勇者のパレード
マケールとエヴリーヌは馬車の窓から大きく身を乗り出し、観衆へ大きく手を振っていた。
エヴリーヌの頬は紅潮し、これまでにないくらいの愉悦に満ちた様子でいる。
途中、私に気付いたようで、嘲るように笑っていた。
まるで「ざまあみろ」と言わんばかりの表情である。
それだけでなくわざわざ馬車を停めさせ、逆の窓側にいたマケールを呼んで私を指差しながらヒソヒソと内緒話をしていた。
「ははは! 惨めなメーリスよ、ちゃんとパレードを見に来ていたようだな!」
「私達の姿を、しっかり目に焼き付けておきなさいな」
帰ったら速攻で忘れよう。そう胸に誓った。
「ああ、そうだ。近いうちに、闘技場で魔王軍の魔物と戦う見世物をするから、絶対に見に来いよな」
「マケール、それは止めたほうがいいかと」
「なんでお前にそんなことを命令されなきゃいけないんだ!」
「だってあなたは――」
「うるさい!! いいから、来いよな!」
誰が行くか!! と言いたかったものの、周囲から注目が集まっているのに気付いて口を噤んだ。
マケールだけでなく、エヴリーヌも私に物申す。
「メーリス・ド・リュミエール、あなた、今後社交界で大きな顔をしないことね!」
貴族学校時代のように、でしゃばった真似をしたら絶対に赦さない。そんな宣言をされてしまう。
私は今後、魔女業に専念するつもりである。これまでのように、お茶会や夜会に参加することはないだろう。
それをエヴリーヌに言うつもりはない。
知ったらまた、彼女は私が大切にしているものを台無しにするに違いないから。
「何も言い返す言葉もないようね! 本当に、惨めな娘だわ!」
「メーリス・ド・リュミエール! ここで平伏でもしたら、お前の過ちを赦してやるぞ!」
いったい何を言っているのか。頭がズキズキ痛くなる。
こんな事態になるなんて、想像もしていなかった。
一緒に行こうか、と言ってくれた兄の申し出を断らなければよかった、と心から後悔する。
メイドも同行を申し出てくれたのだが、これからはシールの魔女といて生きるため、一人で行こうとやってきたのだ。
「早く、早くしてみろ!」
「時間がもったいないわ!」
いつの間にか、周囲の人々からも平伏しろという声が高まる。
魔王を倒した勇者という立場が、人々の心を掴み、煽動してしまうのだろう。
逃げだそうにも、周囲は人、人、人。
どこかに行けるような状況ではない。
「ねえ、みんな、その女を無理矢理にでも跪かせるのよ!」
エヴリーヌがそう叫んだ瞬間、誰から私の頭を乱暴に掴んで強く押し始めた。
「きゃっ、や、止めてくだ――」
ふらりとよろつき、転んでしまいそうになった瞬間、誰かが私の頭を掴む手を払ってくれた。
「な、何をするんだ!!」
助けてくれたのは頭巾を深く被った、背の高い男性である。
外套は酷くボロボロで、袖や裾は解れていた。
「汚い手で触れるな」
「な、なんだと!?」
絡んできた男性は酔っ払っているようで、外套の男性に向かって拳を振り上げる。
けれどもひらりと躱され、地面にズサーーーっと倒れ込むような形となった。
起き上がろうとするも、外套の男性が背中を踏みつけたため、起き上がれないでいた。
「な、何をする!」
「それはこっちの台詞だ。善悪もわからない悪党が」
「お前のような若造に、何がわか――ヒッ!!」
外套の男性は剣を引き抜き、絡んできた男性の目と鼻の先に突き刺す。
すると、途端に大人しくなった。
外套の男性が引き抜いたのは、水晶でできたような美しい剣だった。
それを見て、すぐに魔法騎士だと気付く。
魔法騎士というのは、剣に魔法に付与して戦う。
そのため、普通の剣は持ち歩かないのだ。
外套の男性が足をどかすと、絡んできた男性は急いで立ち上がり、人混みをかき分けて一目散に逃げていった。
続けて外套の男性は水晶の剣を鞘にしまうと、高みの見物をしていたマケールとエヴリーヌを見上げて物申す。
「進行が大幅に遅れている。このようなところで無駄な時間を使うな」
「お、お前、生意気な!」
「そうよ! 誰に物申しているって言うの!?」
「うるさい、黙れ」
淡々とした物言いだったが、言葉に重みが含まれていたようで、マケールとエヴリーヌは黙りこむ。その隙に、外套の男性は馬車を動かすよう御者に命じていた。
お礼を言わなければ。
そう思っていたのに、外套の男性は黄金の馬車を先導するように急ぎ足で歩き始めた。
何も言えないまま、去って行ってしまった。
その後、続いてやってきたのは、疲弊しきったような様子を見せる魔法騎士達だった。
きれいな身なりをしたマケールやエヴリーヌと違って、全身ボロボロの出で立ちである。
彼らのほうが、正しく魔王討伐から戻ってきた勇者にしか見えなかった。
勇者であるマケールが乗った馬車は通り過ぎたからか、人々は散り散りになっていく。
彼らの健闘を称える者は、誰一人としていなかった。
続けて大きな檻に入った魔獣が馬車に引かれてやってきた。
三つの頭を持つ獰猛そうなケルベロスに、頭は狼で体は人間の姿をした黒人狼、額から角が生えた黒馬ダーク・ユニコーン――最後に現れたのは、純白のふわふわとした毛並みの幼竜だった。
これまでの魔獣は凶悪そうだったのに、ふわふわの幼竜だけかわいらしい上に、小さな体なので檻の中に丸くなっている。具合でも悪いのだろうか?
あれは――体毛がある唯一の竜〝モーティアルフリュケット・ドラゴン〟かもしれない。
稀少な幻獣の一種で、魔王軍にいるような魔獣ではないはずだが。
これらの魔獣は、先ほどマケールが話していた、闘技場で戦う魔王軍の一員なのだろう。
マケールが勝てるはずないのに……。
私の心配なんて、マケールやエヴリーヌは知ったことではないのだろう。




