まさかの提案
「お祖母様、心配しなくても、職の当てはいくらでもある」
「心配だわあ。あなた、プライドが高いところがあるから、上手くやれるのかしら?」
「余計なお世話だ」
なんでも魔法の研究機関から、以前より働かないか、という打診が届いていたらしい。
「まあ! 研究機関にいる魔法使いだったら、偏屈の集まりよ~」
それに関しては心当たりがあるのか、ユベール卿は遠い目をするばかりで反論しなかった。
ここで師匠がまさかの提案をする。
「魔法の研究者になるより、あなた、ここで働かない?」
「は!?」
私も「は!?」と言いそうになったが、寸前で呑み込む。
「ずっと言っていたでしょう? このお店を継がないかって」
「ここは年寄りだけがやってくる商店だろうが。それで、暮らしていけるわけがない」
「そんなことないわよ~。あなたが使っている魔法剣の浄化シールも、うちの戦力商品だし」
ユベール卿はハッとなり、剣に触れる。
浄化シールは主に悪い存在が家に侵入しないよう、玄関扉などに貼るために常連さんが購入していた。
けれどもユベール卿は武器である魔法剣の浄化をするために使っていたようだ。
「あなたが魔王討伐の旅に大量に持ち込んだ浄化シールは、メーリスが作った物なのよ」
「そうだったのか? 浄化力が上昇するだけでなく、持続効果も遙かに上がっていると思っていたのだが」
魔王討伐の旅に行くユベール卿のために、師匠が特別に作ったシールだと思っていたようだ。
「そうでしょう? 彼女、私よりもずーっと優秀なシール魔女なのよ!」
まさかの褒め言葉に、恥ずかしくなってしまう。
「その浄化シールなんだけれど、これまでは常連さんが邪気払いに家に貼るばかりで」
「そんなことをするためだけに、あの浄化シールを売っていたのか!?」
「ええ、そうよ。有効活用できていたのは、あなたくらいだと思うわ」
「信じられない」
それに関しては、常連さんがお年寄りばかりなので仕方がない話である。
「販路が驚くほど狭いのよ。貴族に魔法のシールは広まったら、きっといい商売になると思うわ」
ユベール卿は私をまっすぐ見て、問いかけてくる。
「お前はどう考えている?」
「私は――」
貴族相手に商売をするのは難しいとわかっている。
私はこの先も、師匠の常連さん相手に腰痛や肩こりを緩和するシールを売って日銭を稼ごうと考えていた。
「このまま、常連さん相手にシールを売って、ささやかな暮らしをするつもりでした」
「もったいない」
ユベール卿はそう言うと、腰に下げていた魔法剣を引き抜く。
「あれ!?」
それは水晶みたいな透明な剣で、見覚えがありすぎた。
「見てみろ。剣の先端が黒ずんでいるだろうが。魔法剣は生きとし生ける存在の負の感情に敏感で、少しでも触れるとこのように穢れた状態となる」
そうなれば、浄化シールが必要になるという。
「メーリス、あなたは作った浄化シールを貼ってくれる?」
「はい」
陳列棚から浄化シールを手に取り、魔法剣に貼る。すると魔法陣が浮かび上がって弾けた。その瞬間、先端に滲んでいた黒ずみが消えてなくなる。
「通常、こういった穢れを浄化するときは、聖なる湖に三日以上沈めておかなくてはならない。けれどもこの浄化シールがあれば、一瞬で穢れが消えてなくなる」
「ちなみにわたくしが作った浄化シールだったら、五枚くらい貼らないと浄化できないのよねえ?」
「ああ」
驚いた。私の浄化シールにこんな有効方法があったなんて。
「それはそうとメーリス、この子の魔法剣を見た瞬間、驚いた顔をしていたけれど、どうしたの?」
「あ、そうなんです! 昨日、勇者パレードのさいに助けていただいたお方が、こちらの魔法剣を所持しておりまして、もしや助けてくださったのはユベール卿なのでは、と思ったものですから」
「あらあら、そうだったの?」
師匠が問いかけると、ユベール卿はふいと顔を逸らす。
どうやら間違いないらしい。
「ユベール卿、昨日はありがとうございました! おかげさまで、助かりました」
「なぜ、あんなところに一人でいた? どうして供を付けなかった?」
「それは、これからシール魔女として生きるので、なんでも一人でできるようにと思っていまして……」
「ほらほら、この子、うかつでしょう? 野放しにしてもいいと思う? 守ってくれる存在が必要なのよ! あなたはここで、メーリスと一緒に働くべきだわ!」
私のうかつな行動から、どうしてそこに着地するのか。
ユベール卿も同様に思っているのだろう。
顔を思いっきり顰めていた。
「ユベール、お願いよ。魔法の研究だったら、ここでもできるでしょう? わたくし、この子が心配なの。もちろんあなたも。二人が一緒にいてくれるのならば、安心してこのお店を任せられるわ」
たしかに、用心棒的なユベール卿がいればありがたい。
今後、マケールが私に絡んでこないとも言えないのだ。
ただ、私の人生に彼を巻き込むわけにはいかない。
「お師匠様、無理強いはよくないかと――」
「わかった。ならば、一つ問題を解決してほしい」
「え!?」
「その件が解決できれば、ここで働くとしよう」
まさかの展開に、くらりと目眩を覚えてしまった。




