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シールの魔女は婚約破棄されたので、魔女業に専念することにしました!  作者: 江本マシメサ
第一章 ある日、婚約者が勇者になって

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まさかの提案

「お祖母様、心配しなくても、職の当てはいくらでもある」

「心配だわあ。あなた、プライドが高いところがあるから、上手くやれるのかしら?」

「余計なお世話だ」


 なんでも魔法の研究機関から、以前より働かないか、という打診が届いていたらしい。


「まあ! 研究機関にいる魔法使いだったら、偏屈の集まりよ~」


 それに関しては心当たりがあるのか、ユベール卿は遠い目をするばかりで反論しなかった。

 ここで師匠がまさかの提案をする。


「魔法の研究者になるより、あなた、ここで働かない?」

「は!?」


 私も「は!?」と言いそうになったが、寸前で呑み込む。


「ずっと言っていたでしょう? このお店を継がないかって」

「ここは年寄りだけがやってくる商店だろうが。それで、暮らしていけるわけがない」

「そんなことないわよ~。あなたが使っている魔法剣の浄化シールも、うちの戦力商品だし」


 ユベール卿はハッとなり、剣に触れる。

 浄化シールは主に悪い存在ものが家に侵入しないよう、玄関扉などに貼るために常連さんが購入していた。

 けれどもユベール卿は武器である魔法剣の浄化をするために使っていたようだ。


「あなたが魔王討伐の旅に大量に持ち込んだ浄化シールは、メーリスが作った物なのよ」

「そうだったのか? 浄化力が上昇するだけでなく、持続効果も遙かに上がっていると思っていたのだが」


 魔王討伐の旅に行くユベール卿のために、師匠が特別に作ったシールだと思っていたようだ。


「そうでしょう? 彼女、私よりもずーっと優秀なシール魔女なのよ!」


 まさかの褒め言葉に、恥ずかしくなってしまう。


「その浄化シールなんだけれど、これまでは常連さんが邪気払いに家に貼るばかりで」

「そんなことをするためだけに、あの浄化シールを売っていたのか!?」

「ええ、そうよ。有効活用できていたのは、あなたくらいだと思うわ」

「信じられない」


 それに関しては、常連さんがお年寄りばかりなので仕方がない話である。


「販路が驚くほど狭いのよ。貴族に魔法のシールは広まったら、きっといい商売になると思うわ」


 ユベール卿は私をまっすぐ見て、問いかけてくる。


「お前はどう考えている?」

「私は――」


 貴族相手に商売をするのは難しいとわかっている。

 私はこの先も、師匠の常連さん相手に腰痛や肩こりを緩和するシールを売って日銭を稼ごうと考えていた。


「このまま、常連さん相手にシールを売って、ささやかな暮らしをするつもりでした」

「もったいない」


 ユベール卿はそう言うと、腰に下げていた魔法剣を引き抜く。


「あれ!?」


 それは水晶みたいな透明な剣で、見覚えがありすぎた。


「見てみろ。剣の先端が黒ずんでいるだろうが。魔法剣は生きとし生ける存在ものの負の感情に敏感で、少しでも触れるとこのように穢れた状態となる」


 そうなれば、浄化シールが必要になるという。


「メーリス、あなたは作った浄化シールを貼ってくれる?」

「はい」


 陳列棚から浄化シールを手に取り、魔法剣に貼る。すると魔法陣が浮かび上がって弾けた。その瞬間、先端に滲んでいた黒ずみが消えてなくなる。


「通常、こういった穢れを浄化するときは、聖なる湖に三日以上沈めておかなくてはならない。けれどもこの浄化シールがあれば、一瞬で穢れが消えてなくなる」

「ちなみにわたくしが作った浄化シールだったら、五枚くらい貼らないと浄化できないのよねえ?」

「ああ」


 驚いた。私の浄化シールにこんな有効方法があったなんて。


「それはそうとメーリス、この子の魔法剣を見た瞬間、驚いた顔をしていたけれど、どうしたの?」

「あ、そうなんです! 昨日、勇者パレードのさいに助けていただいたお方が、こちらの魔法剣を所持しておりまして、もしや助けてくださったのはユベール卿なのでは、と思ったものですから」

「あらあら、そうだったの?」


 師匠が問いかけると、ユベール卿はふいと顔を逸らす。

 どうやら間違いないらしい。


「ユベール卿、昨日はありがとうございました! おかげさまで、助かりました」

「なぜ、あんなところに一人でいた? どうして供を付けなかった?」

「それは、これからシール魔女として生きるので、なんでも一人でできるようにと思っていまして……」

「ほらほら、この子、うかつでしょう? 野放しにしてもいいと思う? 守ってくれる存在ひとが必要なのよ! あなたはここで、メーリスと一緒に働くべきだわ!」


 私のうかつな行動から、どうしてそこに着地するのか。

 ユベール卿も同様に思っているのだろう。

 顔を思いっきり顰めていた。


「ユベール、お願いよ。魔法の研究だったら、ここでもできるでしょう? わたくし、この子が心配なの。もちろんあなたも。二人が一緒にいてくれるのならば、安心してこのお店を任せられるわ」


 たしかに、用心棒的なユベール卿がいればありがたい。

 今後、マケールが私に絡んでこないとも言えないのだ。

 ただ、私の人生に彼を巻き込むわけにはいかない。


「お師匠様、無理強いはよくないかと――」

「わかった。ならば、一つ問題を解決してほしい」

「え!?」

「その件が解決できれば、ここで働くとしよう」


 まさかの展開に、くらりと目眩を覚えてしまった。


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