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楓月と孝俊_バレンタイン

楓月 11歳

孝俊 7歳

孝俊(たかとし)

リビングでごろごろとしていた孝俊は、その呼びかけに飛び起きた。

「しま?おかえり!!」

高学年の楓月(かづき)は、帰宅時間が孝俊よりも遅い。

けれどいつも小さく会釈をするばかりで、自分から孝俊に声をかけることはないのに。

驚いている孝俊の前で、楓月はパンパンに膨らんだ体操着入れから次々と可愛らしいラッピングの箱や小袋を取り出していく。

リビングテーブルの三分の二程に並べきると、今度はランドセルから同じようにラッピングされたものたちを取り出し、全てを並べきる頃にはテーブル全てが可愛らしいラッピングの物たちで埋め尽くされてしまっていた。

「すごっ!!バレンタインでもらったの?」

孝俊もいくつかもらったが、楓月が並べた量は桁が違う。

楓月は頷いた。

「甘いの、好きか?」

「好き!!」

声を弾ませて孝俊が答えると、楓月はホッとした顔をして、「全部あげる」と言った。

「え、でもしまを好きな子たちからでしょ?」

「知らない。話したこともない奴からもらっても、困るだけだ」

「じゃあ一緒に食べようよ。ぼく、今日のおやつまだだから。式に言って、お茶も入れてもらおう」

ー火は危ないから、使う時は式にお願いしてね。

家を留守にしている父母の言いつけどおり、孝俊は式にお願いをしてお茶を入れてもらう。

「こういう時は、とびきりいいお茶がいいんだって母さん言ってたんだ」

棚の奥のとっておきの茶葉を取り出し、式に渡す。


 式は、家を留守にすることが多い父母が東條家から譲り受けたもので、家の中で幼い孝俊の安全を守り、細々とした世話を焼いてくれるものだ。

それは折り紙で折った小さな紙人形のような形をしていて、すばしっこくてよく働く。

興味のなさげな楓月に代わり、孝俊はラッピングを次々と開けて式の出してくれたお皿に並べていく。

大きなお皿だったけど、そのお皿がいっぱいになったので、残りはテーブルの隅に寄せた。

「ツヤッツヤのピッカピカだぁ」

ーねぇ、しま。

楓月にも見てもらおうと振り返った孝俊は、ランドセルの中から本を取り出し、広げようとしているのを見て、慌ててとめる。

「待って待って!しま読み始めると終わんないじゃん。ほら、式がお茶入れてくれたよ。こっち座って食べようよ」

楓月の腕を引いてリビングテーブルの椅子に座らせ、孝俊もその隣に座る。

「しま、モテモテだねぇ。こんなにたくさんすごいなぁ」

お皿いっぱいに並べたチョコたちを眺めていたら、すっと伸びた楓月の手が一粒のチョコをつまんだ。

「ほら、食べなよ」

反射的に口を開けた孝俊のそこに、楓月がチョコを放り込み、口の中いっぱいに甘い味がじわっと広がった。

「ん〜!!」

頬に手を当て、目をキラキラとさせた孝俊はその甘さを噛み締める。

「よかったな」

そう言う楓月はお茶を飲むばかりで、チョコを食べる様子はない。

「甘いの、嫌い?」

「毎年だから、飽きた」

孝俊は目を丸くする。

「毎年!?こんなたくさんのチョコを毎年!いいなぁ。甘いの困らないね」

「そうだな。空腹の時は助かった」

孝俊は細長いチョコを選ぶと、それを楓月の口元に持っていった。

「これ、オレンジだよ。去年もらったから知ってるんだ。そんなに甘くないから、しまも食べれる」

「いや、俺は……」

「くだもの好きでしょ。オレンジ美味しいよ」

ぐいっと差し出せば、楓月の薄い唇が開いてそのチョコを口にした。

孝俊も同じチョコをパクリと食べて、チョコの中にオレンジが入ってるのに気づくとにこにこと言った。

「好きな味でしょ」

「……そうだな」

「うちの学校ね、手作りの飲食物は譲渡禁止だから大丈夫だよ」

次は何を食べようか、大皿に並べられたチョコをじっくりと見ながら、孝俊は言った。

「昔、なんか事件があったんだって。偉いさん?の子が多いし、アレルギーとかもあるから、手作りは駄目だってなってるの。しまほどじゃないけど、ぼくもよくなんかもらうんだ。母さんに聞いたら、大丈夫って言われたから、普通に食べてるよ。しまは九条の関係者って皆知ってるし、だから大丈夫」

楓月はぶんぶんと首を振った。

「違う。なんか入ってるとか、そんなじゃない。孝俊にそんなの、渡さない。ただ、こんなに食べれないから。甘いの好きだったら、孝俊が全部食べたらいいって思った」

孝俊はニッと笑った。

「うれしい!ありがとう、しま」

今度は四角いチョコを手に取って、口に放り込む。

甘じょっぱい。

塩キャラメルだ。

「ぼく、しまとこうして一緒に食べるのが一番好きかな。一人で食べるチョコ、あんまり美味しくないもん」

去年のバレンタインは、一人で食べた。

両手で抱えるほどにもらったけれど、全部、一人で食べた。

少しずつ、少しずつ。

一人で食べた。


 毎日待ってみたけど、おやつの時間に父母は帰ってこなかった。

仕方がないって、一人で食べた。

「邦孝さんたちは、忙しいの?」

「そうみたい。危なくなかったら、この家では何してもいいよ。父さんも母さんも、あんまり怒んない人だから。まぁ、父さんは怒んないっていうか、最近はほぼ家にいないかな」

「……そうか」

「東條のための九条なんだって。魔女のために生きて、魔女の為に死ぬんだって、じいちゃんがよく言ってる」

「だから、家にいないのか?」

「知らない。知らなくていいって、父さん言うから。ぼくが大きくなって、東條の魔女様に仕えることになったらわかるようになることだろうし、ぼくも今は知らなくていいかな」

「魔女……」

「次の魔女様は、ぼくと年が近いんだって。まだ会ったことないけど、ぼくが仕える魔女様はきっとその子だろうなぁ」

「嫌じゃ、ないの?」

「いや?うーん、そんなの思ったことないなぁ。次の魔女様がどんな子なのかは気になるけど。あ、バレンタインにチョコをくれる子だといいな。ぼくもとびきりのチョコを用意するから、交換ことかしてみたい」

でも、と孝俊は楓月の美しい横顔を見ながら思った。

ーしばらくは、しまとこうして2人で食べるチョコがいいな。




大遅刻バレンタイン

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