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転生市長の建国論 ~魔力不足の貧乏男爵領から始める、魔法と行政による異世界再興譚~ 気付けば一族で大陸を支配していました  作者: Nami


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第21話 塹壕の魔女と、流用された信号網


 作戦司令室のスピーカーから、ザザッ……というノイズ混じりの報告音が響く。

『――こちら警備隊アルファ。第一防衛ライン、敵主力と接触。……クソッ、雑音が酷いな! 次官、聞こえているか!?』

 ヴァネッサの苛立った声に対し、私はコンソールのつまみ(魔石の出力調整器)を微調整しながら答えた。

「感度が悪くてすまない。その無線は、元々『鉄道の信号機』を連動させるための有線ケーブルに、無理やり音声を乗せているだけだ。雨や断線の影響を受けやすい」

 そう、この通信システムは魔法でゼロから作ったものではない。

 鉄道建設の際、レールの下に埋め込んだ「魔力伝導杭」と、各駅を繋ぐ「信号用ケーブル」を流用している。

 受話器も、駅の発車ベル用スピーカーを改造したものだ。だから通信範囲は「線路沿い」に限られ、音質も最悪だ。だが、狼煙のろしよりは遥かにマシだ。

「文句は後で聞く。敵の装備は?」

『……厄介だ。「装甲戦闘馬車ウォー・ワゴン」だ。鉄板でガチガチに固めた箱を、巨大な軍用獣ウォー・ビーストに引かせている。矢も銃弾も弾かれるぞ』

 装甲馬車。

 中世の戦車とも言える代物だ。分厚い鉄板で覆われた馬車の中に弩弓兵(クロスボウ部隊)が潜み、移動トーチカとして迫ってくる。動力は魔導エンジンではなく、品種改良された巨大な牛のような軍用獣だ。

 古臭いが、質量と防御力は脅威だ。こちらの貧弱な装備では歯が立たない。

「正面からやり合うなと言ったはずだ。……『整地』の準備はできているな?」

『ああ。工事現場で散々やらされたからな。……おい、野郎ども! 土木工事の時間だ!』

 通信の向こうで、ヴァネッサの号令が飛んだ。

 ***

 国境付近の山岳地帯。

 モルントン領へと続く、唯一の未舗装の泥道。

「進めぇ! 踏み潰せ!」

 帝国軍の指揮官が、装甲馬車の上から鞭を振るっていた。

 ズシン、ズシンと地響きを立てて進む十数台の鉄の塊。それを引く軍用獣の鼻息が荒い。

 彼らの眼下には、恐怖で逃げ出したように見える警備隊の姿。

「逃げ足の速い鼠どもめ。駅まで一気に押し通るぞ!」

 先頭の馬車が、勢いよく泥道へと突っ込んだ。

 だが。

 ズブブブッ……!

 突如、軍用獣の脚が膝まで地面にめり込んだ。

 続いて、鉄板で重くなった馬車の車輪が、泥の中に沈んでいく。

「な、なんだ!? ぬかるんでいるのか!?」

「馬鹿な、事前の調査では固い岩盤だったはずだ!」

 慌てる帝国兵たち。

 彼らは知らない。

 昨夜のうちに、私が土木魔法部隊(シルヴィアの庭師たち)を使って、この道の地盤に水分を含ませ、「液状化」寸前の状態にしておいたことを。

 表面だけ軽く乾かしておけば、見た目は普通の道だ。だが、数トンの重量物が乗れば、底なし沼に変わる。

「動けん! 獣がパニックを起こしている!」

 鞭を入れても、軍用獣は泥に足を取られて暴れるばかりだ。

 車輪が空転し、巨大な車列が完全に停止した。

 ただの渋滞ではない。鉄の棺桶の列だ。

「今だ! 『発破』用意!」

 森の木陰から、ヴァネッサの声が響いた。

 鉄道警察隊員たちが構えたのは、銃ではない。

 鉄道工事でトンネルを掘るために使っていた、ダイナマイトのような形をした「魔石爆薬」だ。

「狙うのは馬車じゃない! 『車軸アクスル』と『脚』だ! 転がせ!」

 斜面から次々と爆薬が転がり落ちる。

 帝国兵がクロスボウで応戦しようとするが、鉄板の隙間からでは狙いが定まらない。

 ドォォォン!! ドガァァン!

 爆発音と共に、泥飛沫が舞い上がる。

 装甲を貫く威力はない。だが、木製の車軸をへし折り、軍用獣を怯ませるには十分だ。

 車軸を失った装甲馬車が傾き、道を完全に塞ぐ。後続の部隊も立ち往生だ。

『こちらアルファ。敵の車列、停止を確認。……へっ、所詮は生き物頼みの動力だ。足場を崩せばただの鉄屑だな』

 ヴァネッサの報告に、私は安堵の息を吐いた。

 最新兵器同士の撃ち合いではない。

 地形を利用し、相手の「足(移動手段)」を潰す。これぞ土木行政官の戦い方だ。

 ***

 私は通信を切ると、執務室に控えていたカテリーナに向き直った。

「戦況は?」

「前線での足止めは成功。でも、敵の数は多いわ。立ち往生している先鋒を捨てて、歩兵部隊が徒歩で森を迂回し始めている」

 カテリーナは、商会のネットワークを通じて入った情報を読み上げた。

 さすがに「死の商人」でもある帝国の皇女だ。情報収集が早い。

「物資はどうする? 警備隊の弾薬(爆薬)が尽きかけているわ」

「……カテリーナ殿下。貴女の商会の在庫を買い上げます。魔石、食料、それと……『油』だ」

「油?」

「ええ。安物のランプ用オイルでいい。あるだけ全部」

 カテリーナは一瞬きょとんとしたが、すぐに意図を察してニヤリと笑った。

「相変わらず性格が悪いわね。……いいわ。スフォルツァ商会の全在庫を提供する。代金は、戦後に貴方の体で……いえ、鉄道の株で払ってもらうわよ」

 彼女は即座に部下へ指示を飛ばした。

 

「商会の荷馬車を全部出しなさい! 前線へ物資をピストン輸送よ! 積み荷は『油』と『布』! 急ぎなさい!」

 街に残っていた民間商人たちも協力し始めた。

 彼らにとっても、帝国軍に略奪されるよりは、私に恩を売って戦後に便宜を図ってもらう方が得策だと判断したのだ。

 

 だが、時間稼ぎも限界が近い。

 歩兵部隊が森を抜ければ、いよいよ市街地戦になる。

 私は引き出しから、街の詳細な図面を取り出した。

 一見するとただの地図だが、そこには私が意図的に設計した「防衛ライン」が記されている。

「ハンス。最終防衛線まで後退する。……住民の避難は完了しているな?」

「は、はい! 地下シェルターへの誘導、完了しております!」

「よし。……駅舎を放棄する。敵を街の中へ引き込め」

 私は駅長室への直通回線を開き、最後の命令を下した。

 入り組んだ路地、行き止まり、そして地下水路。

 私が作ったこの街そのものが、巨大な迷宮ダンジョンだ。

「ようこそ、モルントン迷宮へ。……出口のない観光を楽しんでもらおうか」

 私は静かに、作戦司令室の灯りを消した。


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