにいる)
The spit in the face of the beautiful favorite world.
(綺麗好きな世界につばを吐きかけてやるさ)
Let's start a "REvolution". (さぁ革命を始めよう)
『-R』
ビルとビルの隙間、見上げるとそこにはなんとも狭い空がこちらを覗きこんでいた。
こんな狭い空間でさえ、焼つくような太陽の光が全身を刺すように照らしている。
熱によるモヤと生ゴミが晒されさらに増した腐臭が、強面の男の感覚を犯していく。
男は明らかに作者の意図ではない傷がついたダメージジーンズのポケットから、小さい飴の包み紙を取り出した。
蛍光ピンクに黄色い星が散りばめられたうるさいデザイン。
その割に中身は包み紙にそぐわない薄く白い錠剤。
それを男は口に含み、当然のように噛み砕く。
錠剤は飲み込むのが常識、それに従わない彼は声も出せないほどの苦味を堪能することになる。
「あぁ愛しい俺の彼女、今日もよろしく」
男は左手に包み紙を、右手をポケットに入れた『つもり』になってよろよろと歩き始めた。
久木元武人。
とある戦争で国を背負って奮闘した男がいた。
黒髪でギラギラと光る灰色に近い瞳、それを隠すサングラスに、傷だらけで大柄な身体。幼い頃から鍛えられていた筋肉は服の上からでも見て取れることができる。逆にはたから見てわからないのは背中にある竜の入れ墨である。
銃や大砲が主流となった今のご時世で、彼は半斧を愛用していた。
柄が木製で長さが1メートル、刃がその半分である50センチくらいの刃の斧である。
彼は表だった戦争には参加をしなかった。
代わりに与えられた任務は敵方の重鎮を『いかに残虐に殺せるか』だった。
これは見せしめとなり、敵方が大きな行動を起こしづらくなる。
この任務を誇りに思えと幼い頃から教育され、武人は一つ二つと任務をこなしていく。
上官から褒められていくうちに、血に濡れることが快感になっていった。
ある時だ、戦場であの光景を目の当たりにしたのは。
任務を終え戻ってきた戦場では軍人ではない人達を殺している自陣の軍人達がいた。
老若男女も、逃げているものも、命を乞うものも、関係なくだ。
煙で色を変えた空、火薬と血の臭い、何語かもわからない喚き声、絶叫。
がれきの山に黄砂の渦。そしてモノも言わない死骸。
視界の端で女が三人の軍人に連れられていくのが見えた。
武人は何も考えることはできなかった。ただ裏切られたという一心のみが彼を衝動的に動かし敵ではなく、味方である軍人達をその手で殺めた。
女は何もされなくて済んだらしい、武人がほっとしたのは束の間だった。
その女は武人に抱きついた、ように見えた。
彼女の手にはダガーがあり、その剣先は武人の右肩に埋まっていた。
「なんで……なんでぇママもパパもっなんでぇ!!!」
武人は生きることをやめた抜け殻のように、刺されていた。
何回も、何回も。
彼女の腕が限界を迎えるまで続けられた。
そして終わってしまった彼女と彼。
残酷なことに物質的に彼らが終わることはなかった。
彼はこの傷により右腕を切り落とすことになって、戦争という舞台から下ろされることになる。
蛮勇は誰からも知られないうちに闇に沈んでいったのだ。
「たけさん、ねぇー。たーけーさーん!!」
「おおう、わしゃを呼んだかい」
「もう数え切れないわよ、難聴で残念ね。もうそろそろご臨終?」
そして武人とその女、瑠はシャッターで閉まっていた元がコンビニだったこの場所でフロワに座り込んでいた。そしていつも通りこんな会話をしていた。武人は薬物の効果なのかボーッとしていることが多い。しかし、この薬を飲まなければ右肩から失った右腕の関連で起こる発作のような『幻肢痛』でろくに生活を送ることができないのだ。
瑠には戦争に巻き込まれた時につけられた左頬に横線のような傷がある。それを隠すために常に化粧をしていた。アイライン、アイシャドウ、そしてビューラーの上のマスカラで目力を二、三倍にした瑠はじっと武人を見ていた。
「わしゃも良い年だからな、死んじまうかもな」
「……ごめん、やめて」
「じゃあわしゃの機嫌とってちょーだい」
武人はそう言って瑠の華奢な身体を太い左手で抱き寄せて、かすれた甘えるような声で瑠の耳元で囁いていた。瑠は少しだけ目を細めた。そして武人の唇を優しく噛んだ。
「んっ……舌はダメ」
瑠はすぐに顔を離して、くすっと笑い武人をなだめるように頭を撫でた。一方武人は物足りないのか舌を少しだけ出して哀愁帯びた顔をしていた。
「どうしてるーちゃん…」
「ヒゲがちくちく刺さって痛いの、あと他に女がいるんでしょ」
「ヒゲは謝る、だがわしゃにゃ、るーちゃん以外に女作ってないぜ!?」
武人は自分の口周りに生えたヒゲを指でいじりながらも、女に関しては全力で否定をしていた。その姿を見て瑠は肩をすくめていた。
「……彼女、身体に悪いから」
「そういうことかい」
「もう私のことは気にしないでっていうか、私が悪いんだし。社会福祉的なやつ使おうよ。もういいよ、やめようよ」
「わしゃにゃあ、無理な話だ」
「たけさん…」
「その話はやめろ」
武人のさきほどの緩い表情とは裏腹に、かたくなで厳しいその表情には彼の過去が影響をしていた。政府に対する嫌悪感。公的扶助をもとめた時点で世間の"弱者"にみられる。それがどうしても彼には許せなかったのだ。
「でもたけさん…このままじゃたけさんが死んじゃうよ、私は嫌。嫌なんだからね!?」
泣き出しそうな顔をしながら訴える瑠を抱き寄せながら、武人は灰色の瞳を閉じて壊れそうな廃墟の天井を仰いだ。
どうしてさ。
わしゃらと奴らは何が違うんだ。
奴らよりわしゃらは弱いのか。
悔しい、このままになんてできるものか。
また斧を振るうか。
残された腕で?無理に決まってる。
どうすれば弱者は権力に勝てる。
考えろ、考えるんだ。わしゃの頭がいかれる前に…。
「ん、わしゃうたた寝してたんか」
「もう、重たいんだから、早くどけてよ」
武人は頭をフル活動しているうちにそのまま眠りについていたようだった。瑠はそんな彼を結局ほっとくことができなかったようで、彼の膝枕をしていた。
「よだれの痕があるぞ、るーちゃん」
「う、うるさいボケナス」
口が悪いいつも通りの瑠、目を覚ました廃墟のつまらない色合い。
全てが変わらない光景。しかし武人には何か違うものに見えた。
「るーちゃん、わしゃもう腹に決めたよ」
「えっ、やっとお世話になる決心できたの」
「わしゃは権力相手に戦うことにするよ」
自信満々に親指をたてる武人に、唖然とする瑠。その後に瑠は武人のその親指をへし折るように引っ張った。あだだだと武人は悲鳴をあげる。
「まだそんなことを言って!!もうやめて!」
「瑠」
「何よバカ武人!」
「われはわしゃのみてくれに惚れたのか?それとも罪の意識で引き寄せられてるのかい」
「そんなわけないじゃない!だから…」
「ならわしゃについてこい。もっとカッコイイとこを見せてやるから。だからその、協力してほしいことがある」
武人の言葉に瑠は反抗することをやめ、首を傾げた。武人はゴホンと喉の調子を整えてから瑠に話し始めた。彼の意志とそれを達成にするための手段を。
「われがあの酒場をシマにしてる集団のヘッドか」
「なんだてめぇ、口の聞き方がなってねぇな。どこのボンクラだ」
武人は小さなパブに足を運んだ。そこは不良共のたまり場になっていることで有名な酒場で、最初は綺麗な内装だったのだろうが呑みっぱなしの瓶は下に転がっていたり泥酔をしてる人はいたりと酷いものだった。そして武人はお目当ての人間に会うことに成功した。
「よし、われに聞こう。この酒場はわれにとってのなんだ」
「はぁ?ここは俺のシマっつってんだろ!腕がとれてる上に耳もいかれてんじゃねぇのか」
不良たちはヘッドの様子を見て、げらげらと笑いながら群がってきた。鉄パイプやナイフ、不良たちの武器は様々だった。ヘッドは武人を囲むこの状況を見てにたりと口を曲げた。
「あぁ、安心したよ」
「……あ?」
武人はそれにひるむどころか安堵したような顔をしてから、もう使われていないだろう床に転がっている掃除用のモップを手にとった。そして彼は振り向き際にモップを右下に薙下ろす。それのモップの根元にあたる金属部分はつったっていた不良のこめかみに当たり、吹っ飛んでいった。
「今からわれと、われのお友達は権力だ、覚悟しろ」
それが争いの引き金となった。武人に対して四方八方から襲いかかってくる。それをモップで横に薙ぎ払う。そしてその間合いより近づいてきた不良は腕のない右側からナイフを突きつけてくる。その瞬間にモップを手放し、その腕を掴み武人は頭突きをくらわせる。相手が倒れるのを見る前に前傾した身体を戻す勢いを利用し、またモップを広い横に薙ぎ払った。
集団戦に慣れていない不良たちはモップを食らい倒れる不良にぶつかり勢いを失う。
それを良いことに、武人はその隙を狙い正拳を相手の喉に突き刺す。
「な、なんだお前…!!」
不良のヘッドは後ろの方で顔を真っ青にしていた。手下たちが倒れていく状況に対してはもちろん、彼は武人の表情に戦慄していた。武人は実に楽しそうに暴れまわっていた。流れるように動き不良たちを倒していく様は武神のようだったからだ。
「わしゃは」
武人は全身に切り傷や打撲で所々赤くなった姿をヘッドに見せた。もう立ち上がってくる人間は誰もいない。そして獰猛な瞳を細めてヘッドに笑いかける。
「わしゃは弱者だよ、弱者の代表者だ」
そのヘッドにしては矛盾すぎるセリフに震え上がり、戦闘不能の手下たちを置いて尻尾を巻いて逃げていった。残ったのは気絶している不良どもと武人と、もう一人。
「文字通り不良どもを一掃って感じかねぇ、てんちょーさん」
「ひぃぃ…もう勝手に使っていいですから、本当に勘弁してくださいぃ……」
カウンターの裏で、店長らしき気弱そうな少し頭の薄いおじさんが隠れていたのだった。不良どもに相当な目に遭わされていたのだろう。その腰の低さは武人の見てきた社会の真実を見た気がした。
「てんちょーさん、心配しないでよ。変なことに使うことはないからさ。ただ俺のグループを集合させる場所にさせてほしい」
「うぅ…そうやって金を巻き上げるのでしょう、命さえ無事なら別にもうなんでもいいですけど」
「だから大丈夫だって、まぁ集会を一週間後にやるからそれ見て判断してくれよ」
武人は伸びている不良達をドアの外に出しながら、親指を立てて笑った。店長のおじさんはため息をつきながらその様子を見ていた。
「るーちゃん、ありがとなぁ。われのおかげでわしゃの想像通りのものが作れそうだ」
「う…うぅぅ……」
そして酒場を不良たちの手から開放した二ヶ月後くらいに、もう一度酒場に武人達は集まった。今回は瑠もここにきている。瑠は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
「毎度言ってるけどかわいいじゃないか、わしゃはこっちの瑠のほうが好みだぞ」
「女の気持ちもわかってよぉぉ…!」
武人は首を傾げている。どうしても瑠の気持ちがわからないようだった。
何がいつもと違うかといえば瑠は化粧をしていないということだった。
武人的にはこっちのほうが好みらしく、どうしても恥ずかしがる瑠の気持ちを汲むことができないらしい。瑠はそんな愛しい人の反応を見て諦めたように顔を上げた。
「なんですっぴんじゃなきゃダメだったの」
「信用してもらうためにはありのままの自分を見せるほうがいいからな、だからこんなにも人が集まってくれたんだろう」
武人はそう言って、おじさん店長の様子を見ていた。おじさん店長は久しぶりのお客さんにペコペコしながらも嬉しそうに自慢の酒を届けていた。前もって武人が掃除をしていたこともあり、不良たちの所有地化していた頃とは見違えるような明るい雰囲気があった。
雰囲気はお客さんの影響もある。お客さんは共通点のなさそうな人達ばかりだった。おじさんおばさん、ホームレス風の青年、大きい画用紙とにらめっこしている画家のような女性、太った少年、武人並みにいかつい顔したスキンヘッドの男、車イスにだらんとよりかかった少女。
『普通』とは言いがたい人達ばかりだった。しかし、彼らは初対面ではありながらも酒を通して、楽しそうに談笑をしていた。
武人と瑠は、様々な施設を訪問をしてここへ来てくれる人達を募集していたのだ。武人は少年院、不良の根城、などを中心に『条件』に合う人間を探していた。瑠も同じく高齢者施設、普通学校、障害者施設などを渡り歩いた。同じく『条件』に合う人を探して。
「はい、ちょっといいかい。われら同胞よ!!」
武人は端にあるひとつの机に飛び乗る。そしてカラオケ用のマイクを手に握り、その様々な同胞達を見渡しながらにっと笑った。
「今日集まってもらったのは弱者の同胞達だ。社会の荷物のように扱われ辛酸を舐めてきた仲間達だ!!」
ここに集まってきた人の唯一の共通点であり、『条件』である内容は弱者だということだった。武人は社会に不満を持つ力なきものを集めたのだ。
「われも一回は思ったことがあるだろう、こんな仕組みはおかしいだろうと。しかしどんなに声を涸らしても、どんなに拳を振り回しても、どんなに文字を残しても、わしゃらの意志はかき消される」
武人は一枚ジャケットを脱ぎ捨てて、黒のタンクトップになる。そして右肩の薄く赤い断面を見せつける。周りは少しだけどよめいた。
「だからこそわしゃらは集うんだ!飼い主に媚売る犬じゃつまらないだろう。今一度立ち上がろうじゃないか同胞よ!ここから弱者の革命を起こすんだ!!」
酒場の雰囲気は静寂に包まれた。しかしそれは冷たいものではない。武者震いにも似た熱く煮えたぎるような静寂だった。そして、けたたましいほどの拍手と狂っているかのような雄叫びが酒場を埋め尽くした。
すると寡黙な黒づくめの画家が大きい真っ赤の画用紙を武人に向ける。
そこには真っ黒な犬に翼が生えたようなシルエットが描かれていて、翼の上には黒い筆記体の文字でこう書かれていた。
『Anti Dogs』と。
「反犬集団か!いいじゃないか。この集団にその名前を名づけた以上、犬から脱却しなければならないな」
武人はその画家からその新しいこの集団のエンブレムを受け取り、掲げた。
「二年後に『行動』を起こす。それまでにわしゃらは更に飛躍をしなければならない。われら、共に頑張っていこう!!ふんぞり返ってる権力にぎゃふんと言わせてやろうぜ!!」
集会が開催されてから、アンチドッグスは拡大を続けた。もしかするとこれは何かのキッカケだったのかもしれない。噂は噂を呼び、不満は期待に変わり週一で集会が行われる酒場には人が入らないほどになっていった。
誰かがネット上でアンチドッグスメンバー用の掲示板が立ち上がった。それから派生するように翼が生えた犬をトップ画にした様々なアカウントが人を勧誘し続ける。
誰かがテレビでこのアンチドッグスを取り上げた。そして政党を作った場合の支持率を都心の100人に聞いてみた、などという企画を打ち出した。
その支持率は86.5%、それは現在の内閣支持率を超えている。
これを危惧した政府は権力の名の元、弾圧を始める。
サイトの規制、メディアも手を返しまるで邪教かのような扱いで報道をし始めた。しかし、それは火に油を注ぐようにアンチドッグスの糧にしかならなかった。
そして時は流れ、アンチドッグスという集団は熟し、世界を喰らう怪物と化した。
その心臓部分である創立者は明日へと迫る『行動』の日を見通すように、人気のない小さな公園で灰色の瞳を夕日に向けて黄昏ていた。それをどこか不安そうな表情で見つめる女がいた。
「……たけさん」
「るーちゃん、どうかしたかい」
「明日が楽しみで、それでいて怖いの。何かが壊れていっちゃいそうな気がして」
「そんな悲しい顔をしないでおくれよ」
武人は瑠の歪んだ表情を見て、左腕で細身の瑠を抱きしめてポンポンと背中を軽く叩いた。瑠は厚い武人の胸に顔を埋めて少し安心したのか体重を預けていた。
「なぁ、るーちゃん」
「……どうしたの」
「わしゃスーツ着るの久しぶりなんだ、ネクタイ締めるの手伝ってくれないか」
武人は少し言うのが恥ずかしいのか、そんなことを言って瑠を上目使い気味に見た。瑠は驚いたように一重の瞳を大きくしてから、柔らかく笑う。そして瑠は武人のヒゲ剃りたての頬をそっと撫でて逆の頬にそっとキスをした。
「たけさん、大好き。大好きだよ……」
「あぁ、わしゃ幸せもんだなぁ」
そして『行動』の日。
都心のスクランブル交差点の封鎖を中心とした、交通機関が規制された。
そして警備員が道を開けるよう、両端に立っている。それに遮られつつも観衆は真ん中に見ようと警備員に叱られる一歩手前を維持して押し寄せていた。
するとけたたましい程のエレキギターのシャウトが鳴った。道の真ん中を歩いてきたのは一人のスキンヘッドだった。スピーカーを媒介にしたその音はビルに反響をする。その音は楽器の音色ではなかった。
それは一匹の犬の遠吠え。
その後ろからみずぼらしいボロ雑巾のような赤い布切れを黒の糸で縫合したような服を着た、軽く百人を越すほどの人数の男女が歩いてくる。格好とは裏腹にまるで軍隊のように整列をして行進をする。それもただの行進ではなくわざと音がなるように足首に鈴をつけていた。
それは一匹の犬の足音。
更にその後ろは犬に翼が生えたマークのついた旗を持つ集団が歩いてきた。しかし前の集団と違うところは歩くペースは人により個人差があるということだった。それは老人であったり車イスであったりと自力で歩くことさえままならない人達だったからだ。そして観衆の目に止まるように道の脇を通り、手を振ったり、お辞儀をしていた。
それは一匹の犬の身体。
そしていつもの車の音ではなく、鈴の音とギターの音が行き交うスクランブル交差点に集団は犬が丸くなるように輪になっていった。パレードの最後尾には大型トラックがのろのろと走行していた。そのトラックはスクランブル交差点で止まる。
その大型トラックには例の犬に翼の生えたシンボルが描かれていた。そのトラックの上には拡声器を持ったスーツの男が立っていた。よく見るとその男には片腕がなかった。
それは一匹の犬の心臓。
「今日はアンチドッグスのお話を聴きに来てくれてありがとう。わしゃがアンチドッグスの代表者、久木元武人だ。ちょっと話すから寝ないできいてちょーだい!!」
あまりにも公的なスーツが似合わない口調で、武人は拡声器を通して皆を見渡していた。にやっと笑っていた口元をきゅっと締める。
「わしゃらは弱者の代表としてここで主張をしにきた。大多数を守りたいとする社会の仕組み全てを変えろとは言わない。たとえば少数のいじめられっ子の為に学校の制度をぶっこわせとは言わないわけなんよ、です。」
武人は付け足した感がある、ですます調で話し続ける。
「しかし、それを見て見ぬをフリするなんて冷たいとわしゃは思う。だからこそ弱者はこの苦しさを理解してもらうため主張をし続ける必要があるし、社会はそれに耳を傾ける必要がある。相互に会話をし続けるべきなんだ。違うか、ふんぞり返ってるボケ共よ」
一番最後の武人の威圧する言葉に、スクランブル交差点は静まり返った。そしてその空間は『犬の言葉』をただ待ち続けていた。
「わしゃはアンチドッグスの代表として11つの福祉制度、教育などの法改正を求める。これを承諾するか否かはそちらに任せよう。しかし、国民を失望させないような答えを選んでいただきたい」
武人は大人数に対して話すのがあまり得意ではないようで拡声器を口から離し、一息入れた。そしてもう一度拡声器を口に当て、叫んだ。
「宇宙に縛られた、地球上全ての弱者達よ。惜しみない愛を!!てなわけでおひらき!!」
一人の警備員は口を半開きにしながらも、だらんとした両手を持ち上げパチパチと音を鳴らす。そして観衆が、アンチドッグスのメンバーが、歓声をあげ、拍手をした。
瑠はアンチドッグスの皆と共にトラックの真下にいて、武人を見上げた。武人は拡声器を口から離してふぅっと息をつく。
そして武人が後ろを向き、改造したトラックのボディの穴から見えるハシゴを見た時だ。
バンッ
「……は…………?」
武人は身体の中心部に衝撃を受け、思わずのけぞる。とっさに自分の身体を見ると心臓部分の服が破けているのがわかった。足元がおぼつかなくなりそのまま大型トラックから落下する。
武人は落ちている最中、ビルの奥の奥のほうで銃口と目があった気がした。思わず苦笑いをするしかない。落下した武人の身体は固いアスファルトに叩きつけられることはなかった。
たくさんの人達のぬくもり、自分の名を叫ぶ声。
そして、自分の愛しい人。
赤と黒がこれほどまでに柔らかくて優しい色だとは思わなかった。
武人は皆に一言だけ伝え、深い深い眠りに落ちた。
「おおう、11つの法のうち8つの法が改正されただって!!こりゃあまた飲み会をしなきゃですなぁー!!」
少し前、不良の根城として廃れていた酒場の店長が、新聞の小さな項目を目につけ嬉しそうに小躍りしていた。そして身体をカウンターに置いてあった皿にぶつけ、がちゃんと割ってしまった。
その騒音に、机で酒をたしなんでいた一人の女性が肩をすくめていた。その女性の左頬には生々しい傷痕が残っている。しかしそれを気にもしていないようで真っ赤なワインを口に含みため息をつく。
「全部改正しないあたりがやっぱり頑固よね」
その言葉に酒場の常連である老人がそうだそうだ、と同感していた。一方でそうか?と店長と同じ意見を持っているスキンヘッドの強面な男が首を傾げた。
「まぁどうあれ、お疲れ様会をしなくてはな。こればかりは赤字もいたしかたない」
店長がちょうどそう言った後、客を知らせる鈴が鳴る。
「ほら、主役のおでましだ」
「もう皆待ってるんだから、早くこっちきてよ」
この客達は、扉を開いた隻腕の男を見て嬉しそうに笑ったのだった。
武人は『あの時』、心臓を銃で撃たれた。常人であればショックで即死だっただろう。しかし武人は元軍人ということが幸いした。防弾チョッキをスーツの上に着ていたのだった。そして追撃を受けないため、わざと大型トラックから落ちたのだ。
「とりあえず死んだことにしといて」
それが直後に皆に伝えた言葉である。後々、瑠には散々泣かれてアンチドッグスの皆にはタコ殴りにされる始末だった。それでも武人がそれが嬉しすぎて泣き笑いしたのだった。
それから、アンチドッグスという集団は解散をした。それはメディアやネット上で大きく取り上げた。理由は『代表者の死』と推測されたが実際は違う。武人はアンチドッグスのメンバーにこれ以上は危険だから代表者を辞めてくれと頼まれたのだ。武人はその言葉を聞き、少し誇らしげな表情に頷いた。
「革命は集団が残り続けることではない。それにわしゃが代表者という名の支配者になったら、どうしようもないものな」
しかしアンチドッグスの意志は今を生き続けている。
武人が去った今もどこかで存在しているのかもしれない。
でも今はこの仲間達と酒を楽しみたい。
少しは自分自身も変えることができたかな。
もっと変えていけるかもな。
隻腕の男の革命はまだまだ、終わらない。
>END
ご拝読ありがとうございました!
題名の意味はわかっていただけたでしょうか(笑
REvolution-R、ちゃんとしてくださいね♫
そしてめかくしを読んでるそこのあなた!
あれどっかで見たことあると思った方、
大好きです。←