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転生市長の建国論 ~魔力不足の貧乏男爵領から始める、魔法と行政による異世界再興譚~ 気付けば一族で大陸を支配していました  作者: Nami


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20/21

第20話 避難訓練と、最初の砲撃


 その日のモルントン領は、雲一つない快晴だった。

 春の陽気に誘われ、中央駅周辺の市場は王都からの観光客でごった返していた。

 平和そのものの光景。

 だが、正午を知らせる鐘の音が鳴り止んだ直後、街中に不協和音が響き渡った。

 ウゥゥゥゥゥゥ――ッ!!

 魔導サイレンの重低音。

 私が設置した「防災行政無線」による緊急放送だ。

『――訓練、訓練。これより大規模防災訓練を行います。領民の皆さんは、直ちに商売を中断し、指定されたシェルターへ避難してください。これは訓練です』

 スピーカーからハンスの声が響く。

 観光客たちは「なんだなんだ?」とキョロキョロしているが、領民たちの動きは違った。

 彼らは一瞬で真顔になり、手際よく屋台を畳み、店のシャッターを下ろし始めたのだ。

「おい、またかよ。領主様も心配性だな」

「へっ、地震なんぞ滅多に来ねぇのによ。……ま、サボると配給のチケットが貰えなくなるからな。行くか」

 口では文句を言いながらも、彼らの足取りは迷いがない。

 ここ数週間、私は「アメ(参加者への特別配給)」と「ムチ(不参加者への罰金)」を使い分け、徹底的に避難ルートを体に叩き込ませてきたからだ。

 執務室――いや、現在は「作戦司令室」へと改装された部屋から、私はその様子をモニター(遠見の鏡)で見下ろしていた。

「……領民の避難率は?」

「開始十分で八〇%を超えました。順調です」

 報告するのは、迷彩柄の戦闘服に身を包んだシルヴィアだ。

 彼女は今日、王女ではなく「現場指揮官」としてここにいる。

「観光客の誘導は?」

「そちらは難航しています。『せっかくの旅行が台無しだ』とクレームを入れる者や、面白がって動かない者が多数」

「……愚か者どもめ」

 私は舌打ちをした。

 だが、想定内だ。

 その時、司令室の赤いランプが激しく点滅した。

 国境地帯に配置したセンサーからの警報アラート

「通信入ります! 前線のヴァネッサ隊長からです!」

 通信士の叫びと共に、鏡の映像が切り替わった。

 映し出されたのは、土煙の中を疾走するヴァネッサの顔。背景には、爆発音と怒号が混じっている。

『――こちら警備隊アルファ! 訓練じゃない、本番リアルだ! 繰り返す、これは訓練ではない!』

 彼女の声が、室内の空気を凍りつかせた。

『グラドス帝国軍の先鋒、約二千が国境の山道を突破! 現在、モルントン領北部の森林地帯へ侵攻中! ……クソッ、速すぎる! 奴ら、魔導戦車を持ってきてやがるぞ!』

 魔導戦車。

 魔法障壁を張り、砲撃を行う移動要塞だ。やはり、本気で潰しに来ている。

 私は深呼吸を一つ入れ、マイクのスイッチを切り替えた。

 訓練モードから、非常事態モードへ。

「全職員に通達。……状況は『フェーズ・レッド』に移行した。ただちに訓練放送を中止し、本放送へ切り替えろ」

 私は立ち上がり、窓の外を見た。

 北の空に、訓練の煙ではない、どす黒い硝煙が上がっているのが見えた。

 ***

 ウゥゥゥゥゥゥ――ッ!!!

 サイレンの音色が変わった。

 短く、激しい断続音。空襲警報だ。

『緊急放送! 緊急放送! これは訓練ではありません! 北の国境より、敵軍が侵攻しました! 繰り返します、これは戦争です!』

 街の空気が一変した。

 ヘラヘラしていた観光客の顔から血の気が引く。

 遠くから響く「ドォォォン……」という地響きが、放送の内容が現実であることを告げていた。

「きゃあああああっ!」

「せ、戦争だと!? 嘘だろ!?」

 パニックが始まった。

 人々が駅へ殺到する。我先にと列車に乗ろうとして、将棋倒しになりかける。

「落ち着け! 押すな!」

 駅の改札には、すでに武装した「鉄道警察隊」がバリケードを築いていた。

 彼らは銃床で暴徒を押し返し、整然と誘導を行う。

「王都行きの臨時列車を出す! 老人と子供が優先だ! 金は要らん、チケットがなくても乗せる! その代わり、荷物は捨てろ! 身一つで乗れ!」

 元・御者ギルドの駅員たちが、怒号を上げて客を捌いていく。

 彼らは修羅場慣れしている。混乱の中でも、プロとしての仕事を全うしていた。

 ***

「……始まったな」

 私は司令室で、次々と入る戦況報告を聞いていた。

 敵の足は速い。あと一時間もしないうちに、この街の防衛ラインに到達するだろう。

「アレクセイ、私も出るぞ。前線で指揮を執る」

 シルヴィアが剣を佩き、私を見た。

「頼む。……ただし、無理はするな。敵の狙いは『鉄道の確保』だ。破壊工作に見せかけて時間を稼げ」

「承知した。……貴様こそ、死ぬなよ。この街の頭脳が潰れれば終わりだ」

 彼女は短く言い残し、風のように去っていった。

 私は残されたモニターに向き直る。

 画面の中で、美しいモルントン領の森が、敵の砲撃で焼かれていく。

 私が手塩にかけて育てた街。

 植えた街路樹、敷いた石畳、そして人々の笑顔。

 それらが今、理不尽な暴力によって踏みにじられようとしている。

 恐怖はない。

 あるのは、冷徹な怒りと、計算だけだ。

「……いいだろう、グラドス帝国。私の街に土足で踏み込んだ代償、高くつくと思え」

 私は手元のコンソールを操作し、街中に張り巡らせた「魔導防衛システム」のロックを解除した。

 行政官のペンは、剣よりも強い。

 それを証明する時が来た。

「総員、迎撃用意。……私の許可なく、一歩も通すな」

 ズドンッ!!

 街の北側に着弾した最初の砲弾が、開戦のゴングとなった。

 平和な建国物語は終わりを告げ、血と硝煙の防衛戦が幕を開けたのである。


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