想定外の課題について
「え、あの、どういうことなのでしょう?」
「ちょうど困りごとがあったのを思い出した」
それはユベール卿の魔法学校時代の友人からの相談だったという。
「魔王討伐から帰ってすぐに会った旧友が、顔を見せるなり相談し始めて……」
旧友ナゼル・ド・ブルジェは伯爵家の当主で、ユベール卿の従妹アデール・ド・オーベルジュとの結婚が決まっていたらしい。
けれども結婚式を一ヶ月後に迎えたある日、突然結婚できないと言ってきたのだとか。
ユベール卿の従妹は、師匠にとっては孫娘である。
「困った子よねえ」
師匠が面会に行ったのだが、誰とも会いたくないと言って取り合ってくれなかったようだ。
「理由は不明。話したくないと言っていたらしい」
そんな状況でも、ブルジェ伯爵はアデール嬢との結婚を望んでいるようだ。
「互いに想う合う、お似合いの二人だった。それがなぜ……?」
そんな二人の出会いはオーベルジュ大公家で行われた晩餐会で、ユベール卿がブルジェ伯爵に紹介がきっかけだったらしい。
そういう事情もあって、余計に気にしている状態だったという。
「現在、アデールは誰とも面会せずに引きこもっているらしい。そんな彼女と会って、どうにか結婚できないと言った理由だけでも聞き出してほしいのだが」
「あの、それが依頼ですか?」
「そうだ」
シール関係ないっ!!
心の中で頭を抱え込む。
「その、お師匠様やユベール卿と面会しないのに、赤の他人である私に会って、深い事情を話してくれるとは思わないのですが」
「だからこそ、達成できたらこのシール堂で働くと言っているのだ」
たしかに、ユベール卿がシール堂にいてくれたらとても心強いし、頼りにもなる。
けれどもこの課題は無理難題過ぎないか。
「例えば、アデールはお前が何者ならば面会するだろうか?」
「それは、そうですね……ユベール卿の婚約者とか」
「まあ、それは素敵なアイデアだわ!!」
師匠が瞳をキラキラ輝かせながら話に割って入る。
「しかし、未来のオーベルジュ大公であれば、婚約者の一人や二人、いらっしゃるのでは?」
「それが二十歳にもなる成人男性なのに、いないのよ!」
通常、貴族の結婚相手というのは親が決める。
けれどもユベール卿は父親であるオーベルジュ大公が選定した婚約者候補の女性陣が気に入らず、毎回大げんかしたのちに却下していたのだとか。
「ずーーーーっと選り好みしていて、婚約者を決めようとしていなかったのよね!」
「それは、結婚すれば魔法騎士隊にいられなくなると思ったから」
なんでも結婚後は、オーベルジュ大公の側近になって仕事を覚えるように命じられていたという。
「別に、父のしている仕事など、いちいちついて回らずとも覚えることはできただろうに」
もともとオーベルジュ大公はユベール卿が魔法騎士になることをよく思っていなかった。そのため、いろいろと理由を付けて辞めさせたかったのだろう。
「いや、私の事情はどうでもいい。たしかに、婚約者として紹介したいと言えば、アデールはしぶしぶだろうが面会するに違いないが……」
ユベール卿はちらりと私を見て、問いかけてくる。
「お前は、その、マケール・ド・ギースの婚約者ではないのか?」
少し気まずげな感じで聞いてくるのは、おそらく魔王討伐の旅でマケールとエヴリーヌがいちゃついているところを目撃しているからに違いない。
「彼との婚約は、昨日破棄されました」
「なんだと!? どうして!?」
「エヴリーヌ嬢と結婚するためだそうで」
「信じられん……!」
しかしながら、紛うことなき真実である。
「あの男がそこまで愚かだったとか」
マケールが愚かなことなんて、幼少時からよーーーく知っていた。
けれども結婚しなければならない、そのために豊かな暮らしが提供されていたんだ、とずっと自分に言い聞かせていたのである。
そんな彼との婚約が解消され、今は天にも昇るような気持ちだった。
「では、私の婚約者になることに問題はないと?」
「私はありませんが、ユベール卿があるのでは?」
「ある、というと?」
「結婚したいお方がいらっしゃるとか」
「それはない!」
心に想うお方はいないので、別に婚約者を立てるのはなんら問題ないようだ。
「まあ、一緒に店をやるにしても、婚約者同士であったほうが、変に勘ぐられたときに便利だろうし」
「婚約はその場限りのものではないのですか?」
「まあ、正式な婚約者が決まるまでは、続けてもいいだろう。お互いに」
「いいアイデアだわ!!」
師匠もユベール卿の作戦に太鼓判を押す。
本当にそれでいいのか、なんて思ったものの、本人がいいというので問題ないのだろう。
そんなわけで、なぜかユベール卿の仮の婚約者として、アデール嬢と面会することになった。




