マグノリアと君
連載中の作品(BLですが)もよろしければ読んでやってください┗(^∀^)┛
魔法は、地味であればあるほどいい。私は、そんな魔法だけを研究し続けて、ついに15歳になってしまった。今日は、魔法学園への入学式である。
ブラウンの石造りの校舎は古めかしさを感じさせてとてもいい。そこに、魔法生物なんか居ればもっと最高だと思う。
私は、入学式を抜け出し校舎を徘徊していた。だってつまらないんだもの。聞かなくたってなんとかなる。
肩には相棒のフクロウ。「ホーホー」と鳴き、誰かが近づいてきたことを教えてくれる。
「ありがとう」
私はそう言って、学年ごとに色の違うネクタイを外した。
曲がり角を曲がった先、いたのは派手な赤毛の男子生徒だった。赤いネクタイをつけていて、私と同学年だとわかる。
なんだ、共犯か。
私はまた、ネクタイを付け直した。
「君もサボり?」
男の方から声をかけられた。
「まぁ、そんなところ」
「メグって呼んでいい?君ってマグノリアみたいだ」
それが彼、アスター・オリオンとの出会いだった。
彼は私の下の階のアパートに住んでいて、夜でも昼でもずっと人が出入りしている。正直に言うとうるさくって、それは他の住民も同じみたいだった。
「オリオンさん、何回言えばいいんだ!!」
「ごめんごめん、今度から気をつけるよ」
「このやりとりだって……!!」
あなただってうるさいわよ。
それは口に出さない。私とアスターの関係性といえば、同じアパートに住んでいると言うことと同じクラスということだけだった。それ以外に関わりなんてない。
「マグノリア……」
私はその花について調べて見た。白くて小さくって、なんだか地味だ。けれどそれがいい。彼は以外と見る目があるなと思った。
今日は魔法の練習の日。私は相変わらずの地味な魔法で教師の記憶にすら残らなかっただろう。対してアスターはド派手な魔法をドカンドカンと使う。
「あぁ、ちょっとやりすぎたかな?」
コテンと首を傾げても彼はちっとも申し訳なさそうじゃない。
「やりすぎに決まってるわよ」
ぼそりと呟いた私のそんな声を彼は聞き逃さなかった。
「メグ!僕の魔法見てた?」
どう答えたらいいかわからない。だって、彼は人気者で私は爪弾きものなんだから。周りの視線が痛い。けれど、答えなければもっとひどい事になるだろう。
「見てたわ。とっても素敵だった」
キュッと胸が痛くなる。こんな魔法、魔法じゃない。
「でしょ?魔法ってやっぱり、キラキラしたのがいいよね」
「そうね」
同意だけしておいた。アスターにはわからないのだろう。あなたの派手さが、私を傷つけるだなんて。
その日の夜も、彼の部屋はうるさくて眠っては起きるを繰り返していた。そんな時、視線を感じた。これは完全に私を狙っている目だ。魔法生物を見たのは動物園くらい。凶悪な姿なんて見たことがないけれど、人間だってもともとは野生の中で生きていたわけで、そういうことはわかってしまうのだ。
私は、意を決してカーテンを開けた。しかし、そこにいるのは動物は動物でも人間だった。
「アスター……」
「ごめん、メグ。下でちょっと喧嘩があって……」
ペロリと舌を出して彼は申し訳なさそうにする。
「つまり、私に匿って欲しいってこと?」
「そういうこと!」
「メグは話が早くて助かる!!」と、アスターは嬉しそうにしていたけど、こっちからしたらたまったものじゃない。
もしこれが、彼が女の子を口説くときの手段だったら、彼を相当高く評価しよう。しかし、彼はそうじゃなかった。私の部屋の、フカフカのカーペットが敷かれたところで横になり始めたのだ。
「それにしても、下はうるさいな」
アスターは天井を見上げたまま言った。
「誰のせいで」なんて意地悪なことは言わないけれど、睨んでおいた。彼にも、それは伝わったらしい。
「ごめんごめん。でも、直におさまるから………」
「それならいいけど」
私たちはしばらく、黙ったままでいた。2人の間に接点なんかない。会話なんて起こるはずもない。それを打ち破って、先に口を開いたのはやっぱりアスターだった。
「ねぇ、メグ。君ってなんでそんなに地味さにこだわるんだい?」
私の心臓をぐさりと突き刺すような質問。けれど、私にはその答えに自信があった。
「それには、私の人生を知る必要があるでしょうね」
「じゃあ、話して」
誰だって、自分の人生を語りたいものだ。自分は大変だったとか、偉かったとか、そういうことを含めて自分はすごいと言いたいのだ。そして、認めて欲しいのだ。だって、私がそうなんだもの。
「私は、昔、嫌がらせを受けてたのよ。髪だって本当は金色で、瞳の色も青だった」
「でも、いまは黒髪に黒目だ」
「そう、派手なものは受け入れてもらえないのよ。だから変えたの。全てを地味にした」
私が話せることはここまでだった。だって、これ以上話すと涙が溢れそうなんだもの。
アスターは「ふーん」と言った。納得したのかどうかわからない。怖い。けれど、これは夜の魔法だ。寝てない夜には誰だって、素直になれるものだ。
「でも君、地味でも受け入れられてない。いつも1人だ」
核心をつく言葉。それはあまりにも鋭利だ。私はなんだかいても立ってもいられないような、彼をどうにかしてやりたいような気持ちになって、つい思いついたままに口を開いてしまった。
「なるべく床を踏まずに、窓から出て行って」
私たちはこれっきり、関わることはなくなった。そして、アスターの部屋から騒音が聞こえることもなくなった。
それから日々は恐ろしく早くすぎていく。私はそろそろ、卒業してしまう。友達だってできた。もう、ここを離れるのだからいいだろう。私は、恥も何もかもを忘れる事にして一枚の手紙を郵便受けに入れた。
『En bas, le| petit chat s’amuse, 《小さなネコがはしゃいでる》|La nuit écoute ses pas légers.《夜はその小さな足音に耳をすませている》』
夜、学校から帰るとこんな詩が私の郵便受けに入っていた。
『|Ces petits pas sont le poème de cette nuit.《その足音が、今夜の詩なんだね》』
「久しぶり、メグ!!」
今夜のネコは、やっぱり窓から入ってきた。風になびき、彼の赤毛は揺れる。
「あの時はごめんなさい」
きっと私しか覚えていない、彼にとっては小さなことだけど、私は謝らないといられない。ちっちゃな私のちっちゃなプライドだ。
「いいよ、あれで僕もわかったことがある」
「なぁに?」
「自分で選んだら、孤独って自立になるんだね」
「なにそれ」
私は少し笑った。けれどそれをすぐに引っ込めた。だって彼は真剣だったんだもの。
「ねぇ、僕のマグノリア?」
「あなたのものじゃないんだけど」
「じゃあ、僕のものにならない」
彼はいっちょまえに握手を求めるみたいに手を差し出して、私の答えをまった。答えなんてもう、とっくに決まっている。あとはそれを口にするだけだ。
「嫌よ。私、あなたみたいな人、タイプじゃないの」
「やっぱりダメかー」
アスターはコテンとおでこを叩く。
「実は、初めてあった時から好きだったんだ」
「私は初めて見た時から嫌いだったわよ」
「……僕に会いたがってたくせに?」
「謝りたかっただけ」
「嘘つき」
指でおでこを突かれた。その瞬間、顔に熱が集まってくる。
酸っぱくて苦くて、反吐が出そう。だけど頭はとろけそう。これが、彼の一番派手な魔法ね。私は初めて、彼を知る気になれたのだ。
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